ガード
 高井田由紀は体育の授業でスパッツの裾をなおしている時にクラスメイト達に怪訝な顔で囁かれた。
「ちょっと、注意してね」
「今男子も同じ場所で体育してるから」
「見られるわよ」
「注意してね」
「見られるって裾なおしてるだけよ」
 何でもないという顔で返す由紀だった。
「別に何も」
「その裾なおしがまずいの」
「結構危ないの」
「いやらしい仕草だから」
「下手したら下着が見えるし」
「その下着が見えそうになるから」 
 由紀の返事はおっとりとしていた。
「だからなおしたのに」
「だから男子に見えない様にね」
「そうしてね」
「由紀ちゃん可愛いしスタイルもいいから」
「男子も見るから」
「注意してね」
「ううん、それじゃあ」
 それならとだ、由紀も頷いた。そしてだった。
 皆に隠れてそこで裾をなおした、友人達はその彼女にあらためて言った。
「そうそう、そうしてね」
「ちゃんとしてね」
「隠れてしてね、そうしたことは」
「他のこともね」
「他のことも?」
 由紀は裾をなおし終えてからクラスメイト達に聞き返した。
「そうしないと駄目なの」
「そうよ、服をなおしたりとかね」
「ブラとかショーツが透けたりとか」
「勿論チラリもよ」
「脚とか鎖骨だけでも」
「結構くるものがあるから」
 それだけで男子を刺激するからだというのだ。
「何かあってからじゃ遅いから」
「そうしたガードもしっかりしてね」
「とにかく男の子を刺激しないこと」
「しっかりしてね」
「そうするわね」
 こう話すのだった、由紀も。
 そしてだ、由紀は無防備な仕草や服装を慎む様になった、服もしっかりとしたものになり不用意な仕草は止める様になった。
 だがそれがやがてだ、過剰になってだ。
 夏でも長袖でいる彼女にだ。どうかという顔で言った。
「ちょっとね」
「ちょっとですか」
「このことは」
「そう、ちょっとね」
 由紀は汗をかきつつ友人達に話す、夏の大阪の街のショッピングをしつつ。
「露出抑えてね」
「いやいや、それでもよ」
「夏に長袖はないから」
「首筋まで完全にガードした」
「それでスカートも生地厚い長いのだし」
「辛いでしょ」
「辛くても露出があるよりも」
 友人達、目の前にいる彼女達に言われたことを意識してだ。体育の時に。
「こうしてね」
「いや、それでも限度があるから」
「普通に過ごしていいのよ」
「無防備が問題であって」
「過剰じゃなくていいから」
「そうなの?」
 由紀は友人達に汗をかきつつ問い返した。
「万全じゃなくていいの」
「万全っていうかやり過ぎじゃなくていいから」
「今の由紀ちゃんはやり過ぎだから」
「もうちょっとそこはね」
「普通にしていいから」
「ごく普通にね」
「じゃあ」
 そう言われてだ、由紀は今度は普通の服装になった。半袖になってそのうえでだ。
 スカートも夏のものになった。友人達はその彼女と再び大阪の街を歩きつつ笑顔で話した。
「そうそう、それでいいのよ」
「普通の服でね」
「無防備もよくないけれどやり過ぎもよくないから」
「そっちもね」
「そうよね、ちょっとお家でお母さんともお話して」
 そうしてというのだ。
「今みたいにしたの、ただね」
「ただ?」
「ただっていうと?」
「実は見えない様にはしてるわ」
 そちらの配慮は忘れていないのいうのだ。
「スカートの下にスパッツ穿いてブラの上からもね」
「あっ、一枚着てるわね」
「それで脇も鎖骨も見せてないし」
「透けるのも露出もね」
「ちゃんとしてるのね」
「そうしたの、私も考えて」
 そうしてというのだ。
「こうしてみたの」
「成程ね」
「見えそうなところをガードしたのね」
「そうしたのね」
 友人達は由紀のスカートもチェックした、見れば膝までのスカートで適度な長さと言えるものだった。
「今みたいに」
「前は確かにやり過ぎた感じだったけれど」
「そうして守るところは守る」
「そうしたのね」
「そうしてみたの、これならいいわよね」
 自分の服を見つつだ、由紀は友人達に訪ねた。
「無防備でもやり過ぎでもないわよね」
「ええ、いい感じよ」
「それなら問題ないわよ」 
 友人達も由紀に笑って話す。
「体育の時も無防備もどうかって思ったけれど」
「前の長袖もね」
「けれど今の状況ならね」
「問題ないわよ」
「そうよね、じゃあね」
 それならと言う由紀だった、そうしてだった、
 友人達と一緒に大阪の街を歩いて楽しんだ、そして百貨店で水着のコーナーに行った時は不意にだった。
 ビキニの中でも露出の多いものやグラビアアイドルが撮影で着る様な前も後ろも大きく開いているワンピースを見てだ、友人達は由紀に笑って話した。
「どう?こうした水着」
「由紀ちゃんスタイルいいから似合うわよ」
「だから買ってみる?」
「そうしてみる?」
「いいわよ、そうした水着は」 
 由紀は顔を赤くさせてそのうえで友人達に答えた。
「無防備でやり過ぎだから」
「けれど彼氏の子喜ぶわよ」
「由紀ちゃんがこうした水着を着ればね」
「下着だってそうよ」
「派手でいいのい」
「そうした時は無防備でもいいの?」 
 由紀は友人達に怪訝な顔になって問い返した。
「それでこうした意味でやり過ぎでも」
「彼氏相手ならいいのよ」
「二人だけの時はね」
「そうしたらいいから」
「その時はいいからね」
「そういうものね、他の男の子がいる前だと無防備は駄目で露出を抑え過ぎてもやり過ぎになって」
 由紀は友人達の言葉を聞いてそのうえで考えをまとめた。
「彼氏と二人だけの時はいい」
「そういうものよ」
「もう彼氏相手だと思いきり誘わないとね」
「そうしないと駄目だからね」
「由紀ちゃんもその辺りわかっていてね」
「ええ、その時々ってことね」
 その派手な水着達を見つつ言う由紀だった、このことは彼女にとってあらたにわかったことだった。そしてその水着の中で特に刺激的な前の部分が大きく開いているビキニに近い露出の黒のワンピースを買った。彼氏に見せる為に無防備でやり過ぎなガードなぞそれこそ何処にもないその水着を。


ガード   完


                 2017・10・26

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