「よう、元気かい? ノボク」
「ああ、元気だぜ。ナメジ」
せりたつ山の端。今にも落っこちそうな『石』と、その上の『木』。
ナメジは、侵食された滑らかな石で『ナメジ』。ノボクは、野良の木で『ノボク』。
彼らは互いに、そう呼び合っていた。
周りの石や木たちは、風雨にさらされ。とうの昔に、みんな崖から転がり落ち。景色も見晴らしも広々とした。そんな場所。
「そういえば昨日言ってた、体中の虫たちの調子はどうだい? ノボク」
「ああ、今日も元気だぜ! 痒くて、痒くて、しょうがねぇーや。ナメジ」
そんなノボクの上を、白蟻たちが元気一杯、せっせせっせと働き行き来している。
「お前なんか喰って、うまいのかねぇ~?」
「ああ。案外、うまいと彼らは言ってるなぁー」
「そうかい? じゃあ今度、オレにもちょいと味見させてくれや?」
「ああ。喰えるもんなら、喰ってみな♪」
そんないつもの冗談を、一個と一本が言い合っていると。急にお空の雲行きが、怪しくなって来る。
「こりゃあー。一雨くるかねぇ~?」
「ああ。そうこう言ってる間にも、早速と降ってきやがった! しかも本降りだな、コイツは!?」
豪雨に雷に暴風で、なかなか降り止みそうにない。周りの土が、次第に雨露を吸い軟らかくなり始め、次の瞬間──。
「……あ!」
「……あら?」
一個と一本は、そのせりたつ山を、仲良く転がり落ちていった。
……その翌々日。世の中は、すっかりと晴れ渡り。清々しいほどの、平和な感じ。
気がつけば、ナメジは人様に拾われ、漬け物『石』に。
同じく、ノボクも人様に拾われ、割られて『焚き木』に。
そんなノボクを見て、ナメジは呟いた。
「ノボク、お前は羨ましい奴だなぁ。自由気ままで……」
そんなナメジを見て、ノボクも呟いた。
「ナメジ、お前は羨ましい奴だなぁ。大事にされて……」
焚き木として燃やされたノボクは、ケムリとなって大空を舞い。春風と共に、ゆらりゆらりと軽やかに吹かれ飛び。そんなナメジを、遠く見つめそう思う──。
おしまい
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