プロポーションの秘密
 阿波座陽奈はスタイルがいいことで知られている、それで友人達はその陽奈によくこんなことを言っていた。
「どうしたらそんなにスタイルがいいの?」
「胸は大きいし形もいいし」
「それにウエストはくびれていて」
「お尻は程よい大きさで形もいい」
「しかも脚も長くて脚線美で」
「パーフェクトボディじゃない」
「そんなになれる理由が知りたいわ」
 こう言うのだった、だが。
 陽奈本人はだ、そう言われるといつも困った顔で笑ってこう言うばかりだった。
「別に何もね」
「してないの?」
「そうなの」
「いつも言ってるけれど」
 その通りだというのだ。
「朝普通に起きて部活の朝練出て」
「それで普通に食べて」
「部活も出て」
「そうして過ごしてるだけ」
「そうだっていうの」
「別にね」
 その困った笑顔で話すのだった。
「何も変なことしてないし」
「そうなの」
「別になの」
「何もしてないの」
「特に変わったことは」
「してないから」
 皆と同じだというのだ。
「別にね」
「いや、それはね」
「そう言われても」
「信じられないから」
「普通にやってそのスタイルって」
「ならないでしょ」
「いや、本当よ」
 陽奈の言う言葉は変わらなかった。
「私別に特別なことはね」
「何もしてないの」
「そうなの」
「特に」
「牛乳だって飲んでるし」
 陽奈は大好物の名前も出した。
「普通にね、お野菜も果物も食べて」
「かといって菜食主義でもない」
「お肉も食べるしね」
「じゃあ私達と同じ?」
「完全に」
「そうよ」
 実際にというのだ。
「別に何もしてないから」
「じゃあ何でなのよ」
「何でそのスタイルなのよ」
「モデルさん顔負けじゃない」
「アイドルにもなれるわよね」
「お顔もいいし」
 友人達はそんな陽奈の言葉を聞いても信じられなかった、だが陽奈自身はとてもそうは思えなかった。
 それでだ、彼女達の間で陽奈のことを話した。
「絶対何かあるわよね」
「あのスタイルはね」
「もうモデルさん並じゃない」
「胸も脚もお尻も」
「ウエストだって」
「そそられるわよ」
 見ていてというのだ、女の子である彼等も。
「もう見ていてね」
「女の私達も夢中になる位だから」
「ここはね」
「その理由知りたいわ」
「じゃあね」
 ここで一人が周りにこう言った。
「一回陽奈ちゃんの生活チェックしてみる?」
「生活に秘密があるものだしね」
「健康だってスタイルだって」
「それに勉強も」
「全部ね」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「一日見てみる?」
「そうね、ここはね」
「そうしてみましょう」
「あのスタイルには絶対に秘密あるし」
「ここは見てみましょう」
「陽奈ちゃんの一日」
 こう話してだ、皆で陽奈の暮らしを見ることにした。それで陽奈本人に直接申し出たのだった。
「陽奈ちゃんのスタイルの秘密知りたいから」
「一日一緒にいさせて」
「陽奈ちゃんのお家にお邪魔させてもらって」
「パジャマパーティーもしてね」
 これも目的だった。
「一緒にお風呂も入って」
「それでお喋りもして」
「そのうえでね」
「見させてね」
「また私のスタイルなの」
 陽奈はここでも困った顔で笑って言った。
「だから本当にね」
「何もないの?」
「本当に」
「別に変なことは」
 あくまでこう言う陽奈だった、だが友人達の申し出を断ることなく彼女達を自分の家に招待した。皆お泊りグッズに着替えを持って陽奈の家に行くと。
 そこは古いお寺だった、しかも敷地面積はかなりのものだ。その寺の門のところに来て友人達は唖然となった。
「凄いわね」
「お寺だったの」
「陽奈ちゃんのお家って」
「そうだったの」
「御免、言ってなかったわね」 
 陽奈はその友人達を迎えてこう言った。
「私のお家のことは」
「いや、お寺の娘さんってね」
「ちょっと考えてなかったから」
「びっくりしてるの」
「しかも大きなお寺だし」
「禅宗のお寺でね」
 陽奈は宗派のことも話した。
「お兄ちゃんが継ぐけれど」
「陽奈ちゃんもなの」
「禅宗の修行とかしてるの」
「まあ少しは」
「そういえば部活も」
 ここで友人の一人が言った。
「剣道部だけれど」
「禅宗の修行の一環かしら」
「そうかしら」
「お父さんが好きで」
 陽奈の父がというのだ。
「禅宗の修行にもなるって言ってて」
「ああ、やっぱり」
「それでなのね」
「陽奈ちゃんも剣道してるの」
「そうなの」
「そうだったの、じゃあ入ってね」 
 陽奈は友人達を礼儀正しく迎え入れた、こうして友人達は陽奈の一日を見ることになったがそれは彼女達が全く予想していないものだった。
 まず自分達が起きたというか起こされた時間にびっくりした。
「三時半!?」
「まだ夜じゃない」
「やっと新聞配達の人が来る時間よ」
「夜じゃない」
「うちは禅宗だから」
