高校時代の恋愛というのは、学校生活いや自分の生活に潤いがあるか、枯れ果ててしまうのかが決まってしまう、大事な大事な勝負事である。
まぁ僕は先日、その勝負に負けてしまったのだけど、告白して振られたという事実を教室に入るなり、机の上に張り出されていたのは赤い折り紙が添えられた、高校の校長と生徒会長の判子が押された専用の茶封筒、通称赤紙によって、つきつけられていた。
うちの高校において、テストの結果より貰いたくなく、先生からの呼び出しと同等いやそれ以上のものである赤紙。
誰が始めたかのかは知らない程に、ずっとそれこそ開校以来つづいているのではないかと思うぐらいに、古い風習で、この学校の最もなくなって欲しい校則であるが、廃れることなく、いまも脈々と続く伝統である。
この高校に通う生徒が恐怖する赤紙。
好きな人に告白して、振られたら、赤紙。
恋人と喧嘩して、別れたら赤紙。
男女関係なく、赤紙が貼られたものは、周りに振られたことが知られている事になり、それだけでも恥ずかしいのに、赤紙が届いた生徒は、速やかに屋上に行って叫ばなければならない。
振られた思いを声に出して屋上で叫ばなければならないという、振られた人に対して、追い討ちをかけるような制度だ。
きっとこの制度が廃れないのは、自分も辛い思いしたんだから、お前ら後輩もしろよという人に優しくできない先輩がたからの贈り物だろう。
振られた思いを思い出すためなのだろうか、振られた時の記憶が、走馬灯のように駆け巡ってくる。
相手を待つ事20分以上、その間、妙に汗がドンドンでていたような気がする、クビ元の熱が制服を燃やすんじゃないかってぐらい熱かった。
その汗が引いたのは告白して数十秒後、相手の口からごめんなさいと聞こえた後、一気に抜けて、その後に体中が震えたからだろう。
いやな思い出だ、思い出したくないのに、傷口に塩を塗る行為を自らこれから行う、僕でなくたって、何やっているんだろうと思ってしまう。
すこし階段の上を見上げると、赤紙委員会の腕章をつけた、屋上のドアの前に赤紙の委員会の女性徒が、手招きをしていた。
まるで死神か何かのようだが、それでも一歩、一歩、まだ重い重い足を上げて、最後の階段を上り屋上のドアに到着した。
「大きな声で叫んでくださいね」
「あの僕は、なんでここにいるんですかね」
所詮他人事だからだろうか、それとも答えなれているためなのだろうか、委員会の女性徒は、数秒して答えてくれた。
「振られたからです」
そういって送り出された屋上、フェンスがあり高い場所から、見下ろした地面には、数十人の野次馬の集団ができていた。
見分ける事なんてできないはずなのに、それでも少しばかり探してしまう。
いないことを確認したいのか、もう一度見たかったからなのか分からない。
もし彼女が告白を受けて、つきあう事ができていたなら、ここには立っていないはずなのに、それでも、もしなんて、ないから、僕は此処に立っている。
先程の委員会の人の言葉が突き刺さる、振られたから僕は立っている。
喉がつぶれそうな、聞いている人が耳を塞ぐように、大きな大きな声で叫ぶ、振られたと告白して、数秒で振られたと、大きく、大きく叫ぶ。
目から涙が出ようと、喉から声が出なくなるまで叫ぶ。
まだ、もしかしたら残っている彼女への思いがくすぶっている事も大きく大きく叫ぶ。
聞こえていないのか、聞こえているのか分からないけど、再度大きな声で好きですと叫ぶ。
でも、きっと芽などない事もわかる。
だからもう一度振られた事を確認するために、再度大きな声で振られたと自覚して、ふんぎりをつけるためにまた叫ぶ。
喉がつぶれたわけではないが、声をからしてしまいもう声が出ず、叫びつづけたせいで眩暈すら起こりそうだ。
それでも言いたい事を大声で叫んだせいか、すっきりしたような気がする。
なんで赤紙がなくらないか。
多分きっと振られたとき、大声で叫ぶための、恥も外聞も捨てられるようにだろう。
赤紙は先輩からの素敵な伝統の贈り物。
振られた人だけが開けられる。
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