プロローグ 『もう一つの世界』
冬季の寒さは街の建物が燃やされているせいで空気全体が熱くなっていた、地面の上には死体で山積み、この街の逃げ道ほとんどが燃えた建物によって塞がれていた。
「母さん、父さん…どこなの…私を一人にしないでよ…」
街のど真ん中で泣きじゃくる少女は無謀という本心を抑えながらも燃えた瓦礫の中から両親を懸命に探していた。
「こんな所にいたか怜華、探したぞ」
「兄さん…父さんと母さんは…?」
目を瞑りながら首を振る兄の姿を見て怜華は察する。
「そんな…いや…いやだよ…」
泣きじゃくる妹の背中を兄吹雪は優しく摩っていた。
「へえ、まだ生き残りがいたんだ…君強いね…」
「お前は…」
目の前にいた男に二人の兄弟は表情共に体が震える、彼こそが両親、そして世界を滅ぼした当事者だ。震えは次第に消え、胸中に抑えていた恐怖が怒りへと変わり頂点に達するまで沸きあがってくる。
「怜華逃げろ、仇は俺が討つ…」
「手伝います、仇を討つ資格なら私にもあります…」
兄の視線は怜華から目の前の男にへと変わり、戦闘態勢に入る。
「怜華、お前は昔からそういうとこ変わんないよな」
「兄さん…?」
次の瞬間、怜華の身体は雪風に勢いよく飛ばされ、視界から兄と男の姿は消え、燃えた街からも一瞬にし突き離された。
「兄さあああああああああん!!!」
右手で握りこぶしを作り、その手を怒りと共に地面へと思い切り叩き付ける、目からは涙がポロポロと流れていた。
「――許さない…」
彼女の怒りは最大限にまで爆発していた。
「――私はあなたを許さない…遠矢…執行遠矢」