七人兄妹の二番目
 四橋早苗は七人兄妹の二番目である、上には兄が一人いて下には弟が三人そして妹が二人いる。今時珍しいと言える子沢山だ。
 その家庭状況についてだ、父は笑って言うのだった。
「やっぱりこれだけ多いといいな」
「子沢山でいいっていうのね」
「子供はかすがいだろ」 
 早苗にも笑顔で返す。
「それに御前も家族が多い方が賑やかでいいだろ」
「そうかしら」
 早苗は父の言葉には首を傾げさせて返すのが常だった。
「うちの工場は確かに収入いいし家族養えてるけれど」
「ああ、幸いいつもな」
 所謂中小企業で工場をしているがその工場はいつも仕事が絶えず優良企業で七人の子供がいても余裕があるのだ。
「有り難いことだな」
「そうよね、そのことは」
「それで御前もな」
「七人兄妹でっていうのね」
「幸せに過ごせていいだろ」
「何処がよ。お兄ちゃんは真面目でいいけれど」
 よく出来た兄と評判で将来の社長として期待されてもいる。
「弟達も妹達も」
「出来が悪いか?皆成績は悪くないだろ」
「やんちゃって言うの」
 早苗が言うのはこのことだった。
「皆ね」
「元気でいいな」
「悪さばかりして。しかも家事は全然しないし」
「それで御前がだな」
「お母さんも忙しいし」
 工場の仕事でだ、副社長として夫をよく支えている。
「だからよ」
「御前が兄妹のまとめ役になってるな」
「何でそうなるのよ、お兄ちゃんがいるのに」
「それは仕方ないだろ」
 父は早苗に笑ってだ、今度はこう言った。
「御前が一番上のお姉ちゃんだからな」
「兄妹で二番目なのね」
「女の子では一番上だからだよ」
 その七人兄妹の中でというのだ。
「兄妹で女の子の一番上はそうなるんだよ」
「兄妹のまとめ役になるの」
「そうしたものだ」
「じゃあ私が兄妹の一番上でも三番目でもなのね」
「御前が一番のお姉さんならな」 
 上に兄が何人いてもというのだ。
「そうなっていたな」
「何ていうか」
「それがお姉さんってことだ」
「ううん、理不尽ね」
「理不尽じゃなくて当然のことだろ」
 兄妹の中で一番最初に生まれた女の子が兄妹のまとめ役になりお母さんの様な立場になることはというのだ。
「それはな」
「当然なの」
「そうだ、わからなくてもな」
「わかれっていうの」
「受け入れろってことだ」
 豪快に笑っての言葉だった。
「今はわからなくてもな」
「それ会社の経営?」
「世の中受け入れなくてはならないこともあるんだ」
 ここでも豪快に笑って言う父だった。
「そしてそれを受け入れたうえでだ」
「やっていくしかないのね」
「会社もそうだ、やっていくのならな」
「現実を受け入れてっていうのね」
「やっていくしかない時もある、だから御前もな」
 早苗自身もというのだ。
「お姉さんとしてだ」
「やっていけっていうのね」
「そうだ、いいな」
「お母さんが忙しいながらも家事してくれてお兄ちゃんがしっかり者で何よりだわ」
「ははは、いい兄を持って幸せだな」
「その分弟と妹が全員手がかかるけれどね」
 むっとした顔で返した早苗だった、とにかくだった。
 早苗は七人兄妹の一番上のお姉さんとして兄妹達をまとめいつも世話をしていた、それは朝早くからでだ。
 朝起きると弟と妹達にだ、雷の様な声で言った。
「起きなさい!」
「早く御飯食べなさい!」
「歯磨きをして顔も洗いなさい!」
「忘れものないわね!」
「学校に行ってもしっかりしなさい!」
 こう言ってだ、五人を無理にでも朝の支度を全部させてだった。
 自分も学校に行く、勿論早苗自身も食べて歯磨きをして顔も洗って忘れもののチェックもしている。
 そうして登校するがだ、学校ではこう言うのだった。
「いや、学校が一番落ち着くかも」
