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「さて、どうしようかな?」
気合をいれたは良いが――と言った感じだが、保育園の前、小休止して爽は思考する。ひなたは不安そうに爽を見ている。ゆかりは、もう突っ込もう? と臨戦態勢だが、頭脳労働担当としては、そう安易に言えない。
「どうするも何も助けるんでしょ?」
とゆかりは、少しイライラしながら、電流を発する。通りを、人々は何も無いかのように通り過ぎて行く。それもそうか、とひなたは思う。爽の手に入れた情報が早過ぎるのだ。
「電流を収めろ、桑島」
と爽は特に意にも介さずタブレットの画面を見やりながら、情報検索を続けている。
「お前、実験室のサンプルが、世間的に公認されると思っているのか?」
「…………」
「桑島の方が今の内部事情は詳しいだろ? 統制がとれない廃材を実験室がどう管理しているか。多分、やり方はもっと姑息で電子化されてると思うけど?」
「――遺伝子実験監視型サンプル、弁護なき裁判団――」
へ? ひなたは爽とゆかりを見る。固い表情で、お互いを見ている。
「やっぱり、監視システムは維持しているんだな。あの人は何も教えてくれないからなぁ」
爽は鬱陶しい表情を隠さずに言う。
「え? え? え?」
「まぁ当然と言えば当然か。一番、廃材を処理しやすいし、データを集めやすいし」
「えっと、爽君?」
ひなたは訳分からないという顔をしている。ゆかりは、これでもかと不機嫌な表情を浮かべていた。
「ひなた」
爽がひなたの目を直視する。
「ひなたはドコまでしたいんだ?」
「へ?」
「常に実験室の監視はある。ひなた自身に、ね。そして今言ったように、廃材(スクラップ・チップス)に対しても。常に奴らは実験を繰り返し、データを欲している。ひなたが能力を行使するって事は奴らにデータを提供するって事だ。遺伝子特化型サンプル【限りなく水色に近い緋色】はSS級の情報ハザードだ。ひなたは実験室とどう向き合う?」
「え……え……?」
パンクしそうになる。まだ現実を直視できていない自分がいる。爽やゆかりは、自分より多くの情報を持っている。でも自分は? 実験室は崩壊したと思う事で日常を両親と求めた。だが結果はどうだ? ひなたは、ドコにも受け入れられない。
「――ごめん、みんな。私が助けたいって言ったのに、私が一番消極的だ」
ひなたは顔を上げる。
「答えは出ない。でも、保育園の子を助けたい。ダメ?」
爽を見る。軽く彼はため息をつき、微苦笑する。
「どっちでもいいさ。俺はひなたを守りたい。でも実験室とどう向き合うか、これだけはそのうち結論を出そう」
「うん」
ひなたは爽がまた協力してくれる事を感じて、笑顔が溢れる。嬉しい、すごく嬉しい――。
「ひな先輩、私もいるからね」
ぐっと拳を固める。
「はいはい、先走るな」
と、その拳を無理矢理、爽は降ろさせる。
「廃材(スクラップ・チップス)は一人だけ。突っ込めばすぐだな。だが、子どもたちを人質にする可能性もある。被害は最小限に抑えたい。後は、実験室にデータを収集される事も防ぎたい」
「うん、そうだね」
と、ひなたも頷く。
「プラス、遺伝子実験監視型サンプル、弁護なき裁判団の介入も防ぎたい。で、時間としては5分でいく」
「5分?」
「桑島、活躍してもらうぞ?」
爽はニッと笑った。