秋の味覚
高槻彰人と篠崎佑は幼なじみ。
生まれた時からずっと一緒。
身長も同じ。
趣味も同じ。
そんな二人が付き合い始めるのは自然なことだった。
だから、彰人のことが好きな佑の妹・明日香の邪魔に合うことに嫌気がさした二人は、大学入学を期にセキュリティ万全で彰人の父親所有のマンションに住むことになった。
季節は夏が終わり秋になり、次第に木々も色付きはじめた。
そんなある日の休日、二人仲良くテレビを見ていた時、彰人がこんなことを言い出した。
「佑、秋の味覚三昧しない?」
ソファーに座り、佑を腕の中に閉じ込めながら彰人が言った。
「秋の味覚三昧?」
「そう!
食欲の秋だし、もちろん後でスポーツの秋もするけどさ。」
恥ずかしげもなく、ニコニコと微笑みながら彰人が言った。
「何言ってるんだか。」
佑はただただ呆れるだけだった。
「秋の味覚三昧って言うけどさあ、彰人は何食べたいの?
沢山あるじゃん、秋の味覚ってさあ。」
佑はニコニコとしている彰人の顔を見ながら聞いた。
「秋の味覚、秋刀魚、栗、ぶどう、梨、松茸、あとなんだっけ?」
「だから、彰人は何食べたいのさ。
それがわからないと買い物にも行けない。」
「だから、秋の味覚全部。」
「全部は無理だから、聞いてんだろ?」
「じゃあ、秋刀魚の塩焼き、栗ご飯、松茸の土瓶蒸し、カボチャの煮物が食べたい。
あと、デザートに巨峰!」
「松茸だと?
高いじゃないか!」
「うん。
だから、中国産でいいよ。」
どうしても松茸が食べたいらしい彰人は中国産の松茸を提案してきた。
「彰人も手伝えよ。」
佑が睨むようにして言うと、
「もちろん手伝うよ。」
彰人は満面の笑みで答えた。
それから二人は仲良く近所のスーパーへと向かい、食材を買い込むと、料理に取り掛かった。
彰人に栗の皮向きをさせ、カボチャを炊いていく。
栗の下ごしらえが終わると、炊飯器に米、分量の水、栗を入れ、昆布だしと塩を少々加えてスイッチを入れた。
後は土瓶蒸しを作り、秋刀魚を焼けば出来上がり。
綺麗に盛り付けられた料理を見て彰人は子供のようにはしゃいだ。
「佑、早く食べよう。」
全ての料理を一口づつ食べては、
「美味しい!」
と言った。
「満足か?」
「うん!
明日はキノコ汁しよう!
たくさんキノコ入れて。」
佑は彰人の秋の味覚三昧がまだ続くのかと肩を落とした。
「佑、どうかした?」
「何でもない。
ってかさあ、明日はお前作れよ。」
「いいよ。
佑のために作るよ。
期待してろよ。」
彰人は胸を張って言った。
その翌日、約束通り彰人はキノコ汁を作った。
しめじ、エノキ、エリンギ、椎茸、舞茸、といった沢山のきのこが入った、キノコの出汁とほんのり醤油の味がするキノコ汁。
「キノコがメインだから、ネギと鶏肉の団子は控えめだからな。
そうだ、あったまる様に生姜入れたから。」
大きめのお椀によそって、佑に手渡しながら言った。
「美味しい。」
熱々のキノコ汁をゆっくりと食べると、呟いた。
「だろ?
隠し味はたっぷりの愛情ってね。」
彰人は自信満々だ。
「愛情って…。」
佑は思わず顔を赤くした。
それから二人は、柚子風呂に仲良く入り、仲良く寝た。
次の日佑は、起き上がることができなかったが…。
お終い。