気になっていて
平野恵には悩みがあった、その悩みは何かというと。
体育の授業の前に更衣室で着替えながらだった、半ズボンを穿いたところで自分の脚を見て言った。
「太いわよね」
「またその話?」
「脚が太いっていうのね」
「挙句は身体全体が太い」
「そう言うのね」
「ううん、どうしてもね」
恵はその奇麗な眉を曇らせてクラスメイト達に答えた、皆それぞれ着替えている最中である。
「太いかなってね」
「気にし過ぎでしょ」
「皆そんなものよ」
「恵ちゃん普通でしょ」
「特に太ってないわよ」
「そうかしら」
自分では太っていると思ってこう言うのだった。
「どうもね」
「自分では太い」
「そう言うのね」
「そう思えて仕方ないのね」
「私としてはね、こうなったら」
ここで恵は決心した、言いつつ体操服の上着を着る。白い奇麗なものだ。生地が厚めで白いブラに覆われた大きな胸も問題なく覆っている。
「もう部活だけじゃなくて」
「ダイエット?」
「それするの?」
「はじめるの?」
「そうするわ」
水泳部の部活以外にもというのだ。
「そうしてね」
「痩せるの」
「脚も身体も」
「そうするの」
「そうするわ」
絶対にとだ、着替えのチェックをしつつ友人達に言った。
「今からね」
「じゃあ食事制限とか」
「カロリーも考えて」
「そうしていくの」
「そうするわ、それで痩せて」
そうしてというのだ。
「すらっとなるから」
「モデルさんみたいな」
「そんな体型になるの」
「今から」
「その通りよ」
まさにとだ、恵はその目を輝かせてもっと言えば強くさせてそうしてであった。早速だった。
食事を変えた、大好きな麺類もラーメンやうどんから蕎麦にして。
おやつもこんにゃくゼリーや低カロリーのものにしてだった。
納豆や豆腐を中心に食べる様にして肉もだった。
「お母さん、お魚かささみにして」
「お肉は?」
「そうしてね」
「ささみってね」
母は娘のその言葉にこう返した。
「格闘選手みたいじゃない」
「だって低カロリーだから」
それでというのだ。
「そっちにしたいの」
「あんた痩せたいの?」
「そうよ」
その通りだとだ、恵は母に即座に言った。
「本当にね」
「それでなのね」
「痩せるから、私」
「今で充分よ」
母も友人達と同じことを言った。
「あんたはね」
「皆そう言うけれど」
恵は母にもこう言った、曇った顔で。
「私としてはね」
「痩せたいの」
「そうなの」
こう言うのだった。
「どうしてもね」
「今以上にっていうのね」
「水泳してるから」
運動はしているからだというのだ。
「後はね」
「食べるものね」
「うどんやラーメンもお蕎麦にしてるし」
「あとお野菜も沢山食べてるわね」
「これまで以上にね」
「それでなのね」
「ええ、お肉も変えて」
ささみや魚を多くしてというのだ。
「痩せるわ」
「そんな必要ないと思うけれど」
「そうはいかないから、お願いね」
「やれやれね、けれど痩せ過ぎても」
「よくないよね」
「そうよ」
「お母さんがそう言っても」
自分は徒いうのだ。
「本当にね」
「引かないわね」
「こっちも必死なのよ」
痩せることにというのだ、
「脚も身体全体もすらりとなって」
「そうしてなのね」
「運動もして」
そしてというのだ。
「痩せるから」
「そこで食べないとは言わないのね」
「そうした考えはないから」
はっきりとだ、恵は母親に答えた。
「私も」
「それはいいことよ、食べないとね」
「身体にもよくないわね」
「そうよ、食べるものを変える」
ダイエットをしたいのならだ、食べないのではなくそうした方がいいというのだ。
「それはいいことよ」
「ささみやお魚やお野菜中心にするのも」
「いいことよ、ただね」
「神経質になってるとかいうの」
「恵ちゃんそんなに太ってないじゃない」
すらりとしてはいないがそれでもというのだ。
「そのままでいいじゃない」
「太い脚と身体が嫌なの」
「だからすらりとしたいの」
「そう、だから水泳の部活も頑張ってるし」
これまで以上にだ、部活だけでなく自主練として休日に市営プールで泳いだりランニングもはじめている。
「身体全体がすらりとなりたいの」
「そこまで言うなら仕方ないわね」
「じゃあささみとかお魚にしてね」
「わかったわ、お母さんやお姉ちゃん達に言っておくわ」
「そうさせてもらうわ」
こう言ってだ、そしてだった。
恵は食事も本格的に変えてダイエットに励んだ、その結果。
確かに脚も身体全体もだ、すらりとなった。だが。
