半ズボンの裾が
 長堀恵里佳はバレーボール部でいつも汗を流している、部活の時は部活のユニフォームではなく体操服でしているが。
 練習の合間にだ、恵里佳はよくまたという顔になって半ズボンの裾を手の指でなおす。そうしつつ同じバレー部の部員達に言った。
「すぐにね」
「ええ、半ズボンってね」
「裾がめくれるのよね」
「めくれてそしてね」
「下手したら」
「下着見えそうになるのよね」
 こう言うのだった。
「それが困るのよね」
「そうそう」
「うちの学校の体操服の半ズボンって短いから」
「半ズボンだから当然だけれど」
「太腿出しててね」
 それも付け根の辺りまでだ。
「その丈だからちょっとめくれるとね」
「下着まで見えそうになるのよね」
「体育座りしてから間から見られそう?」
「あっ、それ気をつけないとね」
「半ズボンの間って結構見えるらしいから」
「そこもね」
「そうよね、スパッツとか膝丈ならいいのに」
 恵里佳は裾をなおし終えてからまた言った。
「この丈だとね」
「ちょっとね」
「見えるかどうかね」
「そこが怖いのよね」
「どうしても」
「そう、だからね」
 それでとだ、恵里佳の困った顔はそのままだった。
「いつも気になるのよね」
「周り男子いるしね」
「ここにもね」
 女子バレー部が部活をしている体育館には男子バレー部もいる、そしてバスケ部も男女共いてそうして部活に励んでいる。
 それでだ、バレー部の部員達も言うのだ。
「裾気をつけていきましょう」
「めくれたらすぐになおす」
「さもないと下着本当に見えるから」
「見られていいものじゃないし」
 こう言ってだ、恵里佳も他の部員達も気をつけていた。とにかく半ズボンの裾のことは部活の時もそして体育の時も気になっていた。
 それでだ、恵里佳はクラスで体育の授業の後制服姿の時にこんなことをぼやいた。
「半ズボンの丈長くなってほしいわね」
「もうちょっとね」
「そこ本当にね」
「今は短過ぎるわよ」
「冬とかはジャージ穿けるけれど」
「今の季節暑いから」
「暑さを我慢するか見えそうになるの我慢するか」
 まさにとだ、周りにいる友人達も恵里佳に言う。
「どっちかになるのよね」
「これって究極の二択じゃない」
「夏にジャージは暑いっての」
「そりゃ太腿も出すことになるけれど」
「大阪の暑さ甘く見るな」
「そうそう」
「膝までの丈なら」
 恵里佳は再びぼやいた。
「こんな心配しなくていいのに」
「ちょっと暑そうだけれどね」
「半ズボンよりも」
「スパッツはスパッツでライン見えそうだし」
 下着のそれがだ、このことも気になるといえばなることだった。
「今の半ズボンはね」
「ちょっとやばいわね」
「どうしてもね」
 こう話していた、とかくだった。
 半ズボンの裾のことは恵里佳にとっても他の女子達にとってもどうにかならないかというものだった。それでだ。
 恵里佳は思い余って職員室に行ってバレー部の顧問の先生にこのことを話した、するとその三十代の女の先生はこう恵里佳に言った。
「ううん、そうなの」
「そうなのって」
「いえ、半ズボンでもそうしたお話出るのね」
「半ズボンでも?」
「そんなに気になるの?」
 先生はこう恵里佳に聞き返してきた、逆に。
「半ズボンで」
「ですからお話してますけれど」
「実は先生が中学の時に親が同じ様なことを言ってたのよ」
「先生のですか」
「もう二十年前ね」
 その頃の話だというのだ。
「当然結婚して子供も産まれる前よ」
「その頃ですか」
「そうだったの、ブルマって知ってる?」
「ブルマ?」
 その単語を聞いてだ、恵里佳はまずは目を瞬かせた。そうして怪訝な顔になってそのうえで先生に問い返した。
「漫画のキャラの名前ですか?」
「あの漫画のキャラの元ネタよ」
「そうなんですか」
「昔は半ズボンじゃなかったのよ」
 先生は恵里佳にこのことから話した。
「それを穿いてたの」
「それどんなのですか?」
「見た方が早いわね」
 先生はこう言って自分のスマホを出してそこに画像を出してそれを恵里佳に見せた、すると恵里佳はその画像を見てびっくりして言った。
「あの、これって」
