「――好きです」

 たった一言をいうのに一年かかりました。
 ごめんね、臆病で。でも、勇気出したんだ。
 ちゃんと聞いて欲しい。

 僕が君を好きになった理由。
 ううん。理由なんてない。
 そんなの後でつけたものだもの。

 はじめて会った時、僕のこと笑ったよね。
 寝癖がついてるって。
 すっごいショックだった。
 初対面で普通言うか?  
 僕は君が嫌いになりました。

 君はそんなことも気付かずに、僕にいつも絡んできたよね。

 覚えてる? 林間学校の夜、肝試ししたよね。
 僕は暗いところが苦手で、始まる前からビクビク震えてた。
 怖いものは平気だけど、暗いところはダメだったから。 
 僕と組むことになった君は、「全然怖くないじゃん」といって、僕の手を掴んだ。
 僕の身体は震えが止まったんだ。
 だって、君の手が温かくて、嫌いだけど何故か安心したから。
 無理矢理引っ張る君には困ったけど、嫌な気持ちにならなかった。

 少しだけ、君のこと嫌いじゃなくなった。

 文化祭のこと覚えてる?
 僕と君は看板作る係だったよね。
 意見が対立して喧嘩したっけ。
 嫌な雰囲気で看板作ったけれど、帰り道で君から謝ってくれたよね。
 僕には出来なかったことだった。
 少し嬉しかった。

 僕も君に謝ることができたんだもの。
 そのきっかけをくれたのは君だった。
 おかげで僕は文化祭を楽しむことも出来た。
 僕は君を尊敬するようになった。

 いつしか僕は、君を目で追うようになっていった。
 目と目が合うと君は僕に微笑み返してくれたよね。
 僕の心臓はその度に早く鼓動を打つようになったんだ。

 恋だと自覚した。
 でも、毎日が辛くなった。

 他の誰かといるとき、僕は嫉妬した。
 その笑顔を独占したくなった。
 その手で触れられるのは僕だけだと。    
 でも、そんなこと言う勇気がなかった。

 告白したら変わるかも、そんな浮ついた気持ちを思い描く。
 すぐに断られた時のことを考えて、断念してしまう。
 毎日これの繰り返しだった。
 そんなことに気付かない君は、僕に屈託のない笑顔をいつも見せてくれた。

 最悪なことが起きた。
 君に恋人が出来た。
 告白されたって聞いた。
 僕はただ一言「おめでとう」って言った。
 家に帰ってから号泣した。
 枕が台無しになるほど泣いた、どうしてくれる。

 もう手に入らない。

 そんな思いで絶望だけしか残ってなかった。
 食事も喉に通らない。
 大好きだったカラオケも楽しくない。
 楽しいことなんて何も無くなった。

 君は恋人が出来てからも僕と普通に話をした。
 この鈍感、と何度君を恨んだことだろう。
 よりによって、僕に恋人の話をしなくてもいいじゃないか。
 少し意地悪してやった。
 どうやら僕のことで喧嘩になったらしい。ざまあみろ。
 それから僕はすぐに後悔した。
 君が真剣に悩んでいる姿を見て心を打たれたからだ。

 僕は精一杯励ました。恋人との関係も仲裁した。
 でも結局、君たちは別れてしまった。
 僕はもう一つ後悔した。君を傷つけたと。

 それから、僕は君を避けるようになってしまった。
 僕の傍にいたら、君がまた傷つくんじゃないかと思って。
 ――嘘だ。
 僕は僕自身が傷つくことを恐れたからだ。
 もうこれ以上、君の傍にいるのが怖くなったんだ。

 でも君はそんな僕を叱ったよね。
「いつまでも引きずるな」って。
 僕が恋人との別れを作ってしまったと後悔してるとでも思ってるのか。
 この鈍感。 

 君は以前と変わらず僕に絡んできたよね。
 二人で行ったカラオケ、超楽しかった。
 ご飯もお母さんありがとうってくらい美味しかった。 
 二人になったときに零れ出そうになる「好き」を抑えるのに必死だった。
 ちょっとしたことで触れたりする手にドキドキが抑えられなかった。


 言おう、言おうと思って、もう一年たっちゃった。
 僕はもう終わりにしたいんだ。
 この関係を壊したくない。
 そんな事考える臆病な自分にさよならするんだ。

 どんな答えだっていい。
 駄目なら諦める。
 君が新しい恋をしてるなら応援もする。
 その前に言わせて欲しい。

「僕はあなたが好きです。付き合ってください」



 ――返事が来ない。やっぱり駄目だったか。



 見上げると、君は目をきょとんとさせて僕の顔を見つめていた。

「へ? 俺らって、もう付き合ってたんじゃないの?」

 ああ、何でこんな男を好きになったんだろう。
 付き合ってると思ってたのか。
 だったら、言葉と態度で示してよ。
 手も繋がない、キスもしようとしない。
 たった一言の好きも言わないのだから、ただのお友達かなと思ってしまうだろ。

「ところでさ、その僕っていうの、いつやめるの?」

 話を誤魔化すのやめろ。
 僕の真剣な告白を返せ、馬鹿。

「いいでしょ。僕のキャラなんだから」

 答えちゃう僕も僕なんだけどさ。

「まあ、可愛いからいいけど」

 自然に言うな馬鹿。

「ところで返事は?」

「……」

 君はそっと僕に耳打ちしてくる。

「俺の方が先に好きになったのに、いまさらだろ?」 

 そういうのやめろ。
 後出しで完全勝利にもって行く気か。

 駄目だ。顔のにやけが止まらない。
 この顔見られたら完全アウトだ。

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