K国の弾道ミサイル対策に頭を痛める日本政府に、朗報がもたらされた。
「総理! 反中性子フィールド発生装置、ついに完成しました」
今まで、暗澹とした気分に包まれていた総理大臣は、その言葉を聞いた途端に、パッと表情が明るくなり、両の拳を握りしめ立ち上がる。
「そうか! ついにやったか」
反中性子フィールド発生装置。
それは、ウラン235やプルトニウム239などの重い元素の原子核が分裂する際に発生する自由中性子を消去してしまう、特殊なフィールドを発生させる装置である。
詳しい原理は専門書を読んで頂くとして、早い話がこの装置の発生させるフィールド内では核分裂の連鎖反応は無効化されるため、原子爆弾は爆発しない。そして、水素爆弾などの核融合爆弾も原爆を起爆剤にしている以上、使用不能となるのである。
もちろんレーザー点火式核融合やミューオン触媒式核融合など、核分裂式の原子爆弾に依存していない核融合爆弾はこの装置では防ぎようがない。だが、レーザー点火式は装置が巨大になりすぎてミサイルには搭載できない。ミューオン触媒式も実用化にはまだ程遠く、当分の間は脅威にはならないだろう。仮に実用化できるとしても、それができるのは米国やロシアのような大国であって、K国のような小国では今世紀中の実用化は不可能。その前にK国という国がなくなるだろう。
「ありがとう。君達」
開発に携わったスタッフ一人一人に、総理は握手していく。
「それで、実戦配備には、どのくらいの時間が掛かるのかね?」
総理の質問に対して、防衛省長官が答える。
「関東地区だけなら、試作機だけでまかなえますので、配備はいつでも可能です。日本全国に配備するのも、一年あれば十分かと。ただ……」
「ただ……?」
総理はオーム返しに質問する。
「フィールド発生には、莫大な電力を必要とします。日本全国を覆い尽くすほどのフィールドを発生させるには、最低でも現在の日本の総発電量の三倍は必要かと……」
「ふむ」
総理はしばらく首を捻った後、資源エネルギー庁長官の方に顔を向ける。
「直ちに各電力会社に通達したまえ。発電所を増設するようにと。一年以内に今の発電量の三倍にするのだ」
「そんな無茶な」
「無茶でもやれ! 金はいくらかかってもかまわん」
そして一年後、日本列島全てに、この新兵器が実戦配備された。
もちろん、国の内外から批判はあったが、『これは防御以外には使いようのない、完全な防御兵器である』と言って押し通したのである。そして、この日を境に日本の外交は高圧的になっていく。
以前から隣国が不法占拠していた日本海の小島を武力で奪還。
石油が埋蔵されている可能性が出てから某国と争っていた南海の島を要塞化。
欧米諸国からの外圧に対しては、ことごとくNOと応え、ロシアに対しては、領土返還をいっそう強硬に要求。
さらに、反捕鯨国やグリ○ピー○の抗議を無視して捕鯨を再開した。
それは、今まで、核の恐怖に怯えて隠されていた本性が、一気に噴出した様子である。
問題のK国に対しては、約束していた食糧援助を全て打ち切った。再開条件として、弾道ミサイルの廃棄を要求したのである。
そして……
「総理! K国がミサイルを発射しました。東京に向かっています」
「うむ。ついにきたか。ただちに反中性子フィールドを稼働させろ」
次の瞬間、日本列島はいかなる核分裂連鎖反応をも阻止するフィールドに包まれた。
目には見えないこのフィールド内では、原子爆弾も、それを起爆剤とする水爆も爆発しない。だが……
「総理。ここは危険です。ただちにシェルターへ……」
秘書が避難を勧めるが総理は断った。
「必要ないよ。君」
「しかし……原子爆弾が使えないとしても、ここを直撃されたら……」
「やつらのミサイルにそんな精度はない」
「しかし……」
「それに、国民をほったらかして、私だけ逃げるわけにはいかんだろ」
「はあ……そこまで言われるのでしたら……」
「これで次の衆議院選挙は我が党の圧勝だな」
「あの……選挙のためなのですか?」
「当たり前だろ。それが政治家の義務というものではないか」
「はあ……そういうものですか」
「ふふふ! K国の奴等め、思い知るがいい。今、撃ったミサイルがただのガラクタ……である……事……を?」
突然、官邸を襲った停電に総理は絶句する。
「なんだ? どうしたんだ。いったい」
非常用発電機が作動して官邸内の電灯はすぐに灯った。
しかし、窓から見える周囲の町はまだ停電しているようだ。
「総理! 大変です」
衛星携帯電話(イリジウム)片手に、防衛省長官が報告する。
「停電のために、日本中のフィールドジュネレーターが停止しました」
「なんだとう!?」
「現在、原因を調査中ですが、なんでもフィールドジュネレーターを稼働させた途端に、日本全国で電力供給が止まったと……」
その直後、全員の視線がある男に集中した。
電力会社各社に、発電所増設を指示した資源エネルギー庁長官である。
総理は恐る恐る質問した。
「君。電力会社に何を作らせたのかね?」
「何って……原子力発電所ですが」
「バカモノォォ!!」
その絶叫が、彼らの最後の言葉となった。
了
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