風紀委員長の恋愛
 深江橋みなみは通っている高校で風紀委員長をしている、その為いつも制服の左手には風紀部の腕章がある。
 その腕章を誇りの様にしてだ、いつも風紀委員長として頑張っているが。
 男子の風紀委員長からだ、よくこう言われていた。
「深江橋さんちょっと厳し過ぎない?」
「そうですか?」
 みなみは彼に厳しい顔で返すのが常だった。
「私は別に」
「そんなつもりはないんだね」
「当然では」
 こう返すのだった。
「これ位のことは」
「その指摘がね」
「厳しいですか」
「ちょっとしたことでも注意してるね」
「はい、ですが」
「注意だけでだね」
「別にものを取り上げたり先生に言ったりしていません」
 そうしたことは一切していない、みなみはそうしたことは嫌いなので生徒達の不真面目な態度、もっと言えば校則違反を注意しているだけなのだ。
「ですから」
「注意で止めて」
「生徒の皆には出来るだけそこからです」
「校則を守って欲しい」
「そう思って言っているだけで」
「厳しいとはだね」
「本当に厳しいと」
 それならとだ、みなみは彼に話すのだった。
「それこそ」
「ものを没収したりね」
「先生に言っています、けれどそうしたことは」
「君も嫌いだし」
「していないですし、本当にあくまで」
「皆に校則を守って欲しい」
「それだけです、幸いうちの高校は不良とかはいないので」
 そこまで悪い生徒はいない、柄の悪い校風ではなく全体的に穏やかで平和な学校であるのだ、
「いじめがあっても」
「すぐに注意するしね、周りが」
「ですからかなりいいですが」
「それでもだね」
「注意はしていきます、特に」
 校則の中でもみなみが特に注意していることはというと。
「男女交際は」
「注意しているね」
「私達はまだ高校生ですから」
 必死に言うみなみだった、このことは常に。
「ですから」
「そこは注意しているんだね」
「他のことよりも」
「そうしているんだね」
「はい、何かがあってはいけないですか」
 強い言葉だった。
「注意しています」
「成程ね。けれどね」
「厳し過ぎてはですね」
「よくないから程々にね」
 男女交際への注意もというのだ、男子の風紀委員長はみなみによくこう言っていた、みなみが学生達に注意するのを止めることはないと思いながら。
 しかしだ、その彼女をだ。
 風紀委員長は所属している卓球部の面々と放課後にマクドナルドでハンバーガーを食べている時にだ、店の外で見たのだった。
「あれっ、あれは」
「どうしたんだよ」
「一体」
「いや、深江橋さんだけれど」
 みなみを見たというのだ、実際に店の前をみなみが歩いていた。
「あれは」
「あっ、本当だ」
「女子の風紀委員長だな」
「あの娘茶道部だろ?」
「今日は部活ないのか」
「そうみたいだぜ」
 一人がここで話した。
「うちのクラスに茶道部の娘いるけれどな」
「今日は休みってか」
「そう言ってたんだな」
「ああ、そんな話をクラスでしてたな。それで今日は遊びに行くって」
 そうした話をだ、友人達に話した。
「それでだろうな」
「風紀委員長もか」
「ああしてか」
「今日は遊んでるのか」
「まあ俺達も今日は部活なくてな」
 実は彼等もだった。
「こうして遊んでるけれどな」
「今日はな」
「こうしてな」
「同じだね、けれど」
 男子の風紀委員長はここでだった、楚々とした感じで歩いているみなみを見て普段の彼女とは違うことに気付いた。それで友人達にその気付いたことを話した。
「普段と違うね、雰囲気が」
「あれっ、そういえばそうだな」
「いつも委員長堂々と歩いてるのにな」
「今はな」
「何か楚々としてな」
「女の子っぽいな」
「どうしたのかな」  
 彼はこのことを不思議に思っていたがだ、みなみは店の前で立ち止まってだった。暫く一人で立っていたが。
 その彼女のところに一人の背の高い少年が来た、着ている服は彼等とみなみが通っている学校の制服だった。
 その彼を見てだ、男子の委員長は言った。
「風紀部の一年の子だよ」
「あれっ、そうなのか?」
「俺達の後輩か?」
「同じ制服だしな」
「そうだね、それで」
 その一年の子を見るとだ、みなみに笑顔で話しかけて。
 そしてみなみは彼に笑顔を向けてだ、二人でだった。
 何処かに行った、男子の風紀委員長も彼と同じ卓球部の面々もその一部始終を見てそのうえでだった。
 驚愕の顔でだ、こう言い合った。
「まさかな」
「ああ、そのまさかか?」
「あの風紀委員長が男女交際か」
「それをしてたのか」
「そうかもね、けれど」
 男子の風紀委員長は驚きの中で友人達に話した。
「深江橋さん他の人に言って自分はしないとかね」
