両虎共闘の戦い
さて、二人の出てきた地上には、穴が貫通したことにより、周囲に警戒にあたっていた数人のハイドが長槍を持って集結し、何ともいえないものものしい雰囲気を漂わせていた。
「おんどれら、すばるの王妃や。シコメを人質にとっている。早よういってまえや!!」
その中の一人の男のハイドが、シコメ姫を背負っているヤカミ妃の姿を見つめた後、まわりにいた仲間のハイドに指示を下した。
彼は、赤々しくて目立つ鎧を身にまとい、顔は怒ったサルジュウみたいにいかつく、シコメ姫やヤカミ妃が話す際に使うすばる語を用いていた。
ハイドらは、ヤカミ妃の真下に集結し、いかつくて思わずぞっとしたくなる目線で見つめ、長槍にてすぐにでも攻撃ができるようにした。
「お母様。あいつは、ゲアシオ。名だたる他国の国王や武将を血一色に染めてきよったヨモツの宰相で、うちのほんまもんの父親や。油断しよったら、一撃で殺されてまうで。」
おんぶしてもらっているシコメ姫は、鎧のハイドを見た瞬間、はっと驚いた様子でヤカミ妃に言葉をかけた。
「シコメ。分かってる。わての剣をもってすれば、奴らは恐れおののいて逃げてわな。」
ヤカミ妃は、生真面目で恐怖すら感じさせない顔でシコメに言葉を返し、ゲアシオやその他のハイドに交戦するため、土面からわずか一尺ほど離した位置まで身体をもってきた。
これを見計らい、シコメも自信に満ちたヤカミ妃のことを娘として半ば心配して地に足を付け、自らの背中にある長槍をぎこちなさそうに用意して構えた。
「すばるのヤカミ、わいが相手や!!」
背後にハイドの群れを連れた赤鎧のハイド、ゲアシオは、慣れた手つきで長槍を振り回し、ヤカミ妃に切りかかった。
「ふっ。わてに比べれりゃぁ、あんたらは、へぼい奴や。」
ヤカミ妃は、言葉まじりに身体を浮かせたまま、手持ちの青い光を放つ剣にてゲアシオや彼らの長槍を跳ねよけた。
続くように、
「このあほんだら。人を閉じ込め、えげつないことばかりしてる。そないなこと、人間の娘のうちとして許すことは、でけへんわ!!」
シコメ姫は、顔をしかめつつ長槍を構えて声を発し、次々とハイドに攻撃を仕掛けた。
彼女は、このとき、心の中でヨモツ国と縁を切る決心がついたようで、自ら持っているヨモツ国の姫君という名高くて、大銭では買えない地位を捨て、母方のすばる王朝に寝返る覚悟を抱いた。
「シコメ姫様がすばる側の王妃に寝返ってわれわれをやっつけている!? 助けてくれ。」
ハイドたちは、味方のシコメ姫が裏切り、自分たちに攻撃を仕掛けてくる様子を見て、思わず驚いた声を発するのとともに浮足を立たせた。
「シコメ。娘のくせに、父親のわてやミタマ様たちのことを裏切りよった。死に値する罪やわ。」
ゲアシオは、顔のまわりにしわをつくり、シコメ姫に対するぐつぐつとした怒り感情を心の中で爆発させた。
天女のヤカミ妃と彼女の味方として寝返ったシコメ姫、ヨモツ方のゲアシオやハイドらによる戦いは、一進一退の攻防が続いた。
初めは、剣の天女のヤカミ妃と娘のシコメ姫が、圧倒的な動きの早さ、また剣・槍さばきにてゲアシオらハイドの一団を劣勢に追い込んだ。