目指せなでしこジャパン
四天王寺奈央は今日も部活に励んでいる、女子サッカー部では背番号十として攻守に渡って活躍している。
チームの主力として全国大会にも引っ張っていった、それだけに夢は大きくいつもこう言っている。
「私絶対になでしこジャパンに入るから」
「それでよね」
「なでしこジャパンの優勝」
「それが夢っていうのね」
「そうよ、絶対にそうしてみせるから」
自分の力でとだ、目を輝かせて言うのだった。
「私が点を取って守ってね」
「今みたいに攻守で頑張って」
「そうしてそのうえで」
「なでしこね」
「その為に日々頑張っているのよ」
こう言いつつ怪我には気を付けて柔軟体操にも気をつけながら汗をかいていた、だがその彼女にだった。
ある休日に道頓堀のところをクラスメイト達と共に遊んでいた彼女に声をかける者がいた、声をかけてきたのは中年の痩せた出っ歯のスーツの男だった。
彼は名刺を出してだ、奈央に言ってきた。
「君奇麗だね」
「私が?」
「そう、しかも背もあるし胸は大きくて」
奈央のその自己主張し過ぎている胸についても言ってきた。
「脚も奇麗で」
「それも」
「しかも白い」
ミニスカートから出ているその脚にも注目していた。
「そんないい脚ないよ」
「そうでしょうか」
「君ならグラビアでもいけるし」
「グラビア?」
「アクションも出来るだろうしレッスン次第でだ」
男は彼のペースで友人達と共に自分の前にいる奈央に話していく。
「歌もダンスも出来る様になって」
「若しかして」
「名乗り遅れたね、こういう者だよ」
男はここで奈央に名刺を渡してきた、そこには彼の名前と電話番号の所属先が書いてあったが。
所属先は大阪を拠点とする日本の誰もが知っている超が付く程の大手芸能プロだった。
その名刺を見てだ、奈央だけでなく友人達も驚いて言った。
「嘘、あそこ!?」
「あそこの事務所のスカウトなの」
「まさか奈央ちゃんに声かけるなんて」
「けれどそれもありよね」
「奈央ちゃんならね」
その顔とスタイル、特にスタイルを知っていて友人達も言う。
「胸滅茶苦茶大きいし」
「お尻も奇麗だし」
「脚もいいし」
「だったらね」
「君なら本当にグラビアでトップに立てるから」
男は奈央にさらに言ってきた。
「だからね」
「それで、ですか」
「うん、考えてくれるかな」
芸能界入り、まさにそれをというのだ。
「よくね、それも前向きに」
「前向きに、ですか」
「出来たらね、じゃあまた連絡してね」
名刺は奈央に渡したうえでだった、彼はその場を後にした。残された奈央は友人達と共にこんなことを話した。
「まさかね」
「そうよね」
「まさかよね」
「本当にね」
「こんなことになるなんて」
「スカウトが来るなんて」
友人達も言うのだった。
「本当にまさかよ」
「確かに奈央ちゃんのスタイルなら、だけれど」
「実際グラドル並だから」
「有り得るわ」
「それはね」
実際にというのだ。だが。
奈央の複雑な顔を見てだ、彼女達は奈央本人に尋ねた。道頓堀の蟹の前を通ってももうそれは目に入らなくなっている。
「奈央ちゃんはどう思ってるの?」
「何か微妙な感じに見えるけれど」
「実際に微妙?」
「そうなの?」
「いや、スカウトされるなんて」
それこそとだ、奈央は友人達に答えた。
「想像もしてなかったから驚いてるの」
「そうなの」
「まあそうよね、本人さんとしては」
「いきなり声かけられたらね」
「普通にそうなるわよね」
「びっくりして」
「だからね」
それでというのだ。
「どうお返事していいか考えてるのよ」
「受けたら?」
「迷ってるのならそうしたら?」
「いっそのことね」
「そうしたら?」
「皆そう言うけれど芸能界とかね」
とてもという返事だった、奈央の今度のそれは。
「いきなり言われても」
「それでもよね」
「困るっていうのね」
「そこは」
「そうよ、芸能界ね」
また言った奈央だった。
「本当にどうしようかしら」
「じっくり考えてくれなんてこと言ってるし」
「そうしてから決めましょう」
「まずはね」
「そうしましょう」
「ええ、考えるわ」
そうすると答えてだ、奈央は気持ちを切り替えてそのうえで友人達と道頓堀で遊ぶのに専念した。
しかし数日の間どうしようかと常に考え悩んでいた、芸能界入りを誘われて悩むのは勘所にしてもだった。
それで考えているとだ、ある日。
部活でサッカーボールを見てだ、ふとだった。
なでしこに行きたい、この気持ちを思い出した。この数日間悩んでいたその思いをだ。それでだった。
奈央は決めた、それで家に帰るとすぐに彼に電話した。
その次の日だ、奈央は友人達に笑顔で話した。
「スカウトの話断ったわ」
「そうしたの?」
「折角の話だったのに」
「断ったの」
「そうしたの」
「ええ、私から電話を入れてね」
そのうえでとだ、晴れやかな顔で言うのだった。
「そうしたわ」
「ううん、何でまた」
「断ったの?」
「グラドルとかアクションとかアイドルって言われてたのに」
「それで断るなんて」
「勿体なくない?」
「勿体ないかも知れないけれど」
それでもとだ、奈央は友人達に晴れやかな顔のまま答えた。
「私の夢は決まってるから」
「断るの」
「あそこまで期待されてる感じだったのに」
「それでもなの」
「それでもね」
相手の期待はわかるがというのだ。
「やっぱり私サッカーが好きだし」
「なでしこになりたい」
「それで日本を優勝させたい」
「それで芸能界のお話は断るのね」
「そうするわ」
こう言って実際にだ、奈央は芸能界入りの話は自分から連絡を入れて正式に断った。そうして後はサッカーに専念したが。
夢適いなでしこジャパンに入ったがここでだ。またあのスカウトが来て彼女に言ってきた。
「サッカーはそのままで」
「あの、ですから芸能界は」
「いえ、ですから選手のままで」
こう言うのだった、戸惑いを見せる奈央に対して。
「お願いします」
「選手のままで?」
「それだと余計に宣伝になりますから」
「現役選手だからですか」
「そうです、現役なでしこのグラビアとか」
そうした話になるからだというのだ。
「是非です」
「グラビアですか」
「そうです、どうですか?考えを変えまして」
「前にスカウトしてくれた時とは」
「はい、選手活動はそのままされて」
そのうえでというのだ。
「宜しくお願いします」
「そこまで言われるのなら」
奈央も選手としてはそのままでいいと言われてだ、それで頷いたのだった。
サッカー選手になる夢は適った、そしてそのスタイルを武器にグラビア等の芸能活動も行う様になった。奈央にとっては思わぬ奇貨だった。
目指せなでしこ 完
2017・6・25
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