助っ人として
 大日美奈代はこの日はアルバイトのカラオケボックスでの仕事はない予定だった、だが大学で昼食を摂った直後にだ。
 店の店長から携帯で連絡が入ってだ、出るとすぐにこう言われた。
「実はさっき高校生のバイトの娘二人から連絡が入ってね」
「急にですか?」
「うん、二人共急に用事が出来てね」
 それでというのだ。
「今日出られなくなったんだよ」
「今日は確か」
「そう、団体のお客さんの予約が入ってるのに」
「二人抜けられると」
「困るから。だからね」 
 店長は声だけでも申し訳ないといった思いがあるのがわかった、表情もその声から容易にわかる程だった。
「今日美奈代ちゃん大丈夫?」
「はい、今日は特にです」
 オフだがとだ、美奈代は交際相手でもある店長に答えた。
「予定ないですから」
「じゃあ申し訳ないけれどね」
「大学が終わったらですね」
「お店に来てくれるかな」
「わかりました」
 美奈代は店長に快諾で答えた。
「そうさせてもらいます」
「それじゃあ今日お願いね」
「あの娘達の分をですね」
「頑張ってもらいたいからね」
「そうさせてもらいますね」
「もう一人来てもらうし」
 今日のシフトに入っていない子からというのだ。
「とにかくね」
「今日はですね」
「宜しく頼むよ」
「はい」 
 美奈代は店長にこう返してだ、オフから気持ちを切り替えて仕事に励もうと思った。こうした時の切り替えが上手な娘なのだ。
 それで大学のこの日の講義が全て終わるとすぐにだった、店に入ったがその時はまだだった。店長も穏やかだった。
「じゃあ今日はね」
「宜しくお願いします」
「岡本さんにも来てもらうから」
「あの娘にですか」
「うん、あの娘にもね」
 美奈代と別の大学に通っている娘だ、年齢も学年も一つ下だ。
「来てもらうから二人で今日はね」
「団体さんもですね」
「頼むよ、四十人来てね」
「四十人ですか」
「一番広いお部屋貸し切りだからね」
「注文も多いですね」
「絶対にね」
 このことは容易に想像出来ることだった。
「だからね」
「私と岡本ちゃんで、ですね」
 美奈代は彼女のことをこう呼んでいるのだ。
「今日はですね」
「団体さんも頼むよ」
「わかりました」
「さて、何を頼んで来るから」
 店長は団体客のことを考えていた。
「一体ね」
「もうあれやこれやでしょうね」
 美奈代は笑って店長に答えた、これまでのこの店での仕事の経験から話した。
「それこそ」
「そう、だからね」
「二人出られなくなって」
「どうしようかって思ってね」
「私と岡本ちゃんにヘルプ頼んだんですね」
「そうだよ、代わりの休日入れるから」
 今日の分はというのだ。
「頑張ってね」
「そうさせてもらいます」
「それじゃあね」
 こう話してだ、そしてだった。
 美奈代は働きはじめた、最初は客も少なく自分と同じく助っ人に来た岡本とも不通にのどかに働いてきたが。
 その団体客達が来るとだ、予想通りだった。
「ええと、今度の注文はですね」
「何かな」
「カルボナーラ三人前にピザ四人前です」
「それだね」
「はい、あとワインボトルで七本です」
 美奈代は部屋の電話からの注文を店長に話した。
「それだけです」
「よし、じゃあすぐに作るよ」
「それでワインもですね」
「出して」
 まずはワインをというのだ。
「そうしてね」
「わかりました」
 美奈代は答えてだ、すぐにだった。
 まずはワインを持って行った。その帰りに岡本と擦れ違った、彼女はこの日は団体客以外の客達を受け持っていたが。
 その彼女も忙しくてだ、殆ど駆けていた。
 カウンターに戻ると別の客が来ていた、カップルだったがその二人の対応もして部屋に案内してだった。
 料理を団体客の部屋に運ぶ、そして帰るとだった。
「二号室のお客様が」
「ああ、もう時間なんだ」
「あと十分になりました」
「じゃあ電話して」
 店長は美奈代に答えた、彼が料理を作っていてキッチンの中からの返事だった。尚店長は料理上手でこの店の評判の一つにもなっている。
「そうして」
「わかりました」
「あとそれぞれのお部屋の時間はね」
「チェックはですね」
「忘れないでね」
 どれだけの時間を言ってきていて残り時間はどれだけかというのだ。
「そうしてね」
「わかりました」
「あとね」
「はい、団体客のですね」
「注文は終わったよね」
「はい、ただ」
「追加?」
 店長の問いは身構えているものだった。
「それかな」
「はい、今度はチキンナゲット三皿です」
「わかったよ、じゃあ今すぐ揚げるよ」
「お願いします」
「そしてね」
 さらに話す彼等だった。
「他のお部屋は岡本ちゃんがやってくれてるから」
「時間のチェックはしても」
「そう、あの娘に任せてね」
「私はですね」
「こっち手伝ってくれる?」
 キッチンの方をというのだ。
「お酒の注文あったらね」
「お酒をですね」
「出して、カクテルとかもね」
 そちらは作って欲しいというのだ。
「そうしてね」
「わかりました」
 美奈代はそちらにも入った、そしてだった。
 そちらも手伝う、そのうえで電話の対応にも出てだった。
