第6話 救出劇は泥臭い
魔力を取り戻したジェネクスは、敵を圧倒していた。
風で態勢を崩し、火で炙り、土魔法で地面からせりあがった壁が家を囲い、じわじわと追い詰めていた。
「くっそおおおお!」
襲撃者の一人が突撃し、散った。
(セクター君を早く探さなければ。この場の魔素も少なくなってきている)
ジェネクスは冷静だった。
ひどく、冷静だった。
「《風炎》。《飛行《ヒューリ》》」
火を風で飛ばし、家ごと賊を燃やす。
風を操り自分には火が飛んでこないようにしてから、ジェネクスは|飛んだ(・・・)。
「空を、飛びやがった……」
リーダーと呼ばれていた男が、驚愕していた。
それを尻目にジェネクスはどこかへ飛び去った。
(敵わねえなぁ……もう仕事とはいえ、あんな奴とは戦いたかぁないぜ)
そう心の中で誓ってから、怪我をした仲間を担いで燃えた家を後にした。
***
「ふむ、西の森か」
飛んだまま、滞空したままジェネクスはセクターを探す。
そして連れ去った女二人の魔力を辿り、西の森にセクターが居ると判明した。
魔素を魔力に変換して魔力を最大限まで補充しつつ、唱えた。
「《爆弾投下《ブムレシアン》》」
火魔法と風魔法の混合魔法を、森に撃ちこんだ。
当然木々には火が燃え移り、火事となる。
「見つけた」
森には不自然に岩が転がっている箇所があったのでそこへ着陸すると、綺麗に切断された石が積まれた何かがあった。
しかしそれを意に介さず、土魔法で変形させる。
「《変形《ウォーミング》》」
地上に出ている部分をどんどん横へ広げて、地下の部分を地上へ露出させた。
そしてそこにはセクターの姿はない。女二人が倒れていて、緑色の魔獣がいるだけだ。
「セクター君は……どこなんだ」
周囲をよく観察するが、怪しいのはこの二人と魔獣のみ。
なぜ儀式で現れたあの魔獣がここにいるのかが不思議だが……と思考していると。
『もぐもぐもぐもぐ』
気付かなかった、聞こえていなかった音が聞こえた。
『もぐもぐもぐもぐ』
魔獣は動いていない。
しかし音は魔獣から鳴っている。
『もぐもぐもぐもぐ』
魔獣の声ではない。
『ぺっ』
魔獣は体液の滴る口から、肉片を吐き出した。
「まさか……」
気付いた。気付いて、しまった。
こいつが、この魔獣が……。
『俺ガ喰ッタヨ――』
「……っ! 《破魔》!」
『破魔』という魔法が唱えられて数秒後、魔獣にはなんら変化はなかった。
しかし。
『オオオオォォォォォ…………ォェッ!』
腹から逆流してきた物が、口から飛び出した。
魔獣の体液に塗れたセクターが、飛び出してきたのだ。
それは大地へ転がり出ると、砂を付着させたまま停止した。
「――貴様は、私を怒らせた。地獄で後悔しろ。
|古代魔法《エンシェントスペル》42の内の一つ、《破魔《ホーリー》》」
『破魔』。
太古の世代にこの世界を跋扈していた魑魅魍魎の類である魔獣を滅する為だけに生み出された、『対魔獣清浄化魔法』。
威力を抑えていたそれを、手加減していなければセクターごと消滅させてしまうほどの威力だったそれを、本気で、容赦なく、手加減なく、殺すという確個たる意思を持って再度唱えた。
魔獣に光が降り注ぎ、光が触れた部分から消滅していく。
地の底から響くような唸り声を、断末魔を上げながら、魔獣はこの世から消え去った。
「……セクター君!」
暫く茫然としていたジェネクスだったが、すぐにセクターの安否を確かめる。
「皮が溶けて、肉が露出している。足が特に酷い……」
皮膚が殆ど溶け、痛みで意識が飛んでいる状態だが、ジェネクスは冷静に対処した。
(回復を促すのではなく治癒が必要か。病院に連れ込むにもその前に手遅れになる。やるしかない)
ジェネクスは森に漂う魔素を魔力に変換し、体内に入るだけ補充した。
そして許容量の限界を越えても、まだ変換を行い取り込む。
魔素が無くなっていく森は、木々が次第に枯れていく。
ジェネクスの顔から、背中から、腋から、汗が垂れていた。
痛みを我慢して、魔力を体内に貯めこみ続けた。
「この状態から回復させるには……この魔法……しかない」
腰に挿していた杖を振り上げ、叫ぶように詠唱した。
「《神の息吹き》」