いつまでも一緒に
その日、海辺に瓶を持って立つ少女は悲しみにくれた顔で遥か遠くを見つめていた。
「(―愛しているわ)」
誰かが言った。
寝転んだ少年の体をそれは蝕み続けた。
少女は、少年にすがりつき、ただただ祈る。
少年はその祈りに答える声を…最早失っていた。
代わりに少女を見つめる。
(―彼女の笑顔が大好きだったのに。)
(―今は泣いている。)
(―ああ、笑ってよ。)
(―僕は今。)
(―君とこの時間を共有出来て)
(―…幸せなんだ。)
少女は、少年の頬を手でそっと包み込んだ。
「…今日は、お外とってもいい天気よ…」
少年は目だけを外に向けようと、動かした。
少女はその反応に、驚いて少年の顔を覗き込む。
起きて、いたの…。
大丈夫よ、私はここにいるわ
少女は少年の大好きな笑顔を顔に浮かべた。
(―貴方が私の笑顔が可愛いと言ってくれたから)
(―私は笑うの)
(―たとえ貴方が死んでしまう瞬間でも)
(―最後まで貴方には幸せでいて欲しいから…)
(―私は笑うわ…)
「大好きよ…―――――。」
(―僕も、君のことを愛してる。)
(―けれど、、、、)
(―身体に力が入らないんだよ…)
(―君は、僕がいなくなっても)
(―きっと大丈夫。)
(―僕は、君の中で生き続けるんだ)
(―だから、一つだけ、我が儘聞いてくれないかな)
少年が、開けていた瞳をゆっくりと閉じた。
握った愛しい少女の手が震えるのがわかる。
それでも、とってもとっても眠たくて。
「愛しているわ…―― 。永遠に……………――ごめんなさい」
少年の身体が冷たくなった。
少女は、一人で少年にすがりついて泣き喚く。
愛してた。
とっても愛してた。
口には出さなかったけれど、彼の事を誰よりも愛してた。
もう動かない少年の手を握りしめて、彼女は泣く。
(―私、ちゃんと、笑えてたかしら…。)
少年は、土の中へと還って行った。
ひとり残された少女は、少年を思って泣いた。
遠くで誰かが私を呼ぶ声が聞こえる。
隣町に住む、お金持ちのお嬢様。
私は、走った。
泣きながら走った。
家に帰った。
彼からもらった大事な宝物をしまった瓶を持って家を飛び出した。
(―貴方に会いたいわ)
(―私は貴方とひとつになりたい)
その日、海辺に瓶を持って立っていた少女は、悲しみにくれた顔を僅かに綻ばせて遥か遠くを見つめていた。
「…ごめんなさい。」
「私、貴方がほかの人のものになるなんて…許せなかったの。」
「ごめんなさい、私、あなたとずっと一緒にいたかったの。」
「…だから。」
少女は消えた。
瓶を抱えたまま、忽然と姿を消した。
―貴方の最後のお願い…叶えたわ
―私は、貴方を忘れなかった
―これで、漸くあなたと一緒にいられるわ