僕と優也は一緒に住んでる。
約束は、『食事は一緒に摂る』だ。
だからその日、夕飯の時間にも帰ってこない事に不安を覚えたんだ。
連絡もないから、事故にでもあったんじゃないかって不安になって何度もメールしたり、電話をかけたりした。
何時間も待ったけれど連絡もない。
目の前にある冷たくなった料理を見つめながら不安のあまり泣いた。
それがその日だけなら良かった。
しかし、翌日もその翌日も、毎日続いた。
ある日、優也の部屋を掃除していると、プリクラ写真を見つけた。
一つは黒髪のロングヘアーの女の子と、もう一つはギャル風の女の子と。
いずれも、楽しそうに笑顔で写っている。
「僕とは写真も撮ってくれないのに」
そう、僕と優也は一枚も一緒に写真を撮ったことがない。
だから、とても悔しかった。
「僕と優也は付き合ってるんだよね? 僕は優也の恋人だよね?」
不安のあまり胸が張り裂けそうだった。
優也に抱きしめてもらいたかった。
でも、その日も優也は明け方に帰ってきた。
しかも、フレグランスな香水の匂いをさせて。
寝たふりをしていることに気づかない優也は、僕の頭を撫でると、隣に潜り込む。
僕は久しぶりに優也の温もりを感じながら声を殺して泣いた。


僕が家を出る決心をしたのは、冷たい雨が降っている日だった。
その日も早く帰ってきてくれるのを期待して、今日も料理を作る。
でもその期待は簡単に裏切られる。
「僕のどこがいけないの?
僕が男だから?」
冷たくなった料理を見つめながら、また泣いた。
優也の帰りが遅くなってから、どれくらいの月日が過ぎただろう。
優也は泣きはらした僕の目にすら気づくことがない。
僕は限界だった。
冷たくなった料理を捨てて、何事もなかったかのように朝ごはんを作る。
そして、一緒に食べれる事を期待して夕飯を作る。
こんな日々に疲れた。
だから、僕は置き手紙を書いた。
涙で文字が滲んでいた。

『優也へ

おかえり。
今日も遅かったね。
誰と一緒だったの? 黒髪のロングヘアーの彼女のところ?
それともギャル風の彼女のところ?
僕ね。知ってたよ。優也に彼女いるの。
優也、カッコいいし、なんでも出来るし。
僕、待つの疲れた。
まいにちね、一緒に食事できるの楽しみにしながら待つの疲れたの。
だから、もう、さよならしたほうがいいって思ったの。
ごめんね。

葉月』


手紙の側に鍵を置くと、わずかな荷物を持って玄関に向かう。
振り返って家の中を見渡す。
思い出すのは優也との楽しい日々。
休みの日には、一緒に料理をつくったり、海、遊園地、映画館にも行ったりした。
「優也…」
今すぐ帰ってきて抱きしめて欲しい。
そう思いながら玄関のドアを開けた。
「バイバイ、優也。
彼女と幸せにね」


行く当てなどなかった。
だけど、気がつけば優也と一緒に住む前まで待ち合わせをしていた公園に来ていた。
いつも座っていたベンチに座る。
「優也…優也…。
会いたいよう。
『さよなら』したくないよ。
優也、大好きだよ」
優也のことが好きで好きで嫌いになるなんてできない。
優也が好きだと言う気持ちが溢れ出して、涙が止まらない。
どれくらい泣いたのだろう。
「葉月! 葉月!
どこだ? 葉月、どこにいる?」
聞き間違いじゃないかと思った。
「優也? そんなはずは」
「葉月!」
近くで声が聞こえて、泣きはらした顔を上げると、目の前に優也が立っていた。
ぎゅーって優也に抱きしめられる。
「葉月、ごめん。
寂しい思いをさせてごめん。
ちゃんと話しておけばよかった。
本当にごめん。
もうすぐ葉月の誕生日だから、葉月を驚かせたくて、マスターに相談してバイトを増やしてたんだ」
優也の顔を見ると、優也も泣いていたのか涙の跡があった。
「じゃあ、あのプリクラの女の子達は?
香水の香りは?」
彼女だって言われるのが怖かったけれど、優也の言葉でどうしても聞きたかった。
「バイト先のお客さん。
上がるの待ち伏せされて、仕方ないから一回だけショッピングに付き合っただけ。
それ以上の関係はないよ。
でも、葉月に誤解させたのは俺だし、許してもらえなくても、葉月に嫌われても仕方ないと思う。
だけど、葉月とは、ずっと一緒にいたいんだ。
葉月、愛してる。
もう一度俺と付き合ってください」
優也は震える手でポケットから小さな箱を取り出すと、そっと開けた。
中に入っていたのはペアリング。
「優也。
僕でいいの?」
「葉月じゃなきゃダメなんだ」
「優也、僕も大好きだよ。愛してる。
僕こそごめんね。
優也に嫌われたって思って、優也から本当のこと聞くの怖くて、聞くに聞けなくて。
問い詰めて、さらに嫌われたらどうしようって。
僕でよければお願いします」
「葉月! ありがとう。
もう離さない。
もう泣かせたりしない。
一緒に幸せになろう」
僕は泣きながら頷いた。
今度は嬉しい涙。
左手薬指に光る指輪。
お揃いの指輪。
星降る夜のこの日、僕達は結婚した。
二人だけの結婚式。
僕達の再出発でもある。
優也と出会えてよかった。


優也、愛してる。

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