新しいスパイク
 緑橋莉乃は高校一年生で女子サッカー部に入った時に部活で使う新しいスパイクを買った時に店の店員にこんなことを言われた。
「このスパイクいいスパイクでして」
「履いてると軽いですね」
「はい、軽くて丈夫で」
 それでというのだ。
「この値段ですと」
「お買い得なんですね」
「そうです、ですから安心して使って下さいね」
「履き心地もいいですね」
 莉乃は今実際に店の中で試しに履いてみた、すると実際に履き心地はよかった。
「これならです」
「サッカー部でしたね」
「はい、女子の」
「ポジションは」
「センターファワードです」 
 つまり最も攻めるポジションだというのだ、実際に莉乃は中学の部活ではそのポジションで活躍している。
「そこです」
「そうですか、ならです」
「ドリブルの時もシュートの時もですね」
「もう快適にいけますので」
 走れて打てるというのだ。
「安心して下さいね」
「活躍出来るんですね」
「はい、絶対に」
「それじゃあこのスパイクにします」
 莉乃も決めてだった、そのうえで。
 そのスパイクにして部活で履くことにしたのだ、莉乃はスパイクを買った次の日に部活で履いてみたが。
 履いて動いてみてだ、部の仲間達に明るい声で言った。
「このスパイクいいわ」
「あっ、新品じゃない」
「新しいスパイクじゃない」
「ええ、昨日買ったけれど」
 スパイクを履いた状態で跳ねながらの言葉だ。
「いい感じよ」
「そうなのね」
「そんなにいいのね」
「これならね」
 本当にと言うのだった。
「いい感じよ」
「そうなのね」
「じゃあ今日からなのね」
「そのスパイク履いて」
「部活して練習にも出るのね」
「そうするわね、いやしかしね」
 さらに言う莉乃だった。
「安かったしお買い得だったかもね、お店の店員さんが言う通り」
「安かったの、そのスパイク」
「よさそうだけれど」
「そうなの」
 ここで値段を言うとだ、友人達もこう言った。
「へえ、本当に安いわね」
「バーゲン並の値段ね」
「それなら」
「だからよかったわ、これで丈夫だったらね」
 それならと言うのだった、店員が言う通りに。
「余計にいいわね」
「日本製だったら丈夫ね」
「それならね」
「本当にお買い得ね」
「それで長持ちしたら」
「そうだったら本当に最高よ」
 スパイクを見つつ言う莉乃だった、そしてだった。
 莉乃はそのスパイクを履いたままで部活に出てランニングに部活の練習のメニューをした、するとだった。
 履いた時よりさらに快適だった、しかも一ヶ月二ヶ月三ヶ月と履いて使って二年になってもだった。
 何ともない、それで友人達に話した。
「もう三ヶ月履いてるけれど」
「古い感じがしないのね」
「そうなのね」
「使い擦れた感じが」
「そうなの、底とか生地とかね」
 そうしたところがというのだ。
「全然よ、履き心地も変わらないし」
「毎日履いて練習しているとどうしても履き潰れてきた感じするけれどね」
「そうなるけれどね」
「そうじゃないのね」
「そのスパイクは」
「ええ、丈夫よ」 
 店員が言った通りにというのだ。
「本当にね」
「じゃあ本当にいい買いものだったのね」
「そうだったのね」
「安くて丈夫で」
「しかも履き心地もよくて」
「本当にね、このスパイクなら」
 今度は笑みを浮かべて言う莉乃だった。
「次の試合もね」
「いけそう?」
「活躍出来そう?」
「シュート決められそう?」
「いけるかも、オーバーヘッドキックとかね」
 このことは笑って言う莉乃だった、実際は莉乃はオーバーヘッドは出来るがそれで得点を入れたことはない。
「いけそうよ」
「それ決められたら最高ね」
「もう決まったってね」
「そんな感じでね」
「いけそうよね」
 笑って話す莉乃だった、そして試合に出るとだ。
 莉乃は試合の途中から三年の先輩がタックルで足を摺って怪我をしたので交代でセンターフォワードとして積極的に攻めていった、その時にだ。
 ペナルティエリア外からだったがだ、シュート出来ると思ってだ。
 思い切ってシュートを打った、するとそのシュートが思いの他スムーズに威力のあるものが出てだった。
 見事得点を入れられた、そのシュートが決め手になり試合に勝ってだ。莉乃は試合の後でイレブンの仲間達に笑って話した。
「あのスパイクのお陰でね」
「いいシュートが打てた」
「それで決勝点を入れられた」
「そうだっていうのね」
「本当にね」
 こう話すのだった。
「よかったわ、だからこれからもね」
「あのスパイク履いてなのね」
「部活の練習もして試合にも出る」
「そうするのね」
「そうするわ、それで若しあのスパイクを履き潰しても」
 そうしてもというのだ。
「同じスパイク履くわ」
「そうするのね」
「あのスパイク履き潰しても」
「同じメーカーの同じ種類のスパイク買うのね」
「ええ、もうあれしかないわ」
 それこそというのだ。
「だって履き心地もいいし軽い丈夫で」
「しかも安い」
「いい要素が揃ってるから」
「だからなのね」
「あれしかないわ、あのスパイクに出会えたのは」
 まさにと言うのだった。
「神様のお陰よ」
「神様が導いてくれた」
「そうