1話、あたしが復讐を誓う理由
「はい。根性と頑張るフリだけは負けません!」
社長を前に少し緊張しつつも思ったことを言うあたし。
「あたしはどうしてもここで働いてみたいんです!」
届け、あたしの熱意!
「松本さん。君から何かあるかい?」
社長は隣に座っている若し女性に聞くと、右手で肩まで伸びている髪をくるくるといじりながら
「いいえ〜、ございません〜。なんというか〜、飛び入りで面接に来られる〜、しかも〜、熱意の裏に〜、恨みがありそうな〜、そんな野心みたいのが〜、見えます〜」
うん。なんでこの人こんなに語尾のばすんだろう? あたしは聞いてて少し疲れた。しかし少しだけ膨らんだ胸には名札がついてあって人事部松本恭子という名前が顔写真と一緒に書かれている。人事部というのはこんなにあたしの深層心理が見えるものなのだろうか?
そう。あたしがこの会社、小さな制作会社を選んだのは、時給や時間帯ではなかった。社風どころか社名すら昨日初めて聞いた。あたしはここを探して受付の人に「アルバイト雇ってませんか?」と聞いて社長直々に、そしてこの松本さんとやらと面接に至ったというわけだ。松本さんの意見には何も言わずかわりに
「本来ならばアルバイトは雇っていないのだが、最後にひとつだけいいだろうか? 君はゲーマーかね?」
「ゲームですか。それなりにやりますが」
「わかった。松本、ここの仕事に対する詳細書をわたしてやってくれ。あとは滝本のスケジュールを合わせて出勤時間などの打ち合わせを頼む」
「わかりました〜。ただ教えてください〜。採用基準は〜?」
「彼女がゲーマーだからだ。ゲーマーに悪いやつはおらん。私はこれから予定があるので先に失礼するよ」
「うちとゲーム、全く関係ないのですがね〜。というか〜、またギルドバトルですか〜、ほどほどにして下さいね〜」
社長がこの個室から出ていくと、松本さんはスケジュール表たるファイルを持って来て
「一応制服もあるので〜、用意して〜、片桐さんと滝本さんの予定に合わせると〜、再来週の土曜日でいいですかね〜? 時間は10時ここで〜」
「はい。わかりました!」
あたしは返事しながらも彼女の名前を探しては
(いた。奴も土曜日にいる!)
と、確信した。もちろん彼女とは松本さんでも滝本さんとやらでもない。地下鉄であたしに罪をかぶせた奴だ。絶対復讐してやらないと気がすまない。そのためには時給もブラック企業とやらも耐えてみせる!
「やはり〜、何か事情がありそうなんですけど〜?」
それを見抜いているのか松本さんは聞いてきたのだが、
「いいえ。そんなことないですよ! これからよろしくお願いします!」と、頭を下げてあたしはこの制作会社を出た。
よし。第一関門突破だ。あたしは拳を強く握りしめた。
思えば三日前。アルバイト先を探していた時目の前にギャルがそのまま社会人になったような女性が立っていた。香水がきついと思ったら、芋を食べたような臭い匂いがした。間違いなくこいつオナラをした。この地下鉄という密室で臭いオナラを!
ところがこいつそれをあたしのせいにしだ。
「すみません。オナラしました?」
「はぁ?」ってなったけどこういうものは言ったもんがちだと知った。周りの人はあたしを睨んでいた。
おのれ絶対に許さん!
鞄を見ると社員証がはみ出て見えた。
名前は山崎邦枝。聞いたことのない会社だ。後で調べよう。
こうして家に帰って復習というなのもとに会社をインターネットで調べて直接コンタクトを取りに来たのだ。
こうやって自然に接触して人生転覆させるような復讐をするために!