記憶というのは実に曖昧なものだ、意識しないと忘れてしまう、なんとなく覚えている、昔小さい頃に読んだ漫画や、遊んだ出来事もなんとなく覚えている程度のものだ。
何かキッカケがあれば思い出すし、キッカケが無ければ思い出せず、そのまま記憶は埋没してしまうだろう。
つまり何かを思い出すのは、キッカケが必要と言う事が身にしみて分かっている。
「思い出した栄一だ、栄一なつかしいねぇ」
バッサリと余分なものは、いらないとばかりに、女の子としてギリギリの髪の毛の短さ、行動的な彼女の行動を象徴するようにすこし焼けている肌、一目で活発な女の子と言う事がわかる彼女は、うずくまっている僕の肩を、バシバシと笑いながら叩いてくる東条ミナ。
「土日会わなかっただけで、理不尽だと思うけど」
「そういわないでよ、私の記憶の悪さを栄一は覚えているでしょ」
記憶はあるが、人の顔と名前が出てこないと言う事が誰しもあると思うが、ミナはソレを輪にかけて酷くした体質だ、16年前に、同じ日に生まれて家も隣という、中々奇跡的な確立かもしれない幼馴染の事を2、3日会わなかっただけで忘れてしまっている。
そして思い出しただけで、先程のようにまるで数年ぶりにあったかのように思えるほどだ。
「でもアレだね栄一を殴ると、あぁ学校生活始まるなぁって嫌な気分になるよ」
「僕を殴った事で、まず嫌な気分になってくれませんかね」
ミナが人の名前と顔を思い出すキッカケは、人を殴ることで、その人に関連した事を思い出すという一時的で一番手っ取り早い。
実際先程もミナにあったときに、忘れているようなので、殴ってもらって思い出してもらったがお腹がまだ痛む。
「ねぇミナここ最近パンチ、強くなってない?」
「分かる?いやぁダイエットでダンベルとか持って筋トレしているからね」
褒めていないんだけど、にこやかにつき始めた腕の筋肉を見せてくる。
僕の生命に直結するので、ぜひとも程ほどにしてほしい。
「ミナ、程ほどにね、僕の生命にかかわるから」
「大げさだな、腹パン一発で、死なない死なない」
大げさではないんだけど、万事この調子であるためとりあってくれない。
「おじさんも大変だ」
「あぁ土日、親父殴れなくてさ、なんか見知らぬおばさんとおじさんと暮らしてご飯食べてた感じがするよ居心地わるかったしね」
「そう、やっぱり大変だよね」
「親父殴ってこうすっきりしたかったね」
「途中言葉抜けているから、家庭内暴力になっているねそれ」
殴らないと親の顔も思い出せないという大変な難儀な体質であるため、おじさんおばさんも大変だ。先日会った時など、涙しながら本当に娘をよろしく頼む、見捨てないであげてくれと言われてしまった程だ。
「やっぱり、土日出かけないほうがよかったかな」
「大丈夫だったから問題ないって、いざとなったら母さん殴るし」
「それを聞いて、うん分かったといいづらい」
「学校でもこの体質の所為で、栄一にはずいぶんと苦労させてるし、土日ぐらい休まないと1年中殴られる事になるよ」
それをわかっているのに、何故筋トレをしてダイエットをするのだろう。
まぁミナの事だから、あまり考えていなくて本当に腹パン一発では死なないから大丈夫だと思っているのだろう。
「それにしても、ダイエット必要なの?」
ダイエットをする程太っているとは言えず、むしろ健康すぎるぐらいであるはずなのだが、やっぱりそこは体重を気にする女の子と言う事なのだろうか。
「栄一、もしかして忘れてる?」
「えっ何が?」
そう聞き返すと同時に、やっとの思いで立ち上がった後だけど再び、お腹にするどくともすれば世界を狙えそうなほど的確に急所にはいった。
「栄一知っている?記憶を戻すためにはショック療法が一番なんだよ」
うずくまっている僕に、記憶を取り戻すための処置の腹パンという事だろうけど、残念ながらその方法は
僕には適用されないようだ。
「思い出した?」
「いや、洒落になってないほど痛いだけなんだけど」
どうやら、僕がいった一言がダイエットをする要因になったみたいだけど、まったく思い出せない。
「私は、誰かの顔も名前が分からない時でも、ちゃんと出来事は覚えているんだから今度は忘れないでね」
「うん」
「幼稚園の時、栄一が痩せた子が大好きっていってたからダイエット続けているんだよ」
言ったかもしれないが、覚えていないが今の言葉を聞いてふと気づく。
「うん?ミナそれだと」
その続きは、顔を少しだけ赤くしたミナの腹パンにより、言うことが出来ずにいて、意識どころか、いま言われた事も忘れてしまいそうな程だが、これだけは忘れないように脳にとどめておく事にした。
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