突き指
 長田敦子はバスケ部に所属している、それで朝も夕方も部活で汗を流しているがある日の放課後の部活でだ。
 ボールを受け取るのに失敗してだ、その瞬間にだった。
 右手の中指に鈍いが強い痛みを感じてだ、その場に蹲った。するとすぐに他の部員達が彼女のところに来て聞いてきた。
「どうしたの?」
「怪我?」
「ちょっと指が」
 痛むその指を抑えつつだ、敦子は答えた。
「やっちゃったみたい」
「すぐに保健室に行け」
 顧問の先生も来ていて敦子に言った。
「いいな」
「はい、それじゃあ」
「骨折してないといいがな」
「そんな感じはしないですけれど」
 自分ではだ。
「けれど痛いです」
「突き指か?それでもな」
「保健室で、ですね」
「手当受けて来い、いいな」
「わかりました」
 こうしてだ、敦子はその足で保健室に行った。そうして診てもらうと実際に右手の中指を突き指していた。
 それで包帯をしてもらってテーピングをしてもだってだ、敦子は翌朝の部活に出てこう部員達に行言った。
「一週間はね」
「動かすな」
「そう言われたの」
「そうなのよ」
 実際にというのだ。
「昨日保健室でね」
「じゃあ部活の練習もね」
「出来ない?」
「そうなったの?」
「それは出るわよ、ランニング位は出来るから」
 指のことでというのだ。
「ただ、手を使うことはね」
「出来ないから」
「それでなのね」
「そっちの練習は参加出来ない」
「そうなのね」
「ええ、走ったり筋トレとかはするから」
 それで今も来ているのだ。
「やるわね、けれど一週間はお箸を持つのもね」
「ああ、中指だからね」
「それでよね」
「お箸も持てなくて」
「それで困ってるの」
「親指と人差し指でね」
 敦子はその二本の指を使って話した。
「フォークとかスプーンで食べてるわ」
「それは大変ね」
「おうどんとかもフォーク?」
「それで食べるなんて」
「何か違うわね」
「そうなの、本当に痛みがひくまで」
 それでテーピングが取れてというのだ。
「しんどそうよ」
「仕方ないわね」
「突き指だからね」
「だからね」
「暫くはね」
「ええ、何かと我慢よ」
 このことを受け入れるしかない敦子だった、嫌々ながらも。それで授業中も親指と人差し指だけでペンを持ってだ。
 それで書いていたし食事の時は実際にその二本の指でフォークやスプーンを使って食べていた。そして中指を少しでも動かすとだ。
「痛いのよね」
「そうよね、突き指って」
「これが結構以上に痛いのよね」
「下手に動かすと」
「そうなるのよね」
「ええ、突き指をしたら」
 実は敦子はこれまで二回位していて突き指のことも知っているのだ。
「だからね」
「それでなの」
「そうしてなの」
「突き指もして」
「それでなのね」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「今辛いわ」
「中指一本でもね」
「生活に色々支障出るわよね」
「食べるにも書くにも」
「右手の制限が凄くて」
「お風呂入る時も」
 その時もというのだ。
「中指が痛いから」
「身体を洗うのもね」
「やっぱり辛いわよね」
「中指を動かせられないから」
「それで」
「そう、早く痛みが引いて欲しいわ」
 心から言う敦子だった。
「今必死に湿布薬とかも塗ってるけれど」
「治るまではね」
「お箸も持てないし」
「お風呂入るのも苦労して」
「部活だって」
「そう、走ることとかは出来ても」
 それでもというのだ。
「ボール持てないし手を使う練習自体が」
「出来なくて」
「色々制限受けてるのよね」
「これが」
「そうなの、折角レギュラーなのに」
 そしてそのレギュラーの座を守りたいがだ。
「暫くはそうした練習が出来ないから」
「そのことも我慢ね」
「我慢することばかりね」
「暫くの間は」
「そうなってるわね」
「ええ、困ってるわ」
 現在進行形でとだ、こう話してだった。
 敦子は自分の右手の中指を見た、その突き指をして今は伸ばした形で固定している指を。そうしていれば痛くはないが動かすとやはり痛い。
 その指が早く治って欲しいと思いつつ生活に苦しさを感じていた、そうしつつ生活を送っているとだった。
 一日一日が過ぎていってだ、遂にだった。
 テーピングが取れてだ、医者に言われた。
「もうお箸も持てるからね」
「ペンもですね」
「そう、普通に持てるよ」
 そのどちらもというのだ。
「本当にね、あと部活はね」
「そちらは」
「あと数日はね」
 その間はというのだ。
「我慢してくれるかな」
「そうですか」
「手を使うのはね」
「投げられたボールを受けることも」
「バスケ部だったよね」
「はい、そうです」
「あのボールは大きくて硬いから」 
 だからという返事だった。
「もう少しはね」
「そうですか」
「そう、待っていてね」
「わかりました」
 こう答えた敦子だった、言葉は素直だったが。表情は苦いもので医師も話した。
「うん、気持ちはわかるけれどね」
「はい、我慢ですね」
「あと数日はね」
「それで完治してからですか」
「部活は頑張ってね、さもないとね」
「また怪我をしてですね」
「繰り返しになるからね」
 つまりまた怪我をするからだというのだ。
「注意してね」
「わかりました」
 やはり憮然として答えた敦子だった、そしてだった、
 敦子はそのまま数日我慢した、部活のそうした練習には参加しないまま。そうして完治してからだった。
 ボールを受けた、そうして部の仲間達に話した。
「この感触がいいのよ」
「やっとよね」
「ボール受けられたわね」
「待ちに待ったって感じね」
「本当に」
「それにしても敦子ちゃんよく我慢したわね」
「うずうずしてたけれど」
「だってね、一回やったから」
 こう答えた敦子だった。
「一回突き指して治ってすぐにね」
「またボール受けて」
「それでなの」
「そう、突き指繰り返したから」
 それでというのだ。
「だからね」
「それでなのね」
「こうしたことは慎重なの」
「それで無理はしなかったの」
「そうしたら我慢する時間が余計に長くなるから」
 それでというのだ。
「我慢してたの」
「同じ間違いは繰り返さない」
「そういうことね」
「だからじっとしていた」
「そうなのね」
「そう、もうあんな思いはしたくないから」
 だからと答える敦子だった。
「待ちに待ったわ、そして待っただけに」
「楽しむのね」
「こうした練習も」
「そうして遅れを取り戻すのね」
「そうするわ」
 こう言って実際にだった、敦子は部活を楽しみそうしつつこれまでの遅れを取り戻そうと頑張った。我慢して辛い思いをしたその分だけ。


突き指   完


               2017・10・25

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