お化け屋敷だけは
 花園郁恵は面倒見がよく気風のいい性格でクラスメイト達からも評判だ、だがこの日の彼女は違っていた。
 クラスでの文化祭での出しものをする話をしている時にだ、クラスメイト達に自分の席から必死の顔で言っていた。その言っていることはというと。
「だからそれだけはね」
「お化け屋敷だけはっていうの」
「駄目っていうの」
「そう言うの、郁恵ちゃんは」
「怖いじゃない」
 こう言って反対するのだった。
「だからね」
「いや、文化祭のお化け屋敷なんてね」
「全然だろ」
「怖くも何ともないだろ」
「テーマパークのと比べたら」
「お金もかけられないし」
「子供騙しみたいなものだろ」
「それでも駄目なのよ」
 郁恵としてはというのだ。
「どうしてもね」
「お化け屋敷だけは」
「文化祭の出しもの程度でも」
「そんなに怖いの」
「だからお化け屋敷だけはね」
 どうしてもという口調で言うのだった。
「私大反対だから」
「そう言うけれど決まったから」
「うちのクラスお化け屋敷するって」
「だからもうどうこう言っても」
「仕方ないでしょ」
「そうだよな」
「まあ仕方ないだろ」
 担任の先生も郁恵に行ってきた。
「君がそう言う気持ちはわかるが」
「それでもですか」
「そうだ、もう決まったんだ」
 ホームルームでの投票の結果だ、見れば黒板に書かれている正の数はお化け屋敷の下が圧倒的に多い。
「だからな」
「もうここはですか」
「諦めてな」
「お化け屋敷のことにですか」
「協力してくれるか、中に入るのが嫌なんだろう?」
「はい」
 その通りだとだ、郁恵は先生にも答えた。
「そうです」
「じゃあな」
「ここはですか」
「別に中に入らないからな」
 先生は郁恵にまたこのことを言った。
「安心してな」
「セットとかをですか」
「やってくれ、いいな」
 こう郁恵に言うのだった。
「そうしてくれるか」
「郁恵ちゃんお裁縫とか得意だしな」
「それじゃあな」
「服のこととかもお願いしたいし」
「セットには凄い戦力になるから」
「色々と頼みたいし」
 クラスメイト達も郁恵は頼りにしていた、それでお化け屋敷が大の苦手の彼女にあえて言うのだった。
「中に入るのが苦手なら」
「セットとかは関係ないし」
「是非ね」
「クラスのお仕事手伝って」
「まあ。中に入らないならね」
 郁恵も何だかんだで妥協して答えた。
「私もね」
「よし、それじゃあね」
「クラスの出しものはお化け屋敷」
「これに決定」
「それでいきましょう」
 こうしてだった、彼等の出しものは決まってだ。そのうえでだった。
 郁恵も色々とセットで仕事をした、その中で提灯のお化けのセットを作りながら眉を顰めさせてこうしたことを言った。
「これを見るとって思うだけで」
「提灯お化け?」
「それを?」
「そう思うだけでね」
 それこそというのだ。
「怖くて仕方ないわ」
「いや、提灯に目鼻とお口あるだけでしょ」
「お口開けて舌を出して」
「そうしてるだけじゃない」
「お化けっていってもお笑いでしょ」
「こんなのは」
 クラスメイト達は郁恵にすぐに突っ込みを入れた、見れば彼女達もから傘だの人魂だのを作ったり描いている。
「それでそう言うって」
「どれだけ怖がりなのよ」
「お化け屋敷でもうちのクラスのはコミカルよ」
「コミカル路線でいくのね」
「お化け屋敷にコミカルなんてないだよ」
 郁恵はむっとした顔で言い切った。
「そんなのは」
「いや、あるから」96
「というか全部怖くないお化けばかりだし」
「提灯お化けもそうだし」
「から傘とか塗り壁とかね」
「あと一反木綿お空から垂らして」
「人魂を描いて」
「子泣き爺と砂かけ婆の衣装も作って」
 こちらはクラスの者が着てメイクをしてなる。
「幽霊だってね」
「ただうらめしや~~~って言うだけで」
「何でもないわよ」
「確かに中は暗くするけれど」
「コミカル路線だから」
「こんなの出て来たら」
 だがだった、郁恵は提灯お化けを作りつつまだ言うのだった。
「トラウマものでしょ」
「だから何処がよ」
「全然怖くないし」
「そんなの暗いところに急に出ても」
 そうしてもというのだ。
「全然ね」
「怖くないわよ」
「というかこれが怖いって」
「郁恵ちゃんどれだけお化け屋敷駄目なのよ」
「怖いものは怖いのよ」
 郁恵は友人達の言葉に眉を顰めさせて返した。
「だからよ」
「こんなのでも怖いの」
「そうなのね」
「そう、だからね」
 それでというのだった、ここで。
「私お化け屋敷の中には入らないからね」
「文化祭の時も」
「そうするのね」
「何があってもね、幽霊とかお化けにもならないから」
 とにかく中には入らないというのだ、郁恵は提灯お化けを作りながら力説した、そして実際にだった。
 文化祭がはじまりクラスでお化け屋敷が開かれるとだ、郁恵はクラスメイト達に頑とした口調で言い切った。
「じゃあ中に入らないからね」
「その考え変わらないか」
「どうしても」
「小道具持ったり幽霊になったりして」
「そうして入らないのね」
「絶対にだから」
 頑とした口調は変わらない。
「もうね」
「それじゃあ受付してもらうか」
「基本的には」
「あと裏方」
「そっちも」
「中に入らないならいいから」
 あくまでこう言ってだ、郁恵はお化け屋敷には入らないまま文化祭を終えた。そうして文化祭が終わってだ。
 お化け屋敷を畳む時にクラスメイト達にようやくという口調で言うのだった。
「もうこれでね」
「終わってほっとしたか?」
「そうだっていうの」
「そう、これでね」 
 実際にほっとした口調で言っていた。
「入ることもないし」
「よかったよかった」
「そんな感じね」
「もう二度としたくない」
「顔にも出てるし」
「とにかくお化け屋敷は駄目だから」
 今もこう言う程だった。
「二度としたくないわ」
「そこまで嫌いなんだな」
「もう徹底してるな」
「そこまでいくと」
「本当に」
「ええ、嫌いだし駄目だし」
 もう生理的にという感じだった、言葉でもそれを隠していない。
「願わくば二度と関わりたくないわ」
「やれやれだな」
「本当に一度も中に入らなかったし」
「まあセットの用意や裏方として頑張ってくれたし」
「それだけでもいいかしら」
 クラスメイト達はそんな郁恵に少し苦笑いになって言った、だが何はともあれ郁恵はほっとした顔でいた。そしてもう二度とお化け屋敷には関わりたくないと公言まですたのだった。どうしても嫌な為に。


お化け屋敷だけは   完


                 2017・9・29

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