其の二

天つ風 手折りなさるな紅の花
五月雨や ちょっと激しすぎやしない?
風呂浸かり呆ければ 蛙鳴きにけり
短夜に あみだで選ぶ恋の賭け
もうすこし遊ばせてと言う夏至の子ら
短夜の思案は少し偽悪的
梅雨の内 葛餅の内 過去の内
さくらんぼ 気づけばすべて吾子が食べ
燕の子 親と餌とが一即多
夏暖簾 いとしあのこの睫かな
かき氷 食うか溶けるか競争中
足捌く所作も軽やか夏袴
トゥーランドットに誘われて 明易し
木下闇に立つ人や 影消えて
夕方の朝顔は やる気ありません
動物園 面の皮厚い蛇なごみ
五月晴れ 葉緑体が息継ぎす
夕暮れや 鈴蘭の音がきこえそう
発想に表現が追いつかぬ夏
表現が発想を制御する夏
方便が八方を凌駕する梅雨
枇杷食めば浪漫の味沁みにけり
チンプンとカンプン戯る青すすき
なくしもの見つかれば降る梅雨の雨
藍鯉が 潟で酸欠 青みどろ
梅雨晴れ間 眼鏡の枠の螺子弛み
ひとりむし その身焦がせど灯は消えじ
皐月富士横目に ぷかり飛行船
五月雨を聞いて眠りし年増猫
傀儡か愛か サルビアも赤き花
北斎漫画の妲己に南風が吹き
黒い頁はまたあとで 蝮殿
七月の入りに 若干二日酔い
喜雨降れば 弱き心に染みわたり
半夏生 何を食う気かあんちくしょう
扇もて夢をあおげば 陽に揺らぎ
知るや君 ブーゲンビリアの色を香を
吉野の君は初蝉を何時と知る
蚊に踵を刺されました なぜかかと
過ぐる車窓に 鬼百合と知らぬ人
夏風邪に栄養ドリンク飲みにけり
のど元を過ぎて爽快ソーダ水
爪を切り ペキンペキンと響く夏
黒猫の髭玩びて月涼し
白百合の みごと咲きたる よその庭
遠雷が のどの痛みの要因か
肉体疲労時にこたえる夏残業
蛍舞う水辺に ひとは棲めぬのか
雨の夜 海女になる夢思い出し
夏図書館 トルストイが届いていた
シナモン香る夏 あさげにレーズンパン
お掃除する母娘に玉の汗
夕風に 髪がなびきていと涼し
暑気あたり 季節の出口はまだ遠く
お祭りの提灯 夜風に揺れている
胡瓜の皮を三方削ぎ夢忘れ
名明かせば はた と気がつく夜光虫
阻まれてこそ麗しき水中花
草いきれ 見たの見ないの人の魂
級あがり ざぶんとプールに入る子かな
仕事帰りの道すがら 蝉を聞く
びよよよと風吹く夜鳴る網戸かな
クーラーの効かぬ厨房にて涅槃
カムパネルラのトマトが熟してゐる
睡蓮をおもえば泥も乙になり
日傘さす婦人の立ち話 永し
麦茶にピザでもういいや つかれぎみ
かんざしをほどいて眠る夏の夜半
祭りあり通行止めの道路かな
蝉のこえ 柱上電圧器の如し
氷菓子の好みが合わぬ母娘
九万が五万じゃ買いだ 夏セール
半幅を文庫に結ぶ祭りの日
腰いため 気合いの浴衣がおあずけに
祭にて 張りと意気地の中仙道
三峰や 蝉押し黙る雲の果て
風鈴や 嘘と情の風で鳴り
暑気あたり されど目方のかわりなし
雲の峰 激しき陽光 縁にあり
遠雷に洗濯物を慌て入れ
にがうり切れば青き香のたちのぼり
夕立が来そうで来ないまま暮れる
梅雨明けの陽射し 容赦がありませぬ
扇風機 眠れぬ夜もぐるぐるり
忘れかけた図録をめくる 夏の夜
暑気払い 恋患いにて後払い
酒の澱 眺めて暮らす月見草
風鈴のよく鳴る夕べに探しもの
互換性ありて幸い 合歓の花
ぬし留守の間にいたずらの夏の猫
夏の雨 きまって降らす想い人
激情の昇華極むる金魚かな
物語絶え間なく紡ぐ空の百合
おはしょりを三度は直す子の祭
あとひとつ鏡絵でかせばビアガーデン
面白きことも無き世は蟻歌う
星占いをごろんと見た後昼寝する
子の日焼け こんがり焼けておいしそう
ビールに似て非なる酒で今日も酔ひ
急にふと恋しくなる夜 夏の月
羽根休め 夢を見ている胡蝶蘭
線路沿いのプール飛び込む子と貨物
子と食べるトマトのパスタとドリアかな
三つ編みがほどけし吾子の昼寝かな
息吹きどおし あわや酸欠 子の浮き輪
鰻の値 見比べたまま買わず去る
ひとりごと 胃の腑で転がし夏枕
汗みどろでお弁当を食いにけり
入道雲 ここだけに雨降らせてよ
夕立が去りぬれそぼつ乱れ髪
