ドールハウスが好きで
 長原知美の趣味は人形集め、そして人形作りだ。日本の人形もフランス人形も大好きである。
 しかしその彼女が一番好きな人形とその関係はというと。
「ドールハウスが好きなの」
「ああ、イギリスの」
「あれが一番好きなの」
 クラスでその大好きな人形の話をしている中で友人達ににこりとして話した。
「何といってもね」
「本格的ね」
「リカちゃんとかのじゃなくて」
「イギリスのなの」
「あれが一番好きなの」
「勿論リカちゃんも好きよ」
 言うまでもなくという感じでだ、知美は言い切った。
「けれどね」
「ドールハウスね」
「リカちゃんのもいいけれど」
「あの本格的なのがね」
「一番好きなの」
「そうなの、けれど」
 楽し気だった表情を少し寂しいものにさせてこうも言った。
「ドールハウスって高いから」
「ああ、そうなの」
「それでなの」
「高いから」
「買えないのね」
「お人形はまだ買えて作られるけれど」
 それでもというのだ。
「ドールハウスってこれはっていうのは凄く高くて」
「作ることもなのね」
「出来ないっていうのね」
「そうなの、だからね」
 それでというのだ。
「まだね」
「買えないの」
「ドールハウスは」
「それは」
「それだけはね」
 とにかく一番買いたいがというのだ。
「手が出ないの」
「買える様になればいいわね」
「お金を貯めて」
「そうしてね」
「そうね、こうなったら」
 ここでだ、こうも言った知美だった。
「うちの高校アルバイトやってもいいし」
「アルバイトして」
「それでお金貯めて」
「ドールハウス買うの」
「そうするの」
「そうしようかしら」
 本気で考えていた、そのうえでの言葉だ。
「ここは」
「そこまでして欲しいのね」
「じゃあそう思うならね」
「やってみたら?」
 友人達も知美がそこまで思うのならと考えてだ、彼女の背中を押すことにした。そしてだった。
 知美はドールハウスを買う為にアルバイトをすることになった、だが知美はまだアルバイトの経験がなく。 
 具体的にどういった仕事をするかからだった、だが。
 求人雑誌を読んでもどれがいいかわからずだ、このことから悩むことになった。
「どのアルバイトがいいかしら」
「色々あるじゃない」
「それこそね」
「スーパーでもコンビニでも」
「喫茶店でもね」
「何でもあるでしょ」
「アルバイトなら」
 友人達は学校でこう知美に話した。
「それこそ」
「雑誌見たら何でも書いてるでしょ」
「知美ちゃんのお家の近くでも」
「学校の周りでも」
「難波とか鶴橋とか幾らでもあるじゃない」
「上本町でもね」
「そうだけれど」
 それでもとだ、知美は困った顔で言った。
「これがね」
「どのお仕事にしたらいいかなのね」
「わからないのね」
「どうにも」
「ええ、本当に色々あって場所も時給もだけれど」
 自分の席で求人雑誌を開きつつ困った顔で周りにいる友人達に話していた。
「多過ぎるせいかしら」
「どれにしていいかわからない」
「そういうことなの」
「具体的にどうか」
「どのお仕事にしていいか」
「そうなの、どうしたものかしら」
 この日一日考えたがどうしてもどの仕事がいいかわからなかった、それで次の日も悩んだが。
 ふとだ、学校で相変わらず雑誌を見ながらだ。知美は友人達にこう言った。
「もうお家の近くでスーパーとかコンビニとか」
「手当たり次第に?」
「電話かけて応募の書類書いて」
「それでなの」
「面接行くの」
「そうしようかしら、もう書類は書いてるし」
 求人のそれはというのだ。
「お母さんに色々教えてもらって」
「そうね、じゃあね」
「そうしたら?」
「迷っていても動かないからね」
「何もね」
「そうよね、とにかくお金が欲しいから」
 ドールハウスを買う為だ、何としても。
「まずはね」
「働くお金を稼ぐ」
「そうするのね」
「そうするわ、こうなったら」
 迷っても仕方ないと思ってだ、そしてだった。
 知美は願書を持ってとにかく手当たり次第に電話をかけてそうして面接に行った、しかし最初のコンビニは不採用となり。
 次の喫茶店もその次の本屋でもだった、それでだった。
 クラスでだ、友人達にまたしても困った顔で話した。
「もう三連続でね」
「不採用なの」
「そうなったの」
「どのお店ももっといい、経験者の人が面接に来ていて」
 知美以外にもというのだ。
「それでなの」
「知美ちゃんアルバイトはじめてだから」
「それでなのね」
「断られてるの」
