故郷

地元に帰るのは何年ぶりだろう

明日香は新幹線に二時間乗ると
今にも廃線になりそうな小さな私鉄電車に乗り換え
よれよれの紙の切符を持ってぼんやりとしていた

山の中をどんどん進む電車

田舎過ぎて自動改札などない無人駅が明日香の育った街だ

地元の進学高校を卒業後
明日香は都会の大学に入った
そしてまあまあ大手のIT企業に就職
仕事に終われた日々であっという間に六年の時がたっていた

見覚えのある景色が迫る
ああ、肩が張る
何故か緊張した

電車が駅につくとゆっくりホームに降りた

懐かしいにおい
田舎の青いにおい

明日香は子供の頃に戻ったように
切符入れの箱に無造作に切符を投げ入れた

「まずはお墓参りに行こう」

明日香はそう呟いた

明日香の両親は早いうちに亡くなっていて
大学時代は少しだけ苦労した

とはいっても実の両親のお墓だ
また今度何時来れるかわからない

幸いにも墓は駅からそう遠くない場所にあった

「お花やさん…無いよなぁ」

そんな事は当然解っていた事だかとりあえず駅前を
キョロキョロしながら歩く

都会だったらすぐ見つかるのに
これだから田舎は…と少し思いながら前に進んだ

「あ、明日香?明日香じゃない!」

前から子供と手を繋ぎながら見覚えのある顔が歩いて来る

「…なっちゃん?」

「そう!菜摘よ!やだ!どうしたのーっ!」

「こっちこそ驚いたわよ!」

明日香は目を丸くしてわざとらしく声をあげた
菜摘に子供が出来ていた事は風の噂には聞いていた

キャラクターのTシャツにキャラクターのサンダル
を履いている菜摘
いかにも田舎のお母さんだ

「明日香、都会に出てからちっとも連絡くれないからビックリしたよー!」

「あは、そ、そうだね。何だかんだ忙しくてあまり連絡とってなくて…」


別に忙しくなんかなかった
ただ誰かと連絡するなんて思ったこともなかった

「これから晴美の家に行くんところなんだけど、明日香も行く?きっと驚くよ!」

「い、いや、実はこれからお墓参りに行くところなの」

「あ、ご両親の…?そっかぁ…」

菜摘は少し気まずい顔をした

「いくつ?」

「え?」

「なっちゃんの子よ、何歳?」

明日香は空気を変えようと
さっきから不思議そうに顔を見ている
子供の事を問いかけた

「6歳よ、恥ずかしがり屋で…」

「可愛いね、小さい時のなっちゃんに似てるよ」

「やめてよ、恥ずかしい。あ、晴美ん家にも子供がいるのよ!うちの子供よりは大きいけど…ちょっとわけありで…」

え、晴美にも子供がいるんだ?
それは初耳だわ

明日香はチラッと時計に目をやる

「でも数日は実家にいるから、時間があったら連絡するよ!」

明日香は夕方になる前にお墓参りに行きたかったので
菜摘にそう伝えた

「あ、そうなの?じゃ明日か明後日、ご飯でも食べようよみんなで!」

みんなで

いかにも田舎らしい

「いいよ!じゃあまた」

明日香は連絡するよなどと言いながら
晴美の連絡先も聞かず
足早にその場を去った

※※※

相変わらず花屋など無く
明日香はしかたなしに小さな商店で
枯れかかっている菊の花束を買い
墓へ出向いた

ひっそりとたたずむ両親の墓
しかし回りには雑草などはなくお寺の檀家さんが
良く手入れをしているのだなと明日香は感謝した

「あれ、新しいお墓じゃない?珍しい」

明日香の両親の隣にまだ新しい綺麗なお墓が建っているのに
気がついた

田舎は代々伝わる墓ばかり
きれいに輝く真新しい墓石は
ひときは目立っていた

「新谷家」

聞いたことない名字に
建てた人名を見る

「新谷晴美」

晴美ってあの晴美?

先ほどなっちゃんが「わけあり」と言っていたことを思い出す

旦那さん亡くなっているのかな?

明日香は塔婆を覗こうとしたが
ハッと思いとどまり辞めた

そんなことしたってなにもならない
知らなきゃ知らないままでいい

田舎に帰ってきて
つい野次馬根性が出てしまうところだった

やはりこの地で育った明日香
郷に居ては郷に従え?

冗談じゃない私は都会に出て自分を変えたんだ

明日香はもう一度両親の墓前に手を合わし
深く頭を下げた
 


M子
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