「水着か下着みたいでしょ」
「まんま下着ですよ」
 画像に出ている濃紺のその服はそれだった、色だけは恵里佳達が穿いている半ズボンと同じものである。
「これじゃあ」
「ええ、かなりいやらしいわよね」
「下着姿で授業出てるのと同じですよ」
「昔はそうだったのよ」
「昔はって」
「それで裾もね」
「こんなのじゃ」
「すぐにめくれるわね」
「めくれるっていうかずり上がって」
 それでというのだ。
「半ズボンよりずっと」
「下着見えるわよね」
「お尻だって」
 下着どころかというのだ。
「見えますよ」
「だからね」
「問題だったんですか」
「そうだったの、それでね」
「半ズボンになったんですね」
「そうなの、それで今もなのね」
「これよりはずっとましですけれど」 
 恵里佳は画像のブルマを観つつ先生に話した、こんなのはとても穿けたものじゃないと顔でも言っている。
「やっぱり」
「わかったわ、そのお話他の娘達も言ったらね」
「変えてくれますか」
「考えておくわ」
 こう恵里佳に話した。
「本当にね」
「お願いします、ただ」
「ブルマは絶対に嫌よね、貴女も」
「こんなの穿いたら」
 そこそとだ、恵里佳は先生に全力の否定で返した。
「外に出られないですよ」
「けれど昔はね」
「これだったんですか」
「どの学校もね」
「信じられないです」
「今はね。それで半ズボンもね」
「もうちょっと丈を長く」
「わかったわ、そのことは」
 先生は恵里佳の頼み自体はもっともと思いそれでこの話について生徒達からアンケートを取ってはと職員会議の時に提案してそれが通ってだった。
 半ズボンの丈が膝までになった、こうして恵里佳達は裾の問題を気にすることはなくなったのだが。
 体育の授業の時にその膝までの半ズボンを穿いた時にだ、恵里佳はこんなことを言った。
「ブルマなんて絶対に無理よ」
「あれっ、何か言った?」
「どうしたの?」
「いや、ちょっとね」 
 ここで恵里佳はクラスメイト達にそのブルマの話をした。すると彼女達もびっくりして口々に言った。
「そんなの穿けないわよ」
「何それ」
「昔はそんなの穿いて体育や部活してたの」
「恥ずかしくて穿けないわよ」
「あの半ズボンでもやばかったのに」
「それがね」
 どうやらというのだ。
「昔は何処もブルマだったらしいのよ」
「そう思うとあの半ズボンもいいわね」
「ずっとましよね」
「下着で体育や部活するとか」
「マジで有り得ないわよ」
「本当にそうよね」 
 恵里佳もこう言う、とにかくだ。
 ブルマは絶対に有り得ない、こう言ってそうしてだった。その膝までの半ズボンの露出の少なさに感謝しつつ体育の授業に出るのだった。


半ズボンの裾が   完


                 2017・8・29

作者の作品一覧 クリエイターページ ツイート 違反報告
{"id":"nov150401972043953","category":["cat0004","cat0008","cat0010"],"title":"\u534a\u30ba\u30dc\u30f3\u306e\u88fe\u304c","copy":"\u3000\u9577\u5800\u6075\u91cc\u4f73\u306f\u4f53\u80b2\u3084\u90e8\u6d3b\u306e\u6642\u306b\u534a\u30ba\u30dc\u30f3\u304c\u77ed\u304f\u3066\u88fe\u304c\u3081\u304f\u308c\u308b\u3068\u4e0b\u7740\u304c\u898b\u3048\u305d\u3046\u306b\u306a\u308b\u306e\u3092\u6c17\u306b\u3057\u3066\u3044\u305f\u3002\u305d\u308c\u3067\u5148\u751f\u306b\u3053\u306e\u3053\u3068\u3092\u8a00\u3046\u3068\u3002","color":"#cc79ca"}