雨宿りのカフェ
彼が来るのは2度目だ。
たくさんの空席がある中、窓際の隅の席へ進む。
注文したカフェラテを口に含み、文庫本を手際よく開く。
彼がこのカフェに初めて来たのは忘れもしない先月の大雨の日だった。
突然の大雨でゴロゴロと鳴り響く雷に怯えながら店内の様子を伺っていた。
走り過ぎ去って行く人々の中、彼は店の前に立ち止まった。
私は無意識に店の扉を開け彼に言った。
「雨宿り…しませんか?」
こんなベタな問いかけに彼はコクンと頷き、今では定位置となった窓際の席に座った。
それ以来、名前も年齢も何も知らない彼に私は恋をしていた。
彼がまた来るかも知れないと思いながらも来る日はなかった、今日まで。
「…あ、雨」
外はまるであの日のような大雨。
店の看板を店内に直しているバイトの大学生を横目に、もうお客さん来ないなぁなんて腕時計を眺めていた時。
はじめて聞いた声、目があったのは2度目。
「カフェラテ、おかわり…いいですか?」
低い声、綺麗な目、色白。
「…あ、はい」
私が作るカフェラテをカウンター越しで見つめる彼。
「…あの日も雨、ひどかったですよね」
「あの日?」
「雨宿りの日」
完成したカフェラテを受け取り、彼はいつもの定位置へと戻って行った。
ー雨宿りのカフェー