「ウチ、貧乏神!」
「あたし疫病神!」
「私は……死神」
「「「3人揃ってユニット『樹海ガールズ』♪」」」

 何それ? 縁起でもねぇ――っ!!

「早速この冬の新曲『樹海でGood☆Night』いっきまーす!」
「やめんかっ不謹慎な!」
「それじゃ一発芸!『FXで一千万円溶かした人の顔』~」
「いやそのネタ、もう旧いから……」
「あによぉ~。お兄さん、ノリ悪ーい」

 一転してふくれっ面になった樹海ガールズが俺に詰め寄ってきた。

「これだからイヤなのよねー、非モテ男って」
「いーじゃん。さっさと取り憑いて身ぐるみ剥いじゃおーよ♪ キャハハハ!」
「ひっ!? ち、近寄るなー!」

 だが迫り来る貧乏神と疫病神は、ふいに足を止めて互いに顔を見合わせた。

「……ダメじゃ~ん。この人、金運、女運、出世運もまるでなし!」
「取り憑くだけ時間の無駄よね~」

 そういうなり、クルッと踵を返して歩み去ってしまった。

「えええっ? 貧乏神や疫病神にさえスルーされちゃうの? 俺って」
「私ならお力になれますが……」
「え? あ、うん。気持ちだけ貰っとくから……アハハ」

 最後までつきまとう死神の少女からさりげなく逃れると、俺は全ての元凶であるガバーンの姿を捜した。
 ……って、いつの間にか缶ビール開けてTVの深夜バラエティーなんか視てやがる。

「なに呑気にくつろいでんだ! とにかくこいつら早く帰らせろ。近所迷惑だし、このままじゃクリスマス撲滅の前に俺がアパートから追い出されるだろが!?」
「ん~? 汝がそういうなら、帰らせんでもないがの~」

 ほろ酔い加減の悪魔の手に、手品のごとく一枚の書類が出現した。

「『魂譲渡契約書』……だと?」
「うむ。出張パーティーを気に入って貰えなかった以上、広告どおり汝の願いを叶えようぞ。死後の魂と引き替えに」
「ひょっとして……まだ諦めてなかったのか? 俺の魂」
「我が輩とていつまでも無職というわけにいかんからな。魂の1個も手土産に魔界で再就職を――」
「もういい、貴様なんかに頼らん!」

 俺は契約書をビリビリ引き裂くと「パーティー会場」の方へとって返した。

「免責条項は確認しました? 生命保険は加入して1年未満だと自殺じゃ保険金降りませんよ」
「あらやだ。まだ半年しか経ってないわぁ」
「そういう時はですね、なるべく高級そうな車目がけて――うぷ?」

 自殺志願の女性に怪しげなアドバイスを送る死神の口を塞ぎ。

「残金3523円? シケてるわね~」

 未練がましく俺の部屋で金目の物を漁る貧乏神の手から財布を奪い返す。
 だがいかんせん、俺1人の力じゃこの場を収拾できそうにない!

「うわあああ! 誰か何とかしてくれ~~!!」
『ピンポーンピンポーン♪』
「こ、今度は誰だ?」

 線香の煙が濛々と立ちこめるリビングを通り抜け、俺が再びドアを開けると。

「メリー・クリスマス!」

 明るく挨拶してきたのは、歳の頃17、8。スタジャンにホットパンツ姿のボーイッシュな美少女だった。
 見た目こそ人間の女性と変わらないが、ちょっと吊り目気味で耳の先も尖り、口許から2本の八重歯を覗かせたその少女の名はピエルカ。
 ガバーンの姪で、2月に知り合ってから度々俺のアパートに遊びに来る悪魔の女の子だ。
 といっても目的は同じ悪魔の麻雀仲間を引き連れ、俺の部屋で卓を囲むためだが。

「ピエルカ? ええと、今夜は取り込み中で、麻雀はちょっと……」
「違うわよー。今夜はクリスマスイブじゃない? いつも世話になってるショースケんちでパーティーやろうと思って♪」

 そういってニパっと笑った彼女の手には、シャンパンやらお菓子、フライドチキンなどが一杯詰まった買い物袋が提げられている。
 彼女が連れてきた友人の男女(人間に化けて人界で生活する悪魔たちだ)も、同じく手に手に飲食物やパーティーグッズを抱えていた。

「何の騒ぎ? あ~分かった。また叔父さんが何かしでかしたんでしょ?」
「ご名答……」

 ピエルカは部屋の中を一通り見渡すと、

「ま、大体状況は分かったわ。これじゃパーティーもできないから、ちゃっちゃと片付けちゃいましょ☆」

 仲間たちと共に室内に突入。

「ほらほら、悩める衆生を救うのがお坊さんの役目でしょ?」

 自殺志願の女を住職へ押しつけ、

「アンタたちアイドル志願? じゃ、これで歌って見せてよ」

 魔法で取り出したカラオケセットを見せると、樹海ガールズの3人娘は我も我もとマイクを握って歌い出す。
 そんな調子で、5分と経たぬ間にクリスマス撲滅軍団をおとなしくさせてしまった。

「まー、ざっとこんなモンよ♪」
「さすが悪魔っ子……」

 ちなみにガバーンは勝手に酔いつぶれて鼾を立てながら眠り込んでいたので、そのままアパートのベランダに放り出し雨戸を閉める。

「あ、ケーキだ! ショースケ、気が利くぅ♪ この時間じゃどこも売り切れで買えなかったのよね~」

 俺が買ってきたクリスマスケーキを中心に菓子や料理を並べ、遅ればせながらのクリスマス・パーティーが始まった。

「じゃー、改めてメリー・クリスマス!」

 俺の隣に座ったピエルカが、シャンパンを注いだグラスをかかげ乾杯の音頭を取る。
 仲間の悪魔たちも一斉にクラッカーを鳴らし歓声を上げた。

「でもピエルカ、おまえ悪魔だろ? クリスマスなんか祝っていいのか?」
「う~ん、アタシ宗教とかそーゆーの、別にこだわんないから……」

 悪魔の少女は小首を傾げ、

「でもさ、名目は何でも楽しいじゃない? こんな風に友だちみんなでお祝いするのって」
「友だちかぁ……」

 いわれてみれば、そうだ。
 別に彼女じゃなくても、クリスマスイブなら気の合う仲間同士で集まり、大いに騒いで楽しめば良かったのだ。
 神様でも何でも構わない。
 今宵聖なる夜を、無事みんなと一緒に過ごせることに感謝しつつ。
 ふと思いついた俺はスマホを取り上げた。

「どこにかけるの?」
「いや、今夜一緒にバイトした倉見の奴に……多分、あいつも今夜は独りで過ごしてるだろうから誘ってやろうかと思って」
「へぇ~、友だち思いなんだぁショースケって。アタシ、そういう人間って嫌いじゃないよ?」

 少し酔ったのか、ほんのり頬を紅くしたピエルカが俺に寄り添ってくる。
 なぜだか俺までカッと顔が熱くなり、皿に切り分けたケーキを照れ隠しに慌てて頬張るのだった。

<了>

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