マジピンチな時には
 今井つつじは皆からいつも人が困っていると冗談で茶化すと思われている、それはこの時もだった。
 あるクラスメイトであり友人でもある男が宿題を忘れた時つつじは彼に笑ってこう言った。
「立たされるな」
「おい、そこでそう言うのかよ」
「駄目か?」
「俺今ピンチなんだけれどな」
 言いながら今更ながら宿題をやっている。
「それでもかよ」
「間に合わなかったからアウトだな」
「その時は覚えてろよ」
「ははは、立たされてからの話だな」
 こう言うつつじだった、しかしだった。
 その友人は宿題を終えてことなきを得た、その時つつじは何も言わなかった。
 そして家でだ、妹が飼っているオウムにこんなことを言っていた。
「オンドゥルウラギッタンディスカー」
「オンドゥルウラギイタンディスカー」
 オウムは彼の言葉をそのまま言っていた。
「オンドゥルウラギッタンディスカー」
「よし、次はオデノカラダハボドボドダ」
「オデノカラダはボドボドダ」
「ウゾダドンドコドーン」
「ウゾダドンドコドーン」
「オレハクサムヲムッコロス」
「オレハクサムヲムッコロス」
「今度は何教えてるのよ」
 その妹が彼に言ってきた。
「黙って見てたら」
「ああ、ちょっとオンドゥル語をな」
「何それ」
「面白いだろ」
「全然面白くないわよ」
 妹は兄にこう返した。
「全然ね」
「昔ネットで流行って今も使われてるぜ」
「そんな言葉あったの」
「昔の特撮番組であってな」
「それでこの子に教えてるの」
「ああ、面白いからな」
「あまり変な言葉教えないで」
 飼い主としてだ、妹は兄に注意した。
「全く、変な言葉ばかり教えて」
「じゃあオンドゥル語教えたら駄目か」
「止めてね」
 実にはっきりした返事だった。
「もう二度とね」
「やれやれだな。それじゃあな」
「そうよ、オンドゥルかオンドルか知らないけれど」
 妹にとってはそうした言葉はどうでもいいことなのでこう返した。
「二度とね」
「この子に教えたら駄目か」
「今度教えたら怒るわよ」
「折角他にも教えようと思ったのにな」
「オンドゥルウラギッタンディスカー」
 まだ言うオウムだった、つつじはこうした時もふざけていて家でも妹を中心にいつも冗談ばかりと思われていた。
 だがある日のことだ、学校の体育の授業でだ。
 クラスメイトが足を挫いた、するとすぐにだった。
 つつじは彼に肩を貸してだ、真剣な顔で言った。
「保健室行こうな」
「自分でも歩けるよ」
「いや、無理するな」
 いつもとは違う真剣な顔で言うのだった。
「結構痛そうだからな」
「それでか」
「ああ、肩貸すからな」
 それでというのだ。
「今からな」
「保健室か」
「まずはそこで診てもらえ、そしてな」
 それからのことも言うのだった。
「悪かったらな」
「病院もか」
「行け」
 こう言ってだ、そしてだった。
 つつじは自分が肩を貸して担ぐ形になって友人を保健室まで連れて行った、その後で友人に礼を言われたが笑顔でこう返すだけだった。
「いいさ、お互い様さ」
「いいのかよ」
「お礼言われる様なことはしていないさ」
 こう言うだけだった、そうして何もなかったかの様に授業に戻った。
 妹が風邪をひいた時は学校から帰ってすぐに看病した、自分で鶏肉や野菜が沢山入ってよく似込まれた雑炊を作って差し出した。
「じっくり煮込んで消化にもいいしな」
「だからなの」
「薬も買って来たからな」
 風邪薬、それをというのだ。
「食った後は飲んでな」
「そうしてなの」
「ああ、よく寝ろ」
 ベッドの中に寝ている妹に言った。
「そうしたら治るからな」
「有り難う」
 妹は兄に言った。
「本当に」
「お礼はいいさ」 
 妹にもだ、つつじは笑って話した。
「こうした時はお互い様だろ」
「だからなの」
「ああ、雑炊食えるだけ食ってな」
「お薬も飲んで」
「お風呂入られるか?」
「風邪にお風呂いいの」
「じっくりあったまるならな」
 それならというのだ。
「いいからな」
「だからなのね」
「ああ、お風呂連れて行こうか」
「立って歩くこと位出来るから」
 そこまでの体力はあるとだ、妹は兄に答えた。