冷酒のまわる頃には紙だらけ
枝豆をもぎる作業が終わらない
大暑来て 長き手紙を書く夕べ
乱歩忌や 遠くで狼煙が鳴っている
過ぎたるは及ばざるなり暑気払い
身を助く 知性の光と花火かな
夏の夜半 ずっとつらなる蛍光灯
ぎいんぎん 蝉の目覚まし鳴り止まぬ
暑気払い 済んで染み入る味噌の汁
団扇にて 空調設備の不備あおぎ
空蝉や末摘花のうつつかな
イグアナの娘溶け失せる岩清水
なくしもの増えるばかりの極暑かな
夏の月 寝ない子を叱る鬼照す
猛暑の夜 猛省をする若き母
夏あさげ パンにコーヒー炒り玉子
庭に水を撒き 虹ができ 子が笑い
なつかしき ひぐらしのこえ いまもする
涼しき夜 穏便に事が済みにけり
窓開けば 月光菩薩の風涼し
憑きしもの 根こそぎ粉砕 蝉音波
先輩とねぷたをおもう 月初め
エアコンの冷暖間違え 汗みどろ
暑中見舞い 書くかやめるか考え中
ジュースある?と よその子開ける冷蔵庫
かなかなが だいすき なぜか どうしても
ロータスティー いつもと違う夏の味
かき氷 娘に秘密で食べる母
よそのこが娘と遊び 母昼寝
甘い雨 思い出し咲く鳳仙花
草いきれ 2ストの音がこだまする
とんぼ来て 先の短き夏を知る
青空の斜め半分が入道雲
麩が少ないと憤る 夏娘
呼び声が聞こえた気がする夜の秋
風鈴を揺らす栞の裏表
遠く遠く 蜩のこえとサウダージ
烈情を線香花火に託す夜
ばあちゃんち スイカをいっぱい食べたいな
炎天下 遅延のバスを待ちわびる
稲の花 おらほもあんだほも ふさふさり
タンポポの綿毛が髪に絡まりて
蚊帳の中 タッチパネルで遊ぶ子ら
とうきびの出来が今年は良いようです
服ヤダと逃げる子どもらと 夏休み
思い出に日傘をさして旅をする
蚊が飛べば 親には寄らず子にたかり
蚊帳に入る 月の光と海の風
スイカとおりんを交互に叩く三歳児
沖つ波 空と戯れて盆に雨
倩女離魂 亡き父の本と盆読書
スイカ割り 雨が降っても決行中
酔いざまし 無濾過の冷酒は手強いな
北緯四十度をひらり 揚羽蝶
影傾けばごろん移動 嗚呼昼寝
五社堂の段を下れば いと涼し
路の上に水平線 サマービュー
カブトムシ形の菓子パン ココア味
盆踊り 久しく踊ることもなく
局地的豪雨のあとにトンボ行く
ショートステイの祖母に御守り渡す夏
黒揚羽 曇天ながら翔びにけり
乗換えの駅を往き来する盆名残
帰省終え 枯れるすんでの庭の花
天の川見たふるさとも 過去になり
滝壺に日が射し 百花繚乱す
滝を見て ポニーテールに結い直す
向日葵が太陽見ては背で泣き
ちとくどい 雲の下さらに入道雲
梅干しのもとが生えてる越生川
鳩鳴けば蝉も負けじと本學院
咲きかけのコスモスに注ぐ陽が過激
晩夏ゆく ぽこぽこ雲の群れなして
ツイッター打てば涼しき風が吹き
蝉地獄 フェードアウトの月曜日
体重の減るがとどまり 秋近し
デパートの買い物帰りに梨試食
新聞に麦茶の結露が落ちにけり
ながれぼし 小刀で裂く そらの膜
夜の秋 お泊まり保育の子を想う
独り寝に熟睡を知る 秋近し
きもだめし 楽しむタイプのわが娘
秋口に接吻をして 更けにけり
とんぼ翔ぶ 砂金のつぶを羽根にのせ
汗だくで1リットル飲む土方殿
香水を変えるという自己暗示法
熱帯夜 寝苦しさゆえの悪夢かな
空色の対向車二台 夏がゆく
かみのやま 素足求めて足湯湧く
電信柱に頭突きする暮れの蝉
露天風呂 眼鏡なく星見えず夏終り
髪搾る 風呂で泳ぐを叱られて
夏まみれ 夢まみれ 君まみれかな
きりぎりす 勿論愛を知っている
電波とぶ 秋の澄みたる空気かな
かのひとに あう夢を見て 夏終る
居間に丸 季節名残の浮き輪かな
日焼けあと 濃くなるを止む 子の立秋
誰が泣く 虫が鳴く鳴く 恋に哭く
レギュラーを満タンにして蜻蛉ゆく
人知れず茗荷の花が咲きにけり
かんざしの眠る土塀に秋の蝉
遠花火 出せぬ手紙の束のごと
蝶と蜻蛉が舞う 異次元交叉点
月白に 手繋ぎ眠る夢枕
右耳で蜩 左は鴉鳴き
月眺む 幾年の澱に影落とし