「そうした娘じゃないよな」
「あの娘は」
「そうだよな」
「うん、だからね」
 それでというのだ。
「付き合ってるとかはね」
「まさかか」
「そんなことはないか」
「それはないか」
「そうだよ、嘘も言わない娘だし」
 とにかく真面目で自分自身にも規律を求めるタイプなのだ。まさに風紀委員の鑑と言うべきであろうか。
「だからね」
「男女交際はか」
「ちょっと考えられない」
「そう言うんだな」
「そうじゃないかな、まあ明日ね」 
 男子の風紀委員長は考える顔で言った、全員ハンバーガーを食べるその手は自然に止まってしまっている。
「本人に聞いてみるよ」
「ああ、そうしろよ」
「流石にあの風紀委員長が誰かと付き合ってるとかないかなら」
「今見たのも信じられないしな」
「本人に確認取ってくれよ」
「同じ風紀委員長だしな」
「そうするよ」
 男子の風紀委員長は友人達に約束した、そしてだった。
 彼は次の日学校でみなみ本人を風紀部の部室に呼んでだ、すぐに尋ねた。
「昨日マクドナルドで見たけれど」
「あ、あのことですか!?」
 彼が切り出した瞬間にだ、みなみは顔を真っ赤にさせて普段とは全く違う戸惑った顔を見せてきた。
「はい、私あの子とです」
「自分から言うんだ」
「嘘は嫌いですから」
 このことは既に彼が知っている通りだ、友人達にも話していることでもある。
「ですから言います」
「そうなんだね」
「はい、あの子と交際しています」
 顔を真っ赤にしたまま真実を話した。
「その、同じ風紀部員として一緒にお仕事をしているうちに」
「交際する様になったんだ」
「そうです、ですが」
「ですが?」
「不純なことは一切していないですから」
 このことを必死に言うのだった。
「そのことは安心して下さい」
「ああ、うちの高校の校則じゃね」
「不純異性交遊は禁止ですよね」
「何処の学校でもそうだけれどね」
 むしろ禁止していない高校の方が珍しいだろう。
「校則であるね」
「はい、ですから」
「不純異性交遊はだね」
「していないです、手をつなぐことも」
 このことすらというのだ。
「していないですから」
「いや、それ位はね」
「私達は高校生ですから」
 とにかくこのことを強く言うみなみだった。
「校則は守って真面目に」
「不純異性交遊もなんだ」
「高校生でいる間は」
 必死の顔で言葉を出し続けていた。
「私もです」
「そのことは守ってだね」
「絶対にです」
「不純なことはだね」
「健全です、デートしてお話しますが」
 それでもというのだ。
「私も守っていて彼にもです」
「守ってもらっているんだね」
「そうしています」
「真面目だね、けれどね」 
 みなみ本人の話を聞いてだった、真実がわかったのでだ。
 男子の風紀委員長は笑ってだ、こう彼女に言った。
「深江橋さんも女の子なんだね」
「私が?」
「交際もしてて今みたいにお顔を真っ赤にさせて必死になってね」
「それでなんですか」
「女の子だって思ったよ」
「じゃあ今はどうだったんですか?」
「とにかく真面目一辺倒だって思ってたよ」
 彼もみなみに正直に話した。
「けれどそれが違うんだね」
「私最初からこうですけれど」
「女の子だっていうんだね」
「他の何だっていうんですか」
「それが見えなかったから、けれどね」
 みなみにさらに話した。殺風景でまさに真面目一辺倒といった感じの目標だのが書かれた紙が貼られている風紀部の部室の中で。
「その男女交際も手をつないだり位は」
「校則にありますので」
「駄目なんだ」
「はい、お互いに我慢しています」
「じゃあお互いに高校を卒業したら」
「その時はです」
 ここでまた顔を真っ赤にさせて言うみなみだった。
「その、まあこれ以上は」
「恥ずかしくて言えないね」
「ですが考えています」
「そうなんだね、それで交際はだね」
「していますし続けています」
 清潔なそれはというのだ。
「これからも」
「そちらも頑張ってね」 
 彼はそんなみなみに笑顔で言った、このことは程なくして校内でも知れ渡った、だがそれでもだった。
 みなみは真面目な交際を続けたのでこのことで陰口を言われることも後ろ指を指されることもなかった、そして本人も後ろめたいものはないと確信していたので堂々としていた、そうしてこう言うのだった。
「男女交際は清く正しく美しくです」 
 そのうえで生徒達に注意するのだった、純粋な交際をしようと。自分自身もそうした交際を楽しみながら。


風紀委員長の恋愛   完


                2017・10・26

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