もっと高く
 心斎橋まおみはこの日も部活の高跳びの練習を熱心にしていた、学校の体操服である半ズボン姿で何度も何度もだ。
 跳ぶ、しかしだった。
 どうしても目標の高さを跳べずにだ、背面跳びで跳び込んだマットの上で落ちるハードルを見て苦い顔になった。
 そしてだ、マットから出てから言った。
「もう一回よ」
「今日はもう止めたら?」
「もう遅いわよ」
「部活の終わる時間過ぎてるし」
「だからね」
 同じ陸上部の同級生達はそのまおみに止める顔で言った。
「もうこれ位にして」
「今日はね」
「それで明日ね」
「また明日練習して」
「その時にね」
 明日こそというのだ。
「跳べればいいじゃない」
「そうなればいいでしょ」
「だから今日はね」
「これ位にして」
 そしてというのだ。
「お家に帰りましょう」
「後片付けをして」
「そういえば」
 まおみは友人達に言われて少し高跳びから目を離した、そして周りを見るとだった。
 もう暗くなっている、それで言った。
「もうね」
「終わった方がいいわよ」
「これ以上やったら夜になるわよ」
「だからね」
「もう帰ろう」
「それじゃあ。けれど」
 友人達に言われて帰ることにした、しかし。
 そのことを決めてもだ、まおみは苦い顔でこうつぶやいた。
「中々跳べないわね」
「その高さね」
「目標にしてる」
「それがっていうのね」
「まだっていうのね」
「そうなのよ、何度も何度も跳んで」
 そしてというのだ。
「跳び方も助走の仕方も考えて」
「それで跳んでも」
「まだっていうのね」
「跳べない」
「そうだっていうのね」
「そうなの、どれだけどんな跳び方をしても」
 練習をしても工夫をしてもというのだ。
「跳べないのよ」
「まあそれなね」
「何度も何度も練習して」
「そうしてね」
「跳べる様になる」
「それしかないから」
「結局は」
 友人達もこう言うしかなかった、既に高跳びのポールもバーもマットもなおしだしている、そうしつつ話していた。
「だからね」
「今は無理でもね」
「練習するしかないわよ」
「跳ぶ為には」
「そうよね、けれど今回は」
 どうしてもというのだ。
「跳べるのかしら」
「限界?」
「限界かもっていうの」
「跳べないかもって」
「そうも思ったりしてるし」
 つまり自信がなくなろうとしているというのだ。
「どうもね」
「けれど明日も跳ぶでしょ」
「そう思っていても」
「そうでしょ」
「あの高さ跳べたら」
 その時はとだ、まおみは友人達と共にマットを倉庫の中になおしつつそのうえでこう言った。
「大会でも優勝出来るし」
「だからなのね」
「何とか跳べる様にする」
「そうなるのね」
「そうなりたいから」
 だからだというのだ。
「明日もね」
「跳ぶのね」
「そうするのね」
「そうなるわ、跳べないかもって思ったりもするけれど」
 それでもというのだ。
「やるわ」
「その意気よ」
「やっぱり練習しかないから」
「だからね」
「まおみちゃんが跳びたいなら」
「練習あるのみよ」
「工夫もしながらね」
 その跳び方のだ、こうしたことを話しながらだった。
 まおみは友人達と共にマット等もなおしてだ、そしてだった。
 着替えてだ、この日は家に帰った、それからは夕食に風呂に宿題をしてから寝たがその次の日もだった。
 朝練でも放課後でも汗をかいた、そのうえで。
 高跳びの練習もした、何度もだ。
 だがこの日も跳べずその次の日もだった。
 跳べずだ、まおみはさらに悩むことになった。それでまた跳べなかった時にこんなことを漏らした。
「駄目?ひょっとして」
「やっぱり跳べない?」
「そうだっていうのね」
「無理かって」
「そうだっていうの」
「そう思ったわ」
 今回無理でというのだ。
「これは」
「じゃあ止める?」
「諦める?」
「跳ばないの?」
「そうするの?」
「いえ、それでもね」
 目標としているその高さを跳べない、それではとだ。まおみは無理かも知れないと思いつつこうも言った。
「跳べないと優勝出来ないから」
「大会で」
「だからなのね」
「跳ぶのね」
「まだ」
「そうするわ」 
 こう言うのだった、そして。
 まおみはまた跳んだ、しかしまた無理だった。だがそれでもだ。
 挑戦し続け工夫も続けた、そうしていくと。
 次第にとだ、友人達が彼女に言った。
「よくなってきてるわよ」
「バーの落ち方でわかるわ」
「前はすぐに落ちてたのよ」
「身体がかなり触れていてね」
 跳ぶその時にというのだ。
「そうなっていたけれど」
「今はね」
「身体もかなり触れなくなっていて」
「それでバーの揺れ方も少しになってきていて」
「暫く後で落ちる様になってるから」
「もう少しよ」
「そうなの?だったら」
 それならとだ、まおみも希望を持ってだった。
 さらに跳ぶことにした、あと少しならと思ってだ。
 それで跳び続けた、この時から一週間大会がそろそろ間近という時にだった。
 跳んだ後のバーを見ると微動だにしなかった、そのバーを見てだった。
 まおみは笑顔でだ、マットの上で両手を拳にして叫んだ。
「やったわ!私跳んだわ!」
「ええ、やったじゃない」
「遂に跳んだわね」
「今ね」
「ええ、やったわ」 
 まおみは友人達のところに駆け寄って彼女達にも話した。
「本当にね」
「遂によね」
「あの高さ跳べたらね」
「本当にね」
「優勝出来るわよ」
「これはね」
「そうよね、大会でも跳ぶわ」
 今跳べた、後はそれを確実にしてというのだ。まおみはそれからのことも考えていた。
「この高さをね」
「今のままね」
「それでしっかりとしていきましょう」
「今の感覚忘れないで」
「そうしてね」
「やっていくわ、まぐれかも知れないけれど」
 それでもというのだ。
「跳べたわ、後は」
「そう、確実にしていきましょう」
「この高さを跳べるのを」
「それをね」
「そうしていきましょう、じゃあね」
 こう話してだ、そしてだった。
 まおみは目的の高さを跳べた喜びをそのままにさらに跳び続けた、そして目標としていた大会でだ。
 その高さを跳んでだ、優勝した。そしてその時も言った。
「跳べないかもっても思ったけれど」
「跳べたわね」
「やったわね」
「ええ、無理かもって思っても努力していけば」
 練習、そして工夫をしていればというのだ。
「出来る様になるのね」
「そういうことね」
「幾ら難しくても」
「その時は無理でも」
「そういうことね」
「それがわかったわ」
 実際にというのだ、そしてだった。
 まおみは大会が行われた競技場を満面の笑みで友人達と共に後にした、苦しんだ分だけ今は強く喜んでいた。まるでトンネルから抜け出せた時の様に。


もっと高く   完


               2017・7・27

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