俺の名は雄原祥介(おはら・しょうすけ)、19歳の平凡な大学生。
そして彼女いない歴も19年……。
なにっ「それじゃ平凡じゃないじゃん」だと?
余計なお世話だ!
あの悪夢のようなバレンタインデーからはや10ヶ月。
その後特に変わったこともなく、俺には未だに彼女がいない。
一応彼女未満の女友だち(悪魔だけど)がいることにはいるが、まあそれはともかく。
今年もまた非モテ男を苦しめる地獄の日が巡ってきた。
バレンタインよりもなお忌まわしきその名は――
クリスマス!
空からは粉雪が舞い散り、華やかなイルミネーションが彩る夜の街を、恋人らしき若い男女が腕を組んで幸せそうに歩いていく。
俺はその光景を、バイト先のコンビニ前からぼんやり眺めていた。
本来今夜のバイトは休みのはずだったが、欠員が生じたため急遽代理に呼び出されたのだ。
「山本も岡田も彼女とデートだってさ。お互い、貧乏クジ引かされたよなあ」
サンタ服を着込んだバイト仲間の倉見が、ため息をつきながら話しかける。
「……まあイブだしな」
俺たちの仕事は雪と寒風の中、店前に売れ残りのケーキを並べて値引き価格で売ること。
正直寒い。
それでも俺の方はトナカイの全身着ぐるみを着てる分、倉見よりまだマシかもしれないが。
……外見の恥ずかしさはこっちが酷いと思うけど。
とはいえ仕事は仕事。
着ぐるみの中で苦々しく顔をしかめつつも、声だけはあくまで愛想良く、
「メリー・クリスマス! 美味しい、美味し~いケーキがただいま3割引とたいへんお得になっております!」
売れるわけがない。
既に時刻は8時を過ぎ、自宅でケーキを食べるつもりの者ならとうに何処かで購入済みだろう。
コンビニの前を通り過ぎる帰宅のサラリーマンや学生が、俺たちの姿を見るなり気の毒そうに「ふっ」と顔を背け足早に歩き去っていく。
やめろぉぉぉ! そんな憐れみの目で見ないでくれっ!!
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