「安心して」
「だといいけれどな、お風呂入ったらちゃんと身体を拭いてな」
「着替えもしてよね」
「よく寝ろよ」
「ええ。そうするわね」
 妹は兄にベッドの中から応えた、そうして二日後風邪が治ってから母に対してこんなことを言った。
「あの、お兄ちゃんだけれど」
「風邪の時はね」
「私が前に風邪ひいた時もだったけれど」
「そうよ、あの子は普段ふざけていても」
 母として自分の子供はよく知っていてだ、そのうえで言うのだった。
「誰かが本当に困っている時はね」
「ああしてなの」
「真剣にね」
「助けてくれるのね」
「そうよ、ちょっと困っている時は茶化すけれど」
 それでもというのだ。
「本当に困っている時は」
「助けてくれるのね」
「ああして真剣にね」
「そうなのね。普段はね」
 妹は普段の兄のことを思ってこうも言った。
「いい加減でふざけてるのに」
「そうした子なのよ。それで風邪どう?」
「すっかりよくなったわ」
 笑顔でだ、妹は母に答えた。
「熱は下がったし身体の調子もいいし」
「気分もいいわね」
「本当にね」
 すっきりとした笑顔で言うのだった。
「よくなったわ、お兄ちゃんがずっと雑炊作って食べさせてくれてお薬飲ませてくれて」
「お風呂入れとか色々アドバイスしてくれて」
「かなり酷い風邪だったけれど」
 それでもというのだ。
「それがね」
「よくなったわね」
「ええ」
 実際にというのだ。
「お陰で、けれど」
「お礼はよね」
「いいって言われたわ」
 母にこのことも話した。
「それはってね」
「そうした子なのよ、お礼を言われてもね」
「それはなの」
「いいっていうのよ」
 こう娘に話した。
「これがね」
「それはなのね」
「いいって言って」 
 そしてというのだ。
「見返りとかは求めないの」
「変なの」
 妹は母の言葉に思わず呟く様に言った。
「普段は茶化してお礼を言ったらそうって」
「あれで繊細な子だから」
「それでなの」
「そうなのよ」
「本当に危ない時は助けてくれ」
「そしてね」
 そのうえでというのだ。
「お礼はいいのよ」
「ううん、本当に有り難いからお礼を言ってるのに」
「それでもよ。だからあんたは心の中で感謝してね」
 そうしてというのだ。
「お兄ちゃんと兄妹でいるのよ」
「これからも」
「ええ、じゃあもうすぐ朝御飯だから」
 母は娘にあらためて日常の話をした。
「これから御飯出してお父さんとそのお兄ちゃん起こしてくるわね」
「わかったわ、それじゃあ手伝うわね」
「そうしてね」
「オデニマカセロパンツハワタサン」
「オデニマカセロパンツハワタサン」
 ここでそのつつじとオウムの声が聞こえてきた。
「オデニマカセロパンツハワタサン」
「よし、また一つ覚えたな」
「あっ、また変な言葉教えてる」
 妹は兄の仕業に目を顰めさせて述べた。
「止めてって言ってるのに」
「あれもまたお兄ちゃんなのよ、あんたのね」
 母は怒る娘に笑顔で話した、全てをわかって受け入れている母の笑顔はそうしたものだった。しかし。
 妹はそれでもだ、頬を膨らませて言うのだった。
「けれどああしたところはね」
「嫌なのね」
「変な言葉ばかり教えるのは」
 オウムにというのだ。
「本当にね」
「困るのね」
「いざって時は感謝するけれど」
 本気で助けてくれる彼にはだ。
「けれどね」
「それでもよね」
「ああした時は困るから」
「けれどそれもお兄ちゃんってことで」
「そういう人ってことで」
「わかっていてね」
「そうなる様に努力するわ」
 これが妹の返事だった、だがすぐ兄のところに行って注意した。
「止めろって言ってるでしょ」
「あっ、元気になったな」
「なったけれど止めてね」
 あくまでというのだ。
 そうして兄を朝食の場に連れて行った、父の方は母が起こした。妹はオウムのことで怒りながらも看病をしてくれた兄には心の中で感謝をした。そうして朝食を食べて学校に行くのだった。


マジピンチな時には   完


                  2018・8・23

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