吊られた鐘が鳴る音は
開くはずのない扉が開いた。
靴底が床を嘗み、白い煙が鼻を撫でつける。その香の先に金塗りの仏壇が光り、教誨師が傍らで経を上げている。
お菓子と遺書は、と訊かれた。須弥壇上に置かれた最中とツナピコが目に入った。
ならば飲食は、と訊かれたのでおはぎを頬張った。続けて噛み付いたことで息が苦しくなる。
胸元をさすりながら俯いていると、白装束を着せられ、手錠をかけられた。視界が落ちる。
頭に布の袋を被ったまま、部屋を移ってひとりになった。三方のくびを括られ、為す術無く立ち尽くす男を何者かが嗤う。死にたいのかよ、と冷たく笑う。
違う。そんなはずはない。早過ぎる。まだ何もできていないのに。
縄が下顎に食い込み、うう、と声がもれる。眼球の裏で心臓が脈打つのがわかる。
こんなものを自分の人生とは認めない。全部空気が運んで来たことだ。読もうと読めまいと、どうしようもなかった。
そうだ。どうしようもなかったんだ。だからここにいるし、息をするのが辛い。何か方法があって、どうにか出来るのだったら最初から――。
あっ。瞬く間に暗闇が落ちた。黒く閉じるその前に、肉の砕ける音が火花になって瞼の裏で遊んだ。