第8話 消える決意を抱いて戦え

 セクターを治した後ジェネクスは倒れた。
 『神の息吹き』は完全再生魔法。
 その使用魔力量は膨大だった。
 その代わりにセクターは治癒され、肉体が復元されていた。



 それから一時間後、森が燃えていた事に気付いた人が人を呼んだが、街の人が来る前にどこからか犯罪者集団が駆けつけた。
 犯罪者集団『カルクェイド』。
 頭領の名は、バシウム。
 三大魔法師の一人、バシウムであった。
 彼は意識がない二人と女二人を回収して、セクターを部下に手渡す。

「こいつぁ、いい。街の病院にでももってけ」
「オーケーボス」

 意外と優しかった。


---


「ほう」

 目覚めたジェネクスは開口一番にそう漏らした。
 どうやらここは襲ってきた集団のアジトらしい。
 窓から日が差している。
 その証拠に見知った顔のバシウムがいびきをたてていた。
 仲間らしき者共も寝ていた。
 立ち上がろうとするが、手と足が縛られていた。
 そんなことは気にせず、手加減せずに魔法を撃ち込んだ。

「《純粋》」

 衝撃波を発生させる古代魔法、『純粋』をバシウムに当てるがなんら変化はない。
 服すら消滅していない。
 そこら中に撒き散らすも効果は見られなかった。
 手足を縛る縄は消えた。

「《万力《バイス》》」

 今度は『万力』を試してみると、顕現したので装着させる。

「《駆動開始《スタート》》」

 バシウム以外は痛みで跳ね起きた。
 無視してバシウム相手に本気で圧力をかける。

「んー……おっ、起きたか」

 低く重い声が場を支配する。
 その声を聞いた部下たちは、突然しゃがみこんだ。
 否、しゃがんだのではない。圧力が掛かったのだ。
 ジェネクスだけが平然と立っていた。

「相も変わらず起きるのが遅い。そして魔力耐性の高さも、声の|重さ《・・》も変わっていないな。さて、なぜ私を付け狙うのか聞かせてもらおうか」
「こいつらと別れろっつたのが気にくわねぇだけだぁ! それ以外に理由はねえぞ?」
「……そうか」

 ジェネクスは魔素を変換し、身に纏う。
 それだけで場の雰囲気は一変した。
 強大な魔力に中り、二人以外は立ち上がることすらままならない。

「──そんな理由で……そんなくだらない理由でセクター君を狙ったのか」
「ああ、そうだよ」

 それを聞いて、安心したようにジェネクスは苦笑した。
 バシウムは「なに呆れてんだ?」と思っていたが。

「そうかそうか、仕方ないな。この場の全員を跡形もなく消滅させてやろう」

 冷徹な声で、そう言った。

「ちゃんと怒ってるな? オルガニズム・ハウンサレクトォッ!」

 ジェネクスの二つ名を叫び、バシウムの表情が笑みに変わる。
 会話をしながら溜めていた、拳を撃ち出す。
 渾身の一撃!
 風圧が家を軋ませる。大砲並みの威力。

「障壁《バリア》」

 パリィン!
 木造の家、アジトにガラスが割れたような音が鳴り響く。
 ジェネクスは透明な『壁』を盾にして防いだのだ。

「貴様のように魔力耐性の高い者には、これがよく効く。《光《フラッシュ》》、《爆音《ドーン》》、《無風《カール》》」

 閃光が視界を奪い、轟く音が聴力を奪い、無風で空気が動かないうにした。
 順に表すと、光属性と無属性と風属性。
 多種多様な、バリエーション豊富な魔法を扱い勝利を収める。これが大魔法師ジェネクスの戦い方だった。

 ちなみに『無風』の魔法、これは物体が動く際に巻き起こる風だけを動かなくするだけで、呼吸は可能となっている。
 なぜわざわざ『無風』状態にしたのかというと、バシウムは肌で感じ取った感触で敵かどうかを見極めるからだ。
 
 ジェネクスが強力な魔法を使うのかと考えて、バシウムが身構える。どこからでもかかってこいといわんばかりの体勢。
 しかし何も起こらない。
 目がチカチカしているのが収まると、そこにジェネクスはいなかった。
 逃げた。

「くっそぉ!」

 アジトの壁に拳を当てる。つまり八つ当たりをしたバシウム。
 そのせいでアジトが半壊したため頭領の座から降ろされ、失敗ばかりしてまた八つ当たりし、犯罪者集団カルクェイドから脱退させられた。
 犯罪者集団はそれから数日後、めでたく国に捕まったという。

 予期せぬところでジェネクスの心配は解消されたのだった。



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