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晴れているのに雨が降っておりました。
さんさんと輝く太陽がそこにあるのに、私はどんどん濡れてゆくのです。
雨の影であたりは蚊帳の中のようで、いわば狂気的な何かが漂う空間を形づくるのでした。
墓参りの帰りだということもあったのかも知れません。
どうも普通ではない心の具合になって、そしてあたりもそんな風でしたので、
どうしてもこれは夢に違いないと思うに至ったのです。
ああ、これはすぐ止む、いつかは覚めるのだとわかってはいるものの、
何と言ったらいいのでしょうか、琥珀の中に小さな虫が時を止めて飛んでいるのと同じように、
夏の暑い日、雲もない雨がこの瞬間を永遠のものにしているかのように感じられていたのです。
私一人かと思いきや、墓所を横断する線路の脇の笹林の陰に、赤と黄色のちりめんの、
兵児帯らしきものが見え隠れしています。
今にして思えばあれは狐か何かだったのでしょう。
やはり少々この世のものではない、そういったものでした。
長いような短いような雨の間、それでもだいぶ私とその少女は濡れきっていました。
きちがいじみた雨は不思議なレンズの様になり、照らす太陽の光を大きく歪めていたに相違なく、見えるものは皆鏡の向こう側のことのよう。
息を飲んだのはそれを見つめる少女の瞳のことであります。
泣いているわけでも無いようなのですが、てらてらと瞳孔の皮膜を反射させ、まるで釉薬のようにぬめりとした光を放っておるのです。
爛れているようでいて、まことに純粋であるというさかしまがそこにはありました。
矛盾は美しく共存し、ありありと道理のすべてを包み込んでいます。
これは琥珀の中の出来事だったのでしょう。
雨はあがり、もとの草いきれの墓地がありました。
そこに少女はいません。
優しく、狂おしく包み込む蚊帳なぞもありません。
ただただ私の全身は水に浸され滴を垂らしておりました。
そうしてこの琥珀のときは、私の一生のうちに一度だけ起きた、怪しくも愛しい初恋の奇跡だったのでしょう。