・第一章・『仮面舞踏会開催~招かれざる主賓~』
当時に於ける人間の交流手段は、極端に限定的なものへ塑性変形される。電話、PC、掲示板、メール、チャット……。オンライン機器の通信等で二次元の画面上でしか意思の疎通を図れない者達が、一時期は偏執と讒謗されるも何時しか市民権を獲得してしまったのだ。
……想像して見て欲しい。
―貴方は不意に外出を試みる。しかし本来ならば膨大な人口、人種が坩堝と化し犇めき合っている筈の市街下で、どれだけ歩を重ね様とも道行く先は全くの無人なのだ。
それは多忙なビジネスマン達で混雑する筈の経済都市だろうと、活力有る若者達が横溢する筈の繁華街だろうと、婦人達が井戸端会議で嬉々としている筈の住宅街だろうと、子供達に取って通学が義務である筈の学校だろうと、世捨て人が掃き溜まっている筈の路地裏で在ろうと……。
……市民総勢で蟄居し、外界との接触を断絶しているのだから。
引き篭もり症候群の世界。
無音の世界。
……無論、正常から異常の烙印を捺された層も漫然と時代の潮流に平伏した訳では無かった。生産性が崩壊し緩慢に麻痺して行く社会機能を回復させようと、政府が或る打開策を実施したのだった……。
―さあ、そろそろこの扉を潜る準備は出来たかな?
*
・第一章・『仮面舞踏会開催~招かれざる主賓~』
―【新・改訂六法全書】―
第1章―国民の権利及び義務―
第1条〔基本的人権の享有・本質〕
全て国民は、個人として尊重される。生命、自由、幸福追及に対する国民の権利に付いては公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で最大の尊重をされる。
第2条〔装着の義務〕
国民は政府から支給されるヘッドギアを装着し、社会的生活を送る事を義務とする。義務であるヘッドギアの装着を怠った者、素顔を公共の場面で晒した者には、50年以上の禁錮を処する。
・〔財産権〕
ヘッドギアは公営の支給品以外の着用を禁ずる。正規品以外のヘッドギアの装着、又、正規品の構造分析、違法改造を厳重に禁止する。この条例に抵触する者は禁錮30年~50年か、三千万以下の罰金に処する。
・刑罰〔個人の尊重〕
国民は全ての基本的人権の享有を妨げられない。他者のヘッドギアを強奪、損壊と言った個人保護侵害行為を働いた者には、それが故意、事故に関わらず無期懲役か死罪を処する。
発行所/『マスコリーダ出版』
―…………―。