高価なプレゼント
 文ノ里麻里子は交際相手、彼氏に学校でこんなことを言われた。
「今度の誕生日プレゼント期待していてくれよ」
「別にいいわよ」
 無欲でさばさばとしている性格の麻里子は相手に笑って返した。
「別にね」
「いや、そういうけれどさ」
「こうしたことはっていうのね」
「やっぱりさ」
 どうしてもという返事だった。
「わかるだろ、何もなしってな」
「彼氏としては」
「麻里子ちゃんだって俺の誕生日にプレゼントしてくれたじゃない」
「そんなの当然でしょ」
 麻里子は彼氏にあっさりと答えた。
「それはね」
「交際していると」
「そう、普通でしょ」
「その普通だからだよ」
「私の誕生日にプレゼントをなの」
「させてもらうよ」
 これが彼氏の返事だった。
「だからいいよね」
「別にいいのに」
 まだ言う麻里子だった。
「そんなことは」
「まあそれでもさ」
「プレゼントをなの」
「させてもらうよ、俺アルバイト頑張ってきたから」
 それで金はあるというのだ、学生としてはかなり。
「期待していてよ」
「それじゃあ」
 麻里子も頷いた、本音は変わらないがそうした。そしてその誕生日にだ。彼は麻里子にプレゼントをしたが。
 そのプレゼントを見てだ、麻里子は驚いて言った。
「嘘、こんなに?」
「そうだよ」
 ネックレスにヘアバンド、ブレスレットにブリーチだった。
「全部ね」
「どれも高かったでしょ」
 しかも四つだ、それで言うのだ。
「一万位するんじゃ、全部」
「だからバイト頑張ったから」
「お金のことはなの」
「気にしないでいいよ」
 笑って麻里子に言うのだった。
「本当にね」
「ここまでは」
「あと食べに行こうか」
「食べに?」
「そう、とっておきのとまではいかないかな」
「どんなお店なのよ」
「大阪にいたら誰でも知っているお店だよ」
 これが彼の返事だった。
「そこはね」
「誰でも?」
「そう、誰でもね」
「そのお店に今からなのね」
「行こう、それもプレゼントだよ」
「こんなにしてもらうとか」
 麻里子は受け取ったネックレスやブレスレットを見て言う、こうしたものは好きなので価値もそれなりにわかる、どれも一万はするもので学生としてはかなりの出費であることは間違いない。
 しかも食べに行くとも言われてだ、それで言ったのだ。
「幾ら何でも」
「いいから、じゃあ食べに行こうね」
「それじゃあ」
 彼の押しに負けて頷いた、そのうえで向かった店はというと。
 道頓堀の巨大な動く蟹が看板の店だった、その店の前に来て麻里子は思わずその店の名前を言った。
「かに道楽じゃない」
「どうかな」
「だから私達学生なのに」
 高いだろうにというのだ。
「ちょっと」
「だからね」
「お金のことはなのね」
「気にしなくていいから」
 笑って麻里子に言うのだった。
「本当に」
「じゃあ」
「一緒に食べに行こう」
「わかったわ」 
 こうしてだ、麻里子は彼と共に店の中に入ってだ。そのうえで二人で鍋を中心とした蟹料理を食べたが。
 最後の雑炊の時にだ、麻里子は彼の碗に雑炊を入れつつ行った。
「ねえ、今日はね」
「今日は?」
「幾ら何でもここまでっていうのがね」
「麻里子ちゃんの気持ちだね」
「そう思ってるけれど」
「だから僕の気持ちはね」
 それはというのだ。
「本当にね」
「ここまでなのね」
「そう思ってだから」
「そこまで私のこと想ってくれてるのね」
「嫌かな」
「嫌な筈ないじゃない」
 微笑んでだ、麻里子は彼に答えた。
「ここまでしてもらって」
「そう、それなら嬉しいよ」
「じゃあ私もアルバイト頑張って」
 そうしてとだ、麻里子は彼にこうも言った。
「貴方の次のお誕生日にはね」
「こうして?」
「プレゼントさせてもらうわ」
 麻里子もそうするというのだ。
「是非ね」
「それはいいよ」
「よくないわよ、こうしたことはね」
「お互い様?」
「そうよ、貴方が蟹できてくれたから」
 それでというのだ。
「私は河豚にしようかしら」
「河豚なんだ」
「今道頓堀にいるでしょ」
 かに道楽があるそこにだ。
「だからね」
「づぼら屋だね」
「そこでいいかしら」
「いいね、じゃあ今度はね」
「づぼら屋に行きましょう」
「僕の誕生日には」
「そうしましょう」
 彼が入れてくれる雑炊を受け取りながら応えた。
「是非ね」
「それじゃあね」
「その時は」
 二人で最期の雑炊を食べながら話した、麻里子は彼に今もそこまでしてくれなくてもと思った、だがそれでいてだった。
 暖かさを感じた、その暖かさは鍋の最後の雑炊以上だった。それこそが彼の最高のプレゼントであることがここで分かって自然と笑顔になった。


高価なプレゼント   完


                 2017・6・26



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