「そうなの」
「そうみたい、私は高校生だけれど」
 今度は身元の話もした。
「大学生とかフリーターの人もいて」
「大学生の方が時間作りやすいからね」
「そうそう、高校生と比べて」
「だったらね」
「どうしてもね」
「そっちの人の方がってなるわよね」
「フリーターの人なら余計に」
 勤務出来る時間の関係でというのだ。
「それは仕方ないわね」
「相手が悪いわね」
「その場合は」
「どうしても」
「だからね」
 それでというのだ。
「もうね」
「三連続でなのね」
「不採用になってる」
「そうなのね」
「どうなるのかしら」
 暗い顔もだ、知美は見せた。
「このまま何処にも採用してもらえなかったら」
「まあ何処か採用してもらえるわよ」
「面接受けていったらね」
「今はたまたまで」
「絶対にね」
 知美に友人達は励ましてこうそれぞれ言った。
「だから安心して」
「何処にも採用してもらえないとかないから」
「色々行ってたら絶対に何処かに採用してもらえて」
「お金も稼げるわ」
「そしてドールハウスも買えるから」
 知美が買いたいと思っているそれもというのだ。
「だからね」
「今から心配することないから」
「絶対に何処かに採用してもらえて」
「お金稼げる様になるわよ」
「そうね、今は落ち続けてるけれど」
 それでもとだ、知美も皆の言葉に励まされて意気を取り戻して言った。
「きっとね」
「そう、何処かね」
「採用してもらえるから」
「今はたまたまってことで」
「諦めないことよ」
「そうね、じゃあ次のお店の面接に行くわね」
 顔を上げて言った、その知美にだ。
 友人達はあらためてだ、彼女に今度は面接のことを尋ねた。
「それで次の面接何時?」
「何時面接なの?」
「それで」
「今日なの」
 知美はこう答えた。
「今日の放課後なの」
「場所何処なの?それで」
「どういったお店なの?」
「駅前のスーパーよ」
 そこだとだ、知美は店のことも答えた。
「そこでなの」
「ああ、あそこね」
「あそこのスーパーね」
「うちの生徒や先生もよく行ってる」
「あそこね」
「そう、あそこよ」
 まさにその店だというのだ。
「あそこに面接に行くから」
「あのスーパーだったら行くのも楽ね」
「下校の時にそのままだから」
「それで終わったらそのままお家に帰られる」
「丁度いいわね」
「採用してもらえたら」
 知美は心から言った、そこには強い希望がった。
「嬉しいわ」
「そうよね」
「ここは是非ね」
「採用してもらいたいわね」
「あそこならね」
「それじゃあ今日面接行って来るわ」
 こう言ってだ、知美はこの日も面接に行った。そしてその面接から一週間程でだ。彼女は友人達にクラスで笑顔で話した。
「採用になったわ」
「あっ、よかったじゃない」
「おめでとう」
「じゃあ晴れてね」
「知美ちゃんお金稼げる様になったわね」
「アルバイトで」
「放課後から九時までレジ打ちに入るから」
 おおよそ四時から閉店の九時までというのだ。
「頑張るわ」
「頑張ってね」
「それでお金稼いでね」
「そのうえでドールハウスね」
「あれ買うのね」
「買うわ、お金があったら」
 それこそとだ、知美は目をきらきらと輝かせて話した。
「ドールハウスも買えるし」
「他のお人形もね」
「買えるわね」
「人形作りの道具もね」
 そちらもというのだ。
「もっと買えるから」
「じゃあ頑張ってお金稼いでね」
「やっと採用してもらったし」
「ええ、私頑張るわ」
 こうしてだった、知美は晴れてアルバイトでお金を稼げる様になった。そして実際に思いきり働いてお金を稼いだが。
 ドールハウスを買ってもアルバイトは続けた、友人達は知美にそれはどうしてかを尋ねた。
「やっぱり他のお人形も欲しいから?」
「作る道具も」
「それでなの?」
「それもあるけれど」
 それだけではないとだ、知美は友人達に笑顔で答えた。
「アルバイトが楽しくて」
「アルバイト自体が」
「それでなの」
「そう、だからね」
 だからだというのだ。
「今もしているの」
「成程ね」
「それでなのね」
「そう、これからも続けるわ」
 笑顔で言ってだった、知美はこの日もアルバイトに励んだ。人形だけでなくそちらも趣味になったことに喜びながら。


ドールハウスが好きで   完


                  2017・7・29

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