「家じゃ家族がいてよね」
「弟さんや妹さん達が」
「合わせて五人ね」
「五人全員の面倒を見ないといけないからよね」
「だからね」
 それでとだ、早苗は友人達にほっとした顔で言うのだった。
「もう毎朝大変よ、それでね」
「帰ってもっていうのね」
「夜も」
「何かと」
「晩御飯食べさせて」
 勿論自分も食べる。
「そうしてお風呂もあるし」
「それで寝かしてよね」
「宿題とかもさせて」
「大変っていうのね」
「私自身のこともあるし」
 早苗も高校生なのでだ、忙しいことは忙しいのだ。
「本当にお家にいたらよ」
「休まる暇がない」
「だから学校が一番落ち着く」
「そんな状況なのね」
「そうなの、授業とかホームルームの時に落ち着いて」
 そうしてというのだ。
「部活の時によ」
「ストレス解消ね」
「思いきり身体動かして」
「そうしてるのね」
「そう、レシーブとか最高よ」
 ストレス解消にというのだ。
「もうね」
「それで随分手の力強くなったのね」
「弟さんや妹さん達のお尻を叩くにも」
「随分と強くなったって前言ってたわね」
「そうなったわ、だから今じゃお尻叩くわよって言ったら」
 早苗が弟や妹達にだ。
「もうそれで言うこと聞くから」
「そこまで怖がられてるのね」
「何か本当にお母さんみたいね」
「お尻叩くって言ったら言うこと聞かれるって」
「それってね」
「そうね、お尻叩きたい訳じゃないから」
 早苗としてはそうしたつもりは全くなかったのだ。
「私としてはね」
「だからなのね」
「そうなっても嬉しくない」
「そうだっていうのね」
「そうよ、というか兄妹が多くてその中で女の子で最初に生まれたら」
 父に言われたことを思い出してそのまま言った。
「もうまとめ役で大変よ」
「上にお兄さんがいても」
「それに関係なくなのね」
「一番上に生まれた女の子がまとめ役になるの」
「お母さん役に」
「しかもうちお母さんが忙しいから」
 このことも言うのだった。
「余計になのよ」
「大変ね、早苗ちゃんも」
「七人兄妹のお姉さんだと」
「私達はそこまで兄妹多くないけれどね」
「私一人っ子だし」
 友人達は早苗の話を聞いて口々に言った。
「けれどね」
「兄妹多くてその中でお姉さんだと大変なのね」
「何かと」
「そうなの、本当にね」
 こう言う早苗だった、彼女にとってはむしろ学校の方が落ち着ける場所だった。とにかく家に帰ると忙しくて。
 弟達が喧嘩をしているとだ、すぐに飛んで行って怒った。
「止めなさい!」
「お姉ちゃんお兄ちゃんが悪いんだよ」
「こいつが悪いんだよ」
「喧嘩両成敗よ!止めないとお尻ぶつわよ!」
 ここで切り札を出した。
「嫌なら止めなさい!」
「えっ、お尻ぶつの?」
「そうするの?」
「止めないとそうするわよ!」
 こう言って止めさせる、そして一番下の妹の具合が悪いと見るとすぐに体温を測ってからその体温が三十七度を越えているのを見て言った。
「今日はもうお薬飲んでね」
「それでなのね」
「寝てなさい」
 こう言うのだった、そして実際にだった。
 早苗は末の妹を寝かせた、そうしてから他の弟や妹達に言った。
「あんた達もさっさと勉強してね」
「そうしてなんだ」
「寝ろっていうの」
「そうよ、早く寝て早く起きる」
 そうすべきだというのだ。
「そうしなさい」
「早寝早起き?」
「そうしないと駄目なの」
「今日も」
「いつもよ、お姉ちゃんも寝るから」
 そうしないと駄目だというのだ。
「早いうちにね」
「僕達が寝てからなんだ」
「お姉ちゃんも寝るの」
「そうするんだ」
「当り前でしょ、お姉ちゃんも人間だから」
 それでというのだ。
「ちゃんと寝てるわよ、けれどあんた達が寝ないとね」
「そうしないと寝られない
「お姉ちゃんは」