黄金の夜明けに瀕死の蝉が鳴く
夏休み 今日でおしまい大あくび
ブルームーン 逢瀬を偲び夜長とす
秋の蚊をはたき爪割り あなくやし
爪を切る 夏の分だけペディキュアと
初秋や コンポステラ組曲鳴り
心に棲む あなたが揺らす夜桔梗
冬瓜の味噌汁作り雨が降り
オートバイ 車種が気になる秋はじめ
総力をあげて慕情に浸る秋
絃揺らすその一音に千の月
虫の音に思い出かさね 更けてゆく
月あれば潮持ち上げてはまた降ろし
秋口に 僕のバイクがこわれたよ
度の合わぬ眼鏡でとんでる 秋の蝶
新しきメガネを選ぶ 竹の春
恋などに残暑というのもあるらしく
酌婦来て 差し上げますよと秋扇
鈴虫の愁波に単車の音絡み
窓開けば 秋と寝入りの我が身かな
君あれば 記憶の住み処にちと端居
毎日がクライマックスくつわむし
独り寝に 交じることなき 月の夢
コンビニのおでん特価は今日までか
境内にコスモスが咲き乱れてる
古い歌お店で流れ 秋ドーナツ
上履きの裏に粘土が 天高し
掃除機に滴り落ちる残暑汗
帽子飛ぶ野分が好きな三十代
ただ虫の 鳴る鳴り鳴れば鳴るところ
秋の風 禍根の瘤をほどいてく
展覧会のあとはビールで余韻漬け
ハッピーバースディトゥーユーと 店と客
オリーブをクーラーの効く店で食み
立像が平面になる 長き夜
安堵して電車に揺られる9月かな
今生の別れと聞いて蚯蚓鳴く
ただつらいだけの恋なら 秋が良し
誰しもが愛されていると気づく秋
なかぬはずがありましょうかと 昼の蘭
アル・アイレ 月に響けば涙して
曇りのち晴れの隙間に曼珠沙華
焦がれれば真黒にもなる秋刀魚かな
新メニュー 食後におすすめ マロンパフェ
泣いてませんか ふときになる 秋の夜
ゆるすまじ 我と貴方と鳴かぬ虫
直売所 いつものとこで梨売られ
しろねこに寄られ嬉しい九月かな
嫌うより嫌われる方がきつい秋
食欲がわかぬ秋など知らなんだ
早稲実る田んぼの夜宴 しゃらしゃらと
虫の聲 からの小節埋めてゆく
お前ではないのだと笑う秋の夢
私ではなかったとまた気づく秋
秋の水 悪酔いをする前に飲み
蜉蝣の儚きに潜む鉄の絃
街をゆくひとの流れに蜻蛉乗り
駄々をこね泣く子を連れて梨を買う
出羽の富士 110ccの露抱く
夢の立入禁止区域 秋の嘘
蘭が遠退けば賢者が近寄りて
大谷石 ゴシック羽織秋の雨
御朱印を懐きて走りり秋似合い
おみくじを結び忘れて秋の風
夜の雨 渇れた分だけ降りにけり
ふりふられ 男心と秋の空
みんなすき 女心と秋の空
秋簾 看護学校の窓に揺れ
人知れず泣けば優しき虫が鳴き 
キバナコスモス揺らし揺らし今日がゆく
爽やかの季語には遠きこころもち
ふたつとせ ヘキサトニック月奏で
遠雷のララバイ聞いて眠る宵
廂に散る落雷の粉 零時指し
體染む 美醜の帷と血と紅葉
智恵子抄 語る光太郎 聞く落ち葉
秋彼岸 耳鼻科の薬を子に飲ませ
手品セットで子と遊ぶ子規忌かな
りりりりと 降り積む虫の鳴く音かな
リビングでキャッチボールする九月かな
藤袴 あだに咲けども美しや
知らぬより知って得する秋の月
虫の音を聞きつ微睡む過去の檻
満ち満ちて裂けてこぼれる秋の恋
夜明けして 爽やかに鳩鳴きにけり
香水がTSUTAYA袋に名残中
あやとりをはじめて覚える秋娘
オールウェイズ 人生だいたいニュートラル
狐寄す 秋は栃尾の油揚げ
雁とゆく 交じることなき砂と風
静けさや 秋に輝く星のごと
稲刈り後 田圃に雨が降っている
稲刈りのあとに伸びたる米の草
線引かば共食いもなし くつわむし
お空にはほうき雲 海は藍の凪
秋雨や 仏を彫るのによく似合う
栗の夢見そう とぼやくウェイトレス
しそに花がさきにけり 朝の庭
静寂のときが彩る秋心
羽根の無きイカロスのような秋風鈴
天高し 文字の流れも澱みなく
秋日澄む 絵葉書にいたずらをして
むねのうち 誰にも覗けぬ 絵巻物






月は 急いて満ちるのか 欠けるのか


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