第7話 希望と絶望の狭間で






 目を開けた。
 白い天井、見慣れた光景。

 また気を失っていたんだ。
 昨日と今日で意識を失うのは何度目だろう。
 ところで、ここはどこだ?
 見た所……病院、みたいだけど。

 起き上がって手のひらを見る。
 何か大切な事をわすれているような……。

 ハッとして病室を飛び出す。
 カーテンを抜けて、医療人形を探す。
 この病院では、大部屋に布で仕切られた個室に患者が収容されるのだ。
 そしてセクターは医療人形を見つけた。

「い、医療人形……」

 病院に勤務している医療人形は、当然ながら人間ではない。
 しかし幼い頃より病弱だったセクターは、数年前から身近に居たから知っていた。
 人形にも心が、感情があることを。
 だから普通の人間のように接して、接された。
 その医療人形が、廊下で死んでいた。
 バラバラになっていた。

「タイプ1……」

 医療人形タイプ1からタイプ10までが、この病院に勤務している。
 そして無残に破壊された頭部パーツが、死を物語っていた。

「なんで……誰がこんなことを…………」

 そうして暫く手を合わせてから、すぐに立ち上がる。
 両親が死んだと聞いたときは、泣いた。
 セクターにとっては両親と同じくらい長い付き合いの医療人形が死んだというのに、泣いていなかった。
 以前、数日前までなら心が折れていたであろう事態に、冷静に対応する。
 ジェネクスに会ってからのセクターは、精神的に強くなっていた。

「ジェネクスさんは、どこだ」

 ジェネクスのことを思い出したセクターは病院中を探し回った。
 いない、いない、いない。
 どこにも、見つからない。
 だけど一人だけ見つかった。

「親方……」

 あのとき、自分の代わりに撃たれた親方が寝ていた。
 カーテンを開けて、親方の寝顔を見る。
 苦しそうな顔はしていない。
 厳格な、親の顔。
 セクターの第二の親。

「ありがとう、ございました」

 その場から走り去り、涙を堪えて、病院中を走り回る。
 息が切れて体力が限界に近づいた時、ふと窓の外を見る。
 窓から覗く星空が、今が夜であるということを知らせてくれる。

「一体……これは……なんなんだ…………」

 セクターは外に出た。
 街灯が多い病院の周りは、昼間のように明るかった。

「あの出来事は、嘘じゃない。なのに」

 なのに。

「なんでジェネクスさんが、いないんだ!」

 セクターは自分の体が強くなっている事に気が付きながら、そう呟いた。
 以前までの病弱な、ひ弱な体ではなくなっていた。
 病院内をあんなに走ったのに息が切れていない。
 数日前まではこんなに走れなかったのに。

 不思議とそこで足が竦んだ。
 蹲って、泣いた。
 そしてこう呟いて固い土の上に倒れこんだ。

「ボクは……見捨てられたのか」


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