夢に出る人
北巽伊代は古典の授業で習ったことをその授業の後でクラスで友人達にどうかという顔で尋ねた。
「さっきの授業で小野小町の和歌出たけれど」
「あれね、好きな人が出なくなった」
「それで想われなくなったってわかったって話ね」
「あれね」
「自分を好きな人が夢に出るの?」
首を傾げさせて言う伊代だった。
「そうなの?」
「普通逆なんじゃ」
「自分が好きだから出るんじゃ」
「自分が想うからね」
「そうだと思うけれど」
「違うのかしら」
「そうよね、けれど和歌の通りだと」
小野小町のそれのだ。
「私を好きな人わかるわよね」
「そうそう、そうなったらね」
「私も彼氏夢に出る?」
「私も」
「そういえば私彼夢に出るし」
「私だってね」
「だったら私はどうなるのかしら」
伊代は自分のことをここで考えた。
「やっぱり好きな人見るのかしら」
「夢にね」
「そうなるんじゃない?やっぱり」
「伊代ちゃんにしても」
「今日の授業の通りなら」
「小野小町さんみたいに」
「そうよね、まあ出て来たら」
その時はというと。伊代は自分から語った。
「それが自分の好きな人なら」
「思い切って告白する」
「そうするわよね」
「やっぱり」
「伊代ちゃんにしても」
「絶対にね。それって相思相愛だから」
自分が好きな相手が夢に出て来たらというのだ。
「もう迷うことなくね」
「小野小町さんは出なくなって失恋感じたけれど」
「私達は違うわよね」
「その時は告白する」
「それしかないわよね」
「何があっれもね」
「そうするわ、若しも彼が夢に出て来たら」
その想い人がだ、だが伊代はそれが誰かはクラスメイトに言わなかった。
「その時はね」
「それ誰?」
「誰のこと?一体」
「うちの学校の子?」
「それは告白する時が来たらわかるから」
やはり言わない、それでこう言って誤魔化すのだった。
「いいわね」
「そこでそう言う?」
「誤魔化す?」
「ちょっとずるくない?」
「ずるくないわよ、その時にわかるでしょ」
あくまでこう言って言わなかった、そしてこの日伊代は夢を見たら誰が出て来るのかと楽しみにしつつ寝た。
だが夢に出て来たのは自分の姉でだ、起きてから朝食を食べる時に一緒に食べる姉に少し憮然として言った。
「昨日夢にお姉ちゃん出て来たけれど」
「あっ、そうなの」
姉は何でもないといった顔で伊代に返した。
「私が出て来たの」
「そうよ」
姉に御飯をメザシで食べつつ答えた。
「何で出て来たのよ」
「何でっ言われても」
「夢には自分を好きな人が出てくれるっていうけれど」
「ああ、古典の話ね」
姉は妹の話の根拠がすぐにわかって返した。
「私も習ったわ」
「そうだったのね」
「小野小町さんの和歌よね」
「ええ、そうよ」
「去年私習ったから」
「あの子が出て来るって思ったら」
「そのあの子が誰かは聞かないけれど」
それでもと返した姉だった。
「それ本当なのかしら」
「自分を好きな人が夢に出て来るって」
「私は違うと思うけれど」
「その通りじゃないの?けれどね」
それでもと返した伊代だった、茸の味噌汁を飲む彼女に。
「私お姉ちゃんとは付き合わないから」
「私もよ。何で女の子しかも妹と付き合うのよ」
「私男の子が好きだから」
「私彼氏いるから」
二人共こう言い合った。
「そうしたお話はお断りよ」
「こっちもね。ただ何かお姉ちゃんもお父さんもお母さんも」
家族はとだ、伊予はこうも思った。
「しょっちゅう夢に出て来るわね」
「そりゃ家族だからね」
「お互いにっていうの」
「気にかけてるからね」
「夢に出るのね」
「私の夢にもあんたしょっちゅう出るしね」
「そういうことなのね」
伊代は姉の言葉を受けてその姉だけでなく母も見た、父はもう会社に行っていて今は食卓はおろか家にもいない。
「好きっていっても色々で」
「家族同士の愛情だってあるでしょ」
「そうよね」
「ちなみに私は昨日夢に彼氏出たから」
姉は楽し気に笑って自分のことを話した。
「つまりね」
「彼氏の人お姉ちゃんのことが好きなの」
「彼は一昨日私が夢に出たっていうから」
「お互いなのね」
「そうなるわね、いや本当にね」
「両想いってことね」
「そうなるわね」
「いいわね。私もね」
また言う伊代だった。
「早くそうした相手出来る様にしたいわ」
「頑張りなさいね、そっちも」
「あの子が夢に出たらいいのに」
「そう思うならまずアタックしてよ」
「自分のことを好きになるようにしろっていうの」
「そうした方がいいかもね」
姉は笑いながら妹に言って御飯を食べていった、伊予も母に言われて食べた。そうして学校に行ってクラスメイト達に夢と朝の話をすると。
「家族はしょっちゅうよね」
「夢に出るわよね」
「言われてみれば」
「彼氏よりもずっとね」
「そうよね、お互いに気にし合ってるってことね」
要するにとだ、伊予はクラスメイト達に話した。
「家族だから自然に」
「そうなるわね」
「まあ仲が悪い家族はどうか知らないけれど」
「お互いに喧嘩ばかりしてる家族もいるし」
「そんな家族は夢に出ないかも」
「そうよね」
「そうかも知れないわね、ただ何か」
腕を組んで難しい顔になって首を傾げさせてだ、こうも言った伊代だった。
「自分が好きだから夢に出るのか相手の人が好きだから夢に出るのか」
「そのことはわからない」
「そうだっていうの?」
「どっちがどっちか」
「それは」
「本当にどっちかしら」
それはというのだ。
「何かわからなくなってきたわ」
「それそうよね」
「小野小町さんにしても」
「昔はそう言われてたけれど」
「小野小町さんがその人のことを好きでなくなったんじゃ」
「そっちじゃないかしら」
「実際は」
友人達もそこがわからなくなった、どうにも。
「ちょっとね」
「訳がわからなくなってきたわ」
「果たしてどっちなのか」
「自分か相手か」
「そうよね、お姉ちゃんは完全に小野小町さんと同じ考えだけれど」
朝本人から聞いた話とまさにそうだった。
「実際はね」
「どうなのかしらね」
「本当のところは」
「どっちなのか」
「わからないわよね」
「どうにもね」
腕を組んで首を傾げ言う伊代だった、そのことは結局わからなかったが好きな相手には自分からアタックすることにした。とりあえずこのことは決めたのだった。その日の夢にその相手が出て来たこともあってどっちがどっちでもとも思って。
夢に出る人 完
2017・9・29
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