 起こした陽奈が言ってきた、見れば陽奈の顔はすっきりしていてこの時間に起きることに慣れている感じだ。
「それでなの」
「こんなに早いの」
「お寺とかは朝早いのは知ってたけれど」
「こんなに早いなんて」
「びっくりよ」
「じゃあ今からね」
 陽奈はにこりと笑って友人達に話した。
「座禅組んでお経も詠んでね」
「うわ、まさにお寺」
「この時間に起きて修行なんて」
「もの凄いわね」
 皆驚くばかりだった、そして実際にだった。
 全員で朝の修行に参加した、陽奈は何時の間にか尼僧の服を着てそうして座禅を組みお経を詠んでいた、友人達は見ているだけだが。
 朝御飯、普通の和風のメニューだがその食事を食べつつ言うのだった。
「三時半から修行って」
「凄いわね」
「何ていうか」
「毎朝これって」
「ハードね」
「うちは毎朝こうよ」
 陽奈は普通の顔で友人達に述べた、尚パジャマパーティーを夜して寺の中にある客室で修学旅行の時の様に寝ていた。
「お寺だから」
「そうなの」
「早起き過ぎるわ」
「というか陽奈ちゃん十二時よね、昨日寝たの」
「私達と一緒に寝たし」
 同じ部屋でだ。
「四時間も寝てないじゃない」
「禅宗は修行の一環であまり寝ないから」
 陽奈はこのこともあっさりと話した。
「睡眠欲という欲望を抑え勝つ為に」
「それであまり寝ないの」
「私八時間寝てるけれど、毎日」
「私七時間半だけれど」
「アインシュタインさんだと絶対無理ね」
 一日十二時間は寝ていたというこの科学者にはというのだ。
「凄い生活ね」
「まあお料理は普通だけれどね」
「お味噌汁にめざしに納豆にお漬けもの」
「お粥とか沢庵とかだけって思ったら」
「普通ね」
「あっ、残さないでね」
 絶対にとだ、ここで陽奈は言った。
「食べものは」
「ああ、残したらよくないわね」
「食べものは粗末にするな」
「だからね」
「禅宗の教えでは特になの」
 まさにというのだ。
「お布施の場合も多いから」
「ああ、お布施で貰ったりするから」
「それでなの」
「残したら駄目なの」
「絶対になの」
「そうなの。どんな食べものが出ても」 
 例え自分が嫌いなものでもというのだ、勿論口に合わなくてもだ。
「残したら駄目なの」
「絶対に」
「ちゃんと食べる」
「どんなものでも」
「そうしないと駄目なの」
「そこは注意してね」 
 こう友人達に話すのだった。
「そうしてね」
「ええ、わかったわ」
「それじゃあね」
「残さず食べるわね」
「絶対に」
 友人達も応えてだ、そしてだった。
 朝御飯を残さず食べた、その朝御飯の時間もかなり早く。
 部活の朝練に行く前に寺の境内の中や外の掃除をした。陽奈はそれから部活の朝練に元気よく行くが。
 一緒にいた友人達は一緒に登校しつつだ、こう言った。
「もう今の時点でね」
「かなりカロリー使ってるわね」
「既にね」
「朝早く起きて修行して」
「お掃除もして」
「しかも残さずしっかり食べて」
「あまり寝てなくてね」
「ここから普通の学園生活なのよね」
 あらためて言うのだった、学校に向かいながら。
「こりゃ健康的よ」
「好き嫌いなく何でも残さず食べてるしね」
「尚且つ身体も動かしてるから」
 剣道の部活でだ。
「スタイルもよくなるわ」
「あのスタイルにもね」
「しかも陽奈ちゃんのお母さんとお祖母ちゃん見たら」
 もてなしてくれた彼女達をだ。
「綺麗だしね」
「陽奈ちゃんってお母さんとお祖母ちゃんに似てるのね」
「スタイルもいいしね」
「お二人共」
「つまりあれね」 
 ここで一人が言った。
「陽奈ちゃんは遺伝で元々奇麗で」
「スタイルもいい」
「それをお寺の生活で日々磨かれている」
「そういうことなのね」
「いや、謎が解けたわね」
「どうしてスタイルがいいのか」
 それがというのだ。
「今ここでね」
「はっきりわかったわ」
「そりゃスタイルもいい筈よ」
 あのスタイルになるのも当然だというのだ。
「これはね」
「私達にはハード過ぎる生活だけれど」
「それでもね」
「あの生活をしていると」
「そうなるのも当然ね」
「だから普通だから」
 陽奈だけはこう言う、ここでも困った顔で笑って。
「本当にね」
「いや、お寺では普通でも」
「私達にとっては普通じゃないから」
「それも凄くね」
「びっくりする位だったから」
「スタイルがいい理由はわかったけれど」
「そうした理由ってことね」 
 こう話すのだった、そしてだった。 
 友人達は陽奈のスタイルの理由をはっきりとわかった、そのスタイルのよさにはそれなりの理由があるということだ。それは陽奈にとっては普通でも彼女達にとっては全く普通でない、そうしたものだった。


プロポーションの秘密   完


                2017・8・28

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