~序章~夢見た学園生活
カーテンの隙間から朝日が差し込む。
その光の眩しさに目を開けると、見慣れぬ景色が広がった。
誰も居ない寮の部屋、本来ならば今日、この朝をもう2人と迎える筈だったが二人とも家庭の事情ということで昨日のうちに入寮をしていなかったためにそれは叶わなかった。
今日の入学式の後には入寮をするそうだ。
きっと部屋でのんびり過ごすことは出来ないだろう。
そう思い支度を始める。
心地良い風が吹き桜が舞い散る。
寮から講堂までの僅かな道程。
1人で歩くことには慣れているため何とも思わないが同室の子と一緒ではないためか疑問の視線が寄せられている。
そんなことを気にしたところで何にもならない。
それくらいなら早く講堂に行ってしまえば会えるはずである。
足を早める。
講堂は校舎の先にあるため校舎でクラス編成を見てから行くことになっているらしかったが、掲示板の前には1人も生徒が集まっていなかった。
クラスがわからなかったので見る分には都合はよかった。
そこでふと、自分と制服の色が違う人がいることに気がついた。
自分は購入時に色指定ができなかった。
言われるがままに入学してしまったためどういうことなのかわからなかった。
まぁ、そんなことは後から聞いてみればいいだけの話である。
再び講堂に向け歩を進める。
思っていたより人は少なかった。
そして席順は寮の部屋番号順だったのだ。
普通はクラス毎に出席番号で座るところなのだろうが、もう気にしていたらきりがなくなりそうだ。
寮の部屋番号は1号室、つまり最前列である。
これでは式中に眠ることもできそうにない。
あのような退屈な行事に真面目に参加しなければならないことに今から気分が急降下している。
自らの席の方を見る。両隣には既に誰かが座っている。きっと同室の子だろうか。
自分の席に近づくにつれ両隣の生徒がよく見えてきた。
右側の子は綺麗な金色の髪をかなり高い位置で一つにまとめている。
名前は日本語ではあったからハーフなのだろうか。
どちらにせよ凄く目立って人目を引いている。
きっと顔も綺麗なのだろう。
左の子は明るめの茶色の髪でショートカットだった。
何処にでもいそうな普通の人なのだろう。仲良くできるといいな。
3年間共に暮らすことになるのだ、仲良くするに越したことはない。
そう考えながら歩くうちに席に辿り着いた。
「おはよう、私は一条佳菜、あなた達って1号室の人であってる?」
何ともない普通の挨拶、これ以外に思いつきもしなかった。
「そうだよ!私は神崎早苗だよ!よろしく!」
予想通り明るそうな子だ。
そして制服は黒に近い紺色だ。寮の部屋が同じでも制服は違うようだ。
「福津流季、よろしく」
もう一人の彼女は唯一言だけの挨拶をして手にしていた小説に目を落とした。
神崎さんとは違い彼女の制服は私と同じ白だった。
「これより、入学式を執り行います。新入生は着席してください。」
アナウンスが流れ会場が静まる。
今これ以上話すことできなさそうだ、気になることはあるが終わってしまってから聞けばいいだろうか。
この時、私はこの学校に来たことを後悔することをまだ知らなかった。