 それから再び団体客の部屋に行ってチキンナゲットを届けたがそこでまた注文を受けた。そしてキッチンで店長に言うとだった。
「さっき電話であったよ」
「あちらのお部屋からですか」
「うん、お酒とね」
「私は今度はフライドポテトでしたけれど」
「一緒に言わなかったんだ」
「そうみたいですね、もう一人一人が注文されていて」
 団体客の中のというのだ。
「かなり賑わっていますから」
「だからだね」
「はい、もう飲んで食べて歌ってですよ」
「カラオケボックスでもなんだ」
「歌ってが最後になってます」
 そうした状況だというのだ。
「もう」
「だから注文もだね」
「凄いことになってるみたいですね」
「よくあることだね」
 団体で来て盛り上がってきたならというのだ。
「だからね」
「はい、ここはですね」
「本当に頑張ってね」
 こう美奈代に言うのだった。
「そうしてね」
「わかりました、それじゃあ」
「岡本ちゃんも今必死だから」
 必死で頑張っているからだというのだ。
「他のお客さんでね」
「何か今日は随分と」
「お客さん多いね」
「今日は平日で明日も休日なのに」
「それでもね」
「多いね、こうした日もあるんだね」
 店長の口調はしみじみとしたものになっていた。
「いや、本当にね」
「そうですね、それじゃあ」
「うん、とにかくね」
「今はですね」
「頑張りどころだよ、じゃあ今度は」
「フライドポテトお願いします」
「わかったよ」
 店長は今度はそちらを揚げだした、そして美奈代は酒を作ってもいた、とにかくこの日は大忙しだった。
 それでようやく団体客達も他の客達も帰って閉店時間になってだ、美奈代は掃除をしつつこう言った。
「今日は嵐だったわね」
「はい」
 共に掃除をしている岡本も同じ考えだった、見れば美奈代よりも背が高く顔の彫が深くスタイルはいいが肩幅が広く逞しい感じである。
「何ていいますか」
「団体客が来ててね」
「お客さんも多くて」
「しかもね」
「どのお客さんも飲んで食べてで」
「凄かったわね」
「今日平日で明日も平日なのに」
 岡本も美奈代と同じことを言った。
「それがですね」
「今日は多かったわね、本当に」
「こんな日もあるんですね」
「そうね、それでね」
「どのお部屋も散らかってて」
「食べカスや零したのがね」
 ジュースなり酒なりをだ。
「凄かったから」
「お掃除も大変ですね」
「そうよね」
「いや、今日は本当にご苦労さん」
 店長も掃除をしつつ話に入って来た。
「お陰で助かったよ」
「そうですよね、今日は」
「君達がいなかったら」
 美奈代と岡本が助っ人に来なかったらというのだ。
「本当にどうなっていたかね」
「わからなかったですか」
「そうだったんですか」
「お店が回っていなかったよ」
 それこそというのだ。
「絶対にね」
「凄い状況でしたから」
「だからですね」
「これが普通の日だったらね」 
 明日も平日だったらというのだ。
「こんなに多くなかったけれどね、お客さんも」
「絶対にそうですよね」
「けれどね」
「今日は団体客の人達も予約があって」
「他のお客さんが多かったのは想定していなかったけれど」
「私達二人が入ってですね」
 シフトに入っていなかったがだ。
「よかったですか」
「うん、だから特別に」
 笑ってだ、店長は二人にあらためて話した。
「今日はサービスだよ、好きなお酒持って行っていいよ」
「好きなですか」
「ワインでもビールでも日本酒でもカクテルでもね」
 それこそと美奈代に話した。
「持って行って」
「そしてですね」
「家で飲んでよ」
 こう二人に言うのだった。
「そうしてね」
「それじゃあ」
「そうさせてもらいます?」
 美奈代だけでなく岡本も言った、二人共かなり疲れたのでそれ位は貰ってもいいだろうと思ってのことだ。
「今日は」
「そうよね」
「ボトル二本、日本酒だと一升まで持って行っていいよ」
 店長は二人に笑って話した。
「ビールだと缶一ダースね」
「じゃあビール貰います」
「私は日本酒を」
 美奈代と岡本はそれぞれ飲む酒を頭の中で選んで決めた、そのうえで店長に対して話した。
「それでお掃除の後はお家に帰って」
「飲ませてもらいます」
「そうしてね、それでね」
 さらに話す店長だった。
「今日はゆっくり休んでね、代休シフトに入れておくから」
「私明日入ってますから」
「私もです」
 美奈代も岡本も言ってきた。
「宜しくお願いします」
「明日も」
「うん、明日も頼むよ」
 店長も二人にこう返した。
「明日は予約入ってないし明後日は平日だしね」
「今日みたいにはですね」
「忙しくはないですね」
「だから安心してね」
 二人に笑って言うのだった、そしてだった。
 美奈代は店の掃除が終わると岡本と一緒にそれぞれが飲みたい酒を持って店長に挨拶をして帰った。そうして家に帰るとシャワーを浴びてビールを飲んだ、忙しかった後のビールの味は最高だった。


助っ人として   完


                 2017・10・28

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