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昨日の朝、このホームで飛び降りがあった。
こんなことはもう珍しくもない。
ひと一人が死んだというのに、何一つ変わった様子もなく今、駅は動いている。
駅員の僕はもちろんその死体を見た。
ここは戦場でも処刑場でもない。
流れ弾もなければ電気椅子もない。
普通の人々が普通の顔をして、普通に生活している。
けれどもそこに急に当たり前でないものができあがって、そしてまた何もなかったことになって、電車は通り過ぎていく。
僕は背中の奥がぎゅっと引っ張られる感覚に襲われた。
どこの肉片かはわからない。ただ、ひとがこの世界からいなくなって、そんな大変なことが起きているのに、あたりは必死でその出来事を無かったことにしようとしているのが許せなかった。
僕は死体の処理を手伝いながらそのひとの体の一部をハンカチに包んでポケットに入れた。
この駅は、そ知らぬ顔でまた人を電車に乗せ、電車は人を次の駅へと運んでいく。
いつも通り、変わった様子などないのだ。
狂っていく僕一人を除いて。