大きな身体でも
 大阪二十六戦士の一人大正喜平次は外見はかなり怖い、しかしその心は非常に優しく困っているものを見捨てることは決していない。
 特に捨て犬や捨て猫には優しく家はいつも多くの犬や猫達がいる。その世話にも余念がないが。
「また拾ってきたの?」
「そうだよ」
 呆れた顔になる母に答えて家に入る、その腕の中に小さな子猫がいる。
「誰か拾って下さいってね」
「段ボールに書いてあったの」
「それ見たら」
 とてもとだ、喜平次は母に話した。
「放っておけなくて」
「やれやれね」
「いいかな」
「いいってもう拾ってきたじゃない」
 母は口をへの字にしながらも我が子に返した。
「それならよ」
「いいんだ」
「ええ、ただね」
「世話はだね」
「他の子達と同じよ」
「ちゃんとするよ、病院にも連れて行って御飯もあげて」
「そうしなさいね、それにしても遂に猫も一ダースね」
 十二匹になったと言うのだった。
「犬は八匹で」
「多くなったね」
「全くよ、若しお父さんの稼ぎが悪かったら」
 こちらは問題なかった、父の仕事の稼ぎはいいのだ。
「あんたにもね」
「レスラーとしてなんだ」
「頑張ってもらわないといけなかったわ」
「高校を辞めてプロレスに」
「違うわ、高校を卒業したらよ」
「最初からそのつもりだけれど」
 喜平次はこう考えていた、高校を卒業したならば正式にプロレスラーになって格闘技界で生きそれと共に大阪二十六戦士として大阪の人達の為に戦うつもりなのだ。
「僕は」
「それでもよ」
「普通にやるよりもなんだ」
「頑張ってもらってたわ」
 父の稼ぎが悪ければというのだ。
「そうなってたわよ」
「そうだよね」
「ええ、まあとにかくね」
「この子もだね」
 喜平次はまだ小さい子猫、三毛のその子を見つつ母に応えた。
「ちゃんと世話するよ」
「それでその子雄なの?雌なの?」
「雄だったよ」
「それじゃあまたね」
「その時になればだね」
「去勢してもらいなさい」
「うん、そうするよ」 
 こうした話もしてだ、そのうえでだった。
 喜平次は新たに拾ったその猫の世話もした。彼は猫達だけでなく犬達の世話もしていた。とかくだった。
 彼等は真剣に愛情を以て犬や猫達と向かい合っていた。だがその彼のところにだ。
 彼にとっては実に嫌なニュースが入ってきた、それで思わず大阪二十六戦士が一同に集まった会議その話が出た場で思わず声をあげた。
「それは本当なのかな」
「本当だよ」
「この話はね」
「いじめをしながらね」
「そのいじめられっ子の飼っている猫までだよ」
「いじめてるんだよ」
 そうしたことをしている輩がいるというのだ。
「酷い話だよ」
「いじめの内容も酷いけれどね」
「殴ったり蹴ったり熱湯浴びせたりね」
「それで猫もやたら蹴って」
「死にかけたらしいよ」
「何とか助かったけれど」
「学校も見て見ぬふりでね」
 よくある話だ、厄介ごとを避けてだ。
「そうしているらしいよ」
「そしてね」
「もうだよ」
「いじめられっ子も自殺する寸前だよ」
「この前見るに見かねたいじめられっ子の友達が僕達に言ってきたけれど」
「これは何とかしないとね」
「よし、それは僕が解決するよ」
 喜平次は自ら申し出た。
「そうするよ、いいね」
「よし、じゃあね」
「このことは君に任せるよ」
「どうもあの岩清水が動きはじめてるらしいけれど」
 いじめっ子を制裁すると称して正義をかざして徹底的に嬲りものにしてこれ以上はない位に惨たらしい死を与える輩だ、大阪二十六戦士達にとっては忌むべき輩だ。
「この件の解決を頼むよ」
「いじめられっ子を助けてくれ」
「そして猫も」
「そしていじめっ子グループも成敗してくれ」
「ただ残酷なことはしないでくれよ」
 大阪二十六戦士は正義と平和、大阪のそれを守ることを義務としている。それでそうした人の道に反することは絶対にしないのだ。
「成敗するとしても一撃だ」
「それで済ませてくれ」
「学校のことは市長さんに話しておくよ」
「あの人にね」
「頼むよ、そっちは」
 喜平次は仲間達に応えた、こうしてだった。
 喜平次はすぐに連絡をしてくれたいじめられっ子の友人のところに行った。そのうえで彼に詳しい事情を聞いた。
「来てくれてすいません」
「いや、いいよ」
 喜平次はその友人に微笑んで返した。
「こうした時に何とかするのがね」
「大阪二十六戦士ですか」
