謎の古文書
 種羅の趣味は読書だ、それで時間があれば常にあらゆる本を読んでいるが人には天使と言われる種族なので多くの言語の本を読むことが出来る。
 それで和解して親しくなった人間の男女にある本を出されてこう言われた。
「この本の文字わかるかな」
「どうかしら」
 二人は種羅に怪訝な顔で尋ねた。
「何か凄い言語だけど」
「漢字でもアルファベットでもない」
「アラビア文字でもキリル文字でもないよね」
「かといって日本語でもないけれど」
「あれっ、この言語は」
 種羅はその文字を見て言った。
「神代文字だよ」
「神代文字?」
「何かしら、それは」
「古代の日本に使われたという文字だよ」
 種羅はその一見すると韓国のハングル文字に似ている非常に独特な文字を見つつそのうえで二人に話した。
「これは」
「そんな文字があったんだ」
「古代の日本には」
「うん、実は後世の創作だったという説もあるけれど」
 それでもというのだ。
「かつての日本にはね」
「こうした文字があったとも言われている」
「そうだったの」
「まさか漢字が伝わる以前に日本に文字があったなんて」
「知らなかったわ」
「あくまで一説にはだよ。けれど」
 それでもとだ、種羅はその神代文字を見つつ二人にさらに話した。
「問題は何て書いてあるかだね」
「そうそう、何て書いてあるか」
「それが問題よね」
「それで何て書いてあるのかな」
「ひょっとして」
 女が言ってきた。
「何か凄いことが書いてあるのかも」
「あっ、古代日本の隠された謎とか」
「神話の知られていないお話とか」
「邪馬台国とか皇室のこととか」
「何が書いてあるのか」
「凄いことが書いてあるのかも」
「その可能性はあるね」
 種羅もその書を手にしつつ述べた、見れば非常に古い書で紙ではあるが明らかに今とは違う紙の造りである。
 その紙に書かれた神代文字の文章を読みつつだ、種羅は二人に話した。
「まだざっと見ているだけだけれど」
「それで種羅君読める?」
「その文章読めるの?」
「神代文字っていうけれど」
「その文字の文章読めるのかしら」
「結論から言うと読めるよ」
 そうだとだ、種羅は二人に微笑んで答えた。
「安心してね」
「読めるの」
「そうなの」
「うん、ただ読み慣れない文字だから」
 だからだとだ、種羅は二人に真面目な顔で話した。
「解読するには時間がかかるよ」
「そうなんだ、実はある国立大学の図書館の奥にあって」
「何でも明治時代に手に入れたまま保管されて忘れられたものらしいの」
「僕達仕事でたまたまその大学の図書館に入って見付けて」
「お借りしたものだけれど」
「よくこんな書があったね」
 種羅にとってはその大学がどうしてこの書を手に入れたのかも気になることだった。何しろ伝説の文字で書かれているからだ。
「その大学に」
「奈良県か何処かにあったのかな」
「あそこの神社にでもね」
「古代の日本っていうと奈良県だし」
「飛鳥とかね」
「そうにしてもよくあったよ」
 本当にそのことが気になる種羅だった、それで彼も言うのだった。
「だからそれだけに若しかしたら」
「凄いことが書かれているかも知れない」
「そうなのね」
「うん、解読しがいがあるよ」
 解読する方にもと言ってだ、そしてだった。
 種羅は時間をかけての解読にかかった、二人は今はその解読を待つだけだった。種羅はその文章の解読を進めていったが。
 数日後解読し終えてだ、二人にその解読した文章を現代の日本語にしたものを見せたが二人はその文章を見て拍子抜けした。
「これ只の愚痴じゃない」
「今時の若い者や嫁はなっていないとか」
「天気が悪いとか奥さんがどうとか」
「そんなことばかり書いているじゃない」
「そうだね、僕も解読してね」
 解読した種羅も言うのだった。
「拍子抜けしたよ」
「そうだよね」
「これじゃあね」
「折角の伝説の文字なのに」
「愚痴ばかり書いていたら」
「まああれだね」
 ここでこうも言った種羅だった、今度はやれやれといった顔になっている。
「今も昔もね」
「人の言うことや考えることは同じ?」
「そういうことかしら」
「ネットの掲示板に書き込む様なことだけれど」
「何時でも思うことなのかしら」
「そうだろうね、しかし神代文字のことは知っていたけれど」
 その文字のことも言う種羅だった。
「はじめて読めたことは嬉しいよ」
「そのこと自体はよかった」
「種羅君にとってはそうなの」
「うん、確かに書かれていることはあれだったけれど」
 どうにもといってもというのだ。
「それでもね」
「じゃあこのことはよしとして」
「喜んでいるのね」
「うん、いいものを読ませてもらったよ」
 神代文字を読めたこと自体はとだ、種羅はこのこと自体は喜んでいた。だが彼はこの時知らなかった。
 神代文字には不思議な力があり解読する度に何と彼の種族には一文字ごとに寿命を一年延ばしてくれていることを。そして文章を読み終わった時奇跡が起こることを。その奇跡で彼は生き返った姉と再び共に生きられる様になった。そうした意味でも彼にとって素晴らしいことだったがこの時の彼はまだこのことは知らなかった。


謎の古文書   完


                2018・8・19

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