その店はスクープに違いなかった。

ご覧の通り、周りには住宅が立ち並び、その中にあるお店です。
あああ、もう列がズズーッとできてますねえ。
赤いのれんをくぐってみましょう。
さあこちら、何が話題になっているかというと、
裏メニューとしてうわさの『珍ラーメン』です。
撮影ということで、主人にあらかじめ特別に用意していただきました。
一見、何の変哲もない普通の醤油ラーメンのようですが、実はですね、
ある秘密が隠されているのです。テレビの前の皆さん、おわかりになりますか?
その秘密が評判を呼び、こうして長い列となっているわけなんですけれども、
さあ、ではここでまずは私がこちらのラーメンをいただいてみましょう。

ズズ。ズズ。ズズズズ・・・

・・・失礼しました。あまりのおいしさに涙が止まりません。
ああ、なんておいしいの。
そして、こちらのラーメンは美味いか不味いかどちらかなのです。
この店は、そうした客の声を聞きました。
そこでその声の内容をよくよく調べてみたところ、
どうやらある法則がこのラーメンを支配していることに気がついたのです。
ああ、涙が止まらない。
その法則は、まったく外れることがないとのことです。
私は何と美味いラーメンを食べてしまったのだろう。どうしましょう。
このラーメンは恐るべき味なのです。
このラーメンは美味いか不味いかどちらかなのです。
ああおいしい。

そのレポーターはまるで正気を失っていた。
どれほどうまいラーメンなのか。

男は箸を割る。
このスクープは、先週のこのラーメン屋をレポートしたものだった。
録画で流れるテレビの映像は、ここで画面が切り替わった。
レポーターは撮影の三日後、交通事故で死んだ。


このラーメンには秘密の法則がある。
その秘密とは、味。味の度合いでそれを食べた人間の寿命を計る。
まずいと感じる舌を持つ者には長寿が保障されている。
美味ければ美味いほど死が近い。
死ぬほど美味いラーメンは、その字面を裏切ることなく『即死』だ。

あの世とこの世を唯一確実につないでいるメッセンジャー『珍ラーメン』。

それが今、男が持っている箸の先にある。


ああ・・・
ああよかった。
涙が出る。


涙が出るほど、不味いなあ。

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