ダイエットに成功した恵が更衣室で体操服に着替える様子を見てだ、彼女のクラスメイト達は首を傾げさせて彼女に言った。
「何かね」
「それでいいの?恵ちゃん」
「恵ちゃん的には」
「そうなって」
「ううん、実はね」
恵自身も言う、スカートを穿いたまま半ズボンを穿きながら。
「想像していたのとはね」
「違うわよね」
「そうよね」
「すらりとなると思ったら」
それがというのだ、見れば。
恵の脚は以前より筋肉質になっていた、確かに痩せたことは痩せたがほっそりとではなくそちらになっていた。
「それがね」
「逞しくなったわね」
「強い感じね」
「キック力ありそう」
「強そうね」
「ささみとか食べて」
そしてというのだ。
「低カロリーでね」
「それでも蛋白質は摂って」
「運動熱心にしたら」
「身体が自然に鍛えられて」
「脂肪が減って」
「こうなったの」
筋肉質になったというのだ。
「この通りね」
「ううん、お腹もね」
「痩せたけれど」
「身体全体が確かに」
「けれどね」
「こうなったのよ」
今度はブラウスのボタンを外して脱いだが腕も腹もだった。ついでに背中の方も肩もである。
「筋肉質になったの」
「鍛えられたからね」
「しかも低カロリー食事だったから」
「それで泳いで走ったら」
「自然と脂肪が減って筋肉がついてね」
「こうなったの、モデルさんみたいになりたかったのに」
それがというのだ。
「こうなったわ」
「想い通りにはならなかったってことね」
「モデルさんみたいになりたかったのに」
「逞しくなったのね」
「アスリートみたいに」
「そうみたい、測ったら脂肪率は凄く減ってたわ」
見てわかる通りにというのだ。
「けれど体重はかえって増えてね」
「筋肉って思いからね」
「かえって体重は増えるのよね」
「どうしてもね」
「体重はいいとして筋肉になったのは」
痩せてもモデル体型ではなくそれが目立つ様になったことはというのだ、当の恵にしても。
「予想外だったわ、どうしたものかしら」
「食事戻したら?」
「前のままにね」
「そうしたらいいんじゃない?」
「今の状況をどうかって思うなら」
「そうしようかしら、けれどね」
上着を完全に脱いでスカートも脱いでから言った、完全に体操服姿になった。
「上手にいかないものね」
「ええ、ただね」
「胸はそのままじゃない」
「そっちは減ってないわよ」
「脂肪なのに」
「そういえば」
言われてだ、恵も気付いた。大きな胸はそのままだった。
「こっちはそうね」
「それはよかったわね」
「胸は変わらないのは」
「そうね、このことは本当にね」
恵もそれはいいと思った、実は胸が大きいことは彼女にとっても密かな自慢であるからだ。
「よかったわ」
「まあ前の方がずっといいんじゃない?」
「恵ちゃんマッチョになりたい訳じゃないみたいだし」
「それならね」
「実際筋肉よりも」
実際にというのだ。
「まだ前の方がいいかしら」
「じゃあ食生活は元に戻して」
「トレーニングも減らす」
「そうしていくのね」
「そうするわ、ダイエットも難しいわね」
恵は体操服から下着が見えていないかチェックしつつ友人達に応えた。
「筋肉質になりかねないのね」
「そういうことね」
「今の恵ちゃんみたいに」
「そうなるのね」
「ダイエットは中止するわ」
恵は完全に決めた、今ここで、
「そうするわ」
「うん、それじゃあね」
「そうしなさいね」
「このまま続けたら余計にマッチョになりそうだし」
「そうしてね」
友人達も言う、かくして恵はダイエットを止めてマッチョから元に戻ることにした。その話をされた母は娘にやれやれといった顔でこう言った。
「だから言ったでしょ」
「ダイエットするよりもなのね」
「そのままでいいってね」
「そうみたいね、いや本当にね」
娘は母に少し憮然とした顔で応えた。
「ダイエットも良し悪しね」
「そういうことよ、じゃあ今夜はカツカレーにするわよ」
カロリーの高いこの料理にするというのだ。
「恵ちゃんも好きでしょ」
「ええ、最近はダイエットでチキンカレーやシーフードカレーをお願いしていたけれど」
それでもというのだ。
「お願いね」
「そうするわね」
そして実際にだった、恵はこの夜久し振りにカツカレーを食べた。そのカツカレーは実に美味かった。
気になっていて 完
2017・7・26
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