毎年この正月特有の寒さの中に新年のキリッとした様な刺激を空気に感じて目的地へと歩く。
もう見慣れたはずの近所でも、この時期だけは、鼓動が高鳴ってしまうのが止めようもない。
その高鳴っていく鼓動を抑え込みながらいかに後々思いっきり爆発させれるか。
しかし、高鳴っていく鼓動は手足、顔に喜びと興奮を血管という血管を使い抑えていくのも一苦労であることは間違えようもない。
頬がニヤけてしまう。
愉悦の頬を抑えようとした右手も、本気で抑えることを拒絶するようにその頬を抑えきれていない。
歩道を駆け抜けて遊びに向かう名すらしらない子供に自分を重ねてしまいそうになるほどに年を重ねてきたはずではあるが、今日ばかりはその姿を駆け抜けて追い越してしまいたいとすら思うのだから、この高鳴っていく鼓動はまったくもって困ったものだ。
その鼓動がひときわ大きく早くなった。
目的の市民体育館の入り口に、まるで主のように堂々としている。
中学時代の頃から愛用している学校指定のジャージを着ながらも恥ずかしげもなく立っていた人物がこちらに気づき、口角をあげながら近付いてきた。
「遅かったじゃない、負けた時尻尾振ってごめんなさいという覚悟できたの」
「尻尾振ってどうするんだよ」
「もう負け続けてアンタの感覚おかしくなったと思ってたわ」
「たまたま2年連続で勝ったからって調子に乗るな、トータル的にはこっちが勝っているから」
「過去にすがる男は見てて悲しくて滑稽で涙がでそうよ」
「調子づいている女が負けたらどんな顔するか楽しみで楽しみで笑いがとまらなくなりそうだ」
互いに威圧しながらも、相手の様子をつぶさに観察している。
正月というダラけさはなく、むしろ正月だからこそ新年だからこその気合に満ち溢れている。
市民体育館の受付の人が今年もやるのかというような呆れているような顔で受付を行ってくれる。
それでもこちらのやる気というものは削がれる事はない。
そんな小さい事で削がれる程度ならば、やり合う前にもうすでに敗北という結果しかだせないだろう。
いや、そもそも一昨年辺りから母親にも嫌味を言われ始めているようなものなのだから。
お互いの体力と精神が尽きるまで
バドミントンで点を取り合い、勝てば相手の顔に墨を塗るだけの事を毎年やっているればそりゃあ言われる。
羽子板なんて雅なものはなくても市民体育館の遊具のバドミントンはある。
ネット越しに顔面にお互いが墨を書き初めしあって十数年のライバルもいるのだからやめられない止まらない。
確かに普通ならば母親が釘だったか水さすように、こんな事本来ならばいい年をした男女のやることでは無いかもしれない。
だけどね、正月のこれに情熱とかプライドとかその他諸々をぶつけて高めあって此処まで来たんだよ。
もう、後戻りできないような立ち止まる事を考えると目の前にいるヤツとの繋がりも、立場も関係も無くなってしまうかもしれないと考えると辞めるわけにもいかない。
いや何より負けるわけにもいかかない。
お互いに付き合ってもいないし、今となっては進路もすむ場所もちがう。
昔家が近所だっただけの女の子。
小さい頃によくみた心躍る光景だ。
今年もまた向こうも情熱とかプライドとか勝気を込めたサーブされたシャトルの音が体育館に響いた。
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