「だからだよ」
 こう彼に答えた。
「お礼はいいよ、当然のことだから」
「そうですか」
「それじゃあね」
「はい、今からですね」
「詳しいお話を聞かせてくれるかな」
「わかりました」
 彼は喜平次の言葉に頷いてだ、そのうえで。
 喜平次にいじめのことを詳しく話した、すると喜平次は聞き終えると憤怒の顔になってそのうえで彼に言った。
「わかったよ、ではね」
「今からですか」
「行って来るよ」
 こう彼に答えたのだった。
「いじめを終わらせにね」
「具体的には」
「今からいじめっ子のところに行って来るよ」
「そうしてですか」
「聞いているとどうしようもない連中だよ、飼い猫までいじめるなんて」
「その子危うく死にそうだったんです」
 彼は喜平次にこのことも話した。
「本当に」
「そうだね、ではね」
「はい、今からですか」
「行って来るから」
 こう言ってだ、そのうえで。
 喜平次は彼の前を後にしてすぐにいじめっ子の家に一人一人出向いてそうしていじめっ子達の家族に後から話すと言って。
 彼等全員を捕まえそれぞれ問答無用でスクリューパイルドライバーで地面に頭から逆さまに突き刺していった、そのうえで怒りに満ちた声で叫んだ。
「いじめられる子供や猫の痛みがわかったか!」
 喜平次の仕置きは終わりいじめられっ子は以後は喜平次自らの指導でもういじめられない様に鍛えられることになった。そして。
 いじめっ子グループには末路と言うべき未来が待っていた、二十六戦士達が言っていた岩清水という男が実際に動き。
 彼等の所業や実名、学校や住所や親の会社に実名及び勤務先までネット上で公にして糾弾を募った。その結果。
 岩清水自らが率いる糾弾者達に徹底的に連日連夜に渡って学校や自宅に殺到されたうえ吊し上げられ全員一家無理心中に追い込まれた。その屍までネットで公開されて嘲笑われるという末路であった。
 そうした末路もあった、だがいじめられっ子も猫も救われ。
 喜平次はよしとした、そのうえでいじめられっ子と共にトレーニングに励む中で彼に尋ねた。
「そう、猫もだね」
「はい、今は普通にです」
「歩いて御飯を食べているんだね」
「そうなりました」
「それは何よりだよ」
 喜平次はこのことに素直に喜んで言った。
「君が助かってね」
「僕の猫もですね」
「助かってね」
 そうなってというのだ。
「本当によかったよ」
「はい、けれどもう」
「二度とだね」
「いじめられたくないです、そして」
「飼い猫もだね」
「はい」
 いじめられっ子は喜平次に強い声で答えた。
「もう二度とあんなことをされない様に」
「強くなるね」
「そうなります、喜平次さんみたいに」
 彼本人に言った。
「強い人になります」
「そうなってね、じゃあね」
「はい、こうしてですね」
「トレーニングをするんだ、心身を鍛えたら」
「もうですね」
「誰にもいじめられなくなってね」
 そうしてとだ、喜平次は彼に話した。
「猫もね」
「守れる様になりますね」
「力は誰かを守る為にあるものなんだ」
「自分自身を、大切なものを」
「そう、その為にあるものだよ」
「喜平次さんのお力もそうだね」
「僕達の力は暴力の為にはないんだ」
 このことを言うのだった、彼にも。
「間違ってもね」
「誰かを守る為にあるんですね」
「大阪を、そして君達をね」
「そうですよね、じゃあ僕も」
「守れる様になる為に」
「強くなります」
 喜平次に約束した、強い声で。
「絶対に」
「頑張るんだよ、僕だって最初から強くなかったから」
「喜平次さんもですか」
「修行して強くなったから」
「僕も修行すればですね」
「強くなれるから。頑張るんだよ」
「わかりました」
 彼は喜平次と共にトレーニングに励んだ。喜平次もその彼と共に汗をかいた。そのうえで家に帰って犬や猫達の世話をするが。
 その時にだ、家族にこう言った。
「自分より弱い相手を痛めつけるとかね」
「あんたはそれはしないね」
「そんなことをする位なら死んだ方がましだよ」
 こう母に言った、そしてだった。
 彼等の世話をしていった、一匹一匹公平かつ丁寧に。それが大阪二十六戦士の一人である彼の姿だった。


大きな身体でも   完


                 2018・2・21

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