「それでなんだ」
「まずば僕達が寝て」
「そうしてなの」
「そう、いいわね」
 こう言ってだ、早苗は弟や妹達を寝かせた。だが兄にはこう言うだけだった。彼の部屋の扉のところに来て。
「お兄ちゃんもいいわね」
「ああ、家のことか?」
「何かリクエストある?」
「別にないから」
 これといってとだ、兄は妹に自分の部屋から答えた。
「今日も」
「じゃあいつも通りね」
「洗濯ものは洗濯機に入れたから」
「お風呂もう入ったのよね」
「うん」
 素っ気ない返事だった、倦怠期の夫の様に。
「そうだよ」
「じゃあ御飯も食べたし」
「勉強が終わったら寝るから」
「それじゃあね」
「うん、僕のことは気にしなくていいから」
 妹にこう言うだけだった、そしてだった。
 早苗は兄についてはこれで終わったがこのやり取りも毎日だ、そしてそのうえであらためてだった。
 弟や妹達にまた言うのだった、その言う言葉は。
「寝る前のおトイレはした?」
「もうしたよ」
「それでおトイレしたら寝ろっていうのね」
「ベッドに入って」
「そうしてよね」
「そうよ、おトイレはしておきなさい」
 寝る前に絶対にというのだ。
「さもないとおねしょとかするから」
「もうそんなのしないよ」
「私達もそんな歳じゃないから」
「それでまたそう言うなんて」
「お姉ちゃん心配し過ぎ」
「おねしょしなくても夜起きるでしょ」
 このことが問題だというのだ、今は。
「それでお姉ちゃんにおトイレついてきてって言うでしょ、一人じゃ怖いからって」
「もうそんなの言わないよ」
「昨日もそう言ってたけれど」
「一昨日もね」
「毎日言ってるけれど」
「そんなのないから」
「あるから言ってるのよ、とにかくおトイレに行ったらすぐに寝なさい」
 こう言って妹達を寝かせてだった、自分もやることをやって寝てまた翌朝だった。とかく早苗の家での生活は多忙だった。
 それで学校で家のことをぼやくが友人達はその彼女に言うのだった。
「早苗ちゃん顔生き生きしてるのよね」
「家の生活は大変みたいだけれど」
「よく怒ってるみたいだけれど」
「それでもね」
「ううん、確かに大変だけれど」
 早苗自身友人達の指摘にこう返した。
「充実はしてるわ」
「そうよね、だからね」
「お顔は生き生きとしてるわよ」
「充分にね」
「ううん、何かやること多くて考えることに言ってることが一杯で」 
 家に帰るともうそういうことばかりでというのだ。
「いつも動いてるからかしらね」
「そうじゃない?やっぱり」
「何しろ兄妹のお母さんだから」
「それでね」
「そうね、退屈はしないし怒ることはあっても」
 それでもとだ、自分から言う早苗だった。
「毎日充実していて楽しくはあるわね」
「そうよね、お家でも」
「大変な中で」
「笑うことも多いし」
 兄妹で一緒にだ。
「何かお兄ちゃんがお父さんでね」
「早苗ちゃんがお母さん」
「そんな感じなのね」
「まああっちのお父さんは手間もかからないけれど特に手伝ってもくれないけれど」
 このことは笑って言った。
「それもリアル夫婦みたいってことで」
「そのうえでやっていく」
「これからもね」
「そうしていくわ、じゃあ今日も家に帰ったら」
 その時のことをだ、早苗はもう考えていた。
「兄妹に御飯作って色々言ってさせて」
「そうしてよね」
「頑張るのね」
「ええ、そうしていくわ」
 こう友人達に言って実際にだった、早苗は兄妹の二番目一番上の女の子として頑張った。そうして毎日充実感を味わっていた。


七人兄妹の二番目   完


                  2017・9・28

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