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ゆうどきに、駅のホームにいたのです。
ぼーっと暮れていく景色を見ていました。
そうしていたらあるとき、ふっと顔を向けた先の、駅前の高層マンションの階段すべてに、ぱあっと蛍光灯がついたのです。
わたしのこころはそれまでふつうだったのですが、光がついたその瞬間を、たまたま見てしまったものだから、なんだか少し怖いような、けれども螢を見つけたときのような、浮き立つ感覚もあったのです。
ぐうぜん、いちどきに、たくさんの蛍光灯が、マンションの踊り場に、光るのです。
その一瞬はすでに過ぎ去り、あたりはとっぷり陽も暮れて、徐々に夕闇が染み渡っていきました。
蛍光灯は灯ったまま、それをそのまま続けています。
消えていた蛍光灯は、今はひとつだってありはしないのです。
時間のなかに、少しの変化があって、わたしはぐうぜんそれを見たのです。
またあさがきて、今度は蛍光灯がいちどきに消えるのでしょう。
またよるがきて、いちどきに蛍光灯は灯るのでしょう。
こんどはまただれかがそれにきづいて、不思議なこころもちになるのでしょうか。
それともだあれにも気づかれないままで、あの蛍光灯は灯ったりまた消えたりして、ただただ時間は、たっていくのかもしれません。
こころのなかにはあの瞬間が、あの感覚が、記憶として眠っています。