日野さとみは、真面目である。
 
 周りの女子達が流行りに乗るようにスカートをやや短くして、髪を茶髪や金髪といったものにしていく中で彼女は一人そういったことを見向きもせずに、真面目な彼女は勉強が趣味のように、勉強をしている気がするし、学外活動や資格といった事にも人一倍前向きに取り組んでいる姿をちょくちょく見かけている。

 不真面目なやつには、同じクラスの仲の良い女子にでもきちんと不真面目であるなら注意をしている。
 男子ともなると少し口調は強くなるが、大体注意をしている。

 そんな彼女であるからクラスの担任などの先生からの信頼は、クラスの中でも群をぬいていただろう。
 
 僕も大概真面目な部類ではあるといったら語弊はあるかもしれないが、目立たぬように図書館の本を読んだり、授業中に隠れて漫画を読む挙句の果てには寝ていることも珍しくはないといった具合に地味に授業態度が悪い。
 まぁそれ以上に周りの連中の授業態度が悪いというのがあるので、真面目な部類といっても差し支えないだろう。
 
 ただそれでも赤点はとらないように気をつけてはいたし、テスト前の勉強で平均点よりは上は当たり前のようにをとっていたし、調子がよければクラス内で一番を取る事もあった。
 
 彼女が僕をどう見ていたかは分からないが、心よくは思っていなかったのだろう、数度の班学習できつい口調で叱られていたし、彼女が分からないところを聞きに来る時も、実に顔がいやそうな顔をしていた。

 そこを指摘するとさらに渋い顔をしたが、それでも聞いた後お礼を言うのだからじつに真面目である。
 彼女が眺めの髪を左右に分けて三つ編みにして、デコが少し広めだったので、ひそかにデコ真面目と。心の中で僕はよんでいた。

 夏休みも終わり、国語の成績を左右する可能性が高いので、形だけでもと思いライトノベルで読書感想文を数枚書いて提出した時の事、国語の先生から学校全体で地区のほうに提出する感想文が不足しているので、これも出したいという話になった。

 ある程度の下心をもとに軽い気持ちでOKを出したところ、ある程度の書き直しをさせられた。
 
 別の授業の時間を使って図書館で一人、先生に指摘させられた所をふくめ書き直しをしているとそこに作文用紙をもち、日野さとみが自分の向かいの席にすわり書き始めた。

 班活動等で一緒になる事もあったが、二人が何もいわずに書いていると流石にきまずいと感じてしまう。
 ある程度書き直したところで、ようやくそんな気まずさをよそに、国語の先生がやってきて互いの作文を読んで、どう感じるかとどういう点が良いか等、互いに意見を言う事になった。

 気まずさの追い討ちかと思うが、流石に先生の提案を無理と返すほどの度胸はなく、黙々と読むことにした。
 
 日野さとみが、選んだのは読書感想文向きだなぁと思う戦争を題材にしたもので、内容はやはり読書感想文で優秀をとるぐらいのもので、戦争はいけないという事と命の大切さをどこの文章で感じたという、立派なものだった。

 どうだったと、先生に問われたので僕は素直にいった。

「真面目な感想文ですね」

 何か言ってくるのだろうかと、日野さとみのほうを見てみると、睨みつけているにしては少しばかり歪んだ瞳から涙がこぼれていた。
 
 何か言い返すはずの口からは、何も言葉はでずに、そのかわり小さい呻きの様な、嘆きのような音がもれていきついに日野さとみは泣き出した。

 真面目な感想文と、そう答えただけなのに、日野さとみに泣かれた、意味がさっぱりわからずに泣かれてしまった。

 全く持って分からない、なにか悪いことを言ってしまったのだろうかと不安とどうしようもない焦りがうまれてしまう。
 先生がちょっと待っててと、僕に言い残して日野さとみを図書館から連れて出て行った。

 十数分後、先生が戻って気くれた。

「急にゴメンね、日野さんちょっとクラスの女の子とトラぶっててみたいで、その時真面目とかつまらないとか色々言われて、無視とかされていたみたいで、そんな時に真面目って言われて泣いちゃったみたい」
「そうだったんですか」
「日野さんは落ち着いたら戻ってくるから心配しないで」

 いや、真面目が悪いという事ではないはずなんだけれども心の中でからかってしまっていた時もあったのでこっちも関係ないとは言い切れないし、それに僕の一言で嫌な事を思い出してしまったのは事実なのだから、どうにもバツがわるい。

「僕、教室戻ります」
「どこ行くのよ吉田」 

 少し目をはらした日野さとみは、先程泣いたはずなだがそれでもなおも気丈にとりつくろうように少し大きな声をだしながら図書室へと戻ってきた。

「まだ感想文の書き直し残っているでしょ、あんたのまだ読んでいないし、私の感想言っていないし」
「いやでも」

 お前大丈夫なのかとか、何も今日やらなくてもというのを言う前に、先程まで座った席にすわりこんだ。
 先生も目をぱちくりとさせながら、苦笑しながらも席に座った。

「早くしなさい」
「わかったよ」

 そんなんだから真面目って言われるんだデコ真面目と思い席に座りなおす。

 日野さとみは実に真面目である。
 悔しさを噛み締めて、それでも気丈に、前に進もうとする実に真面目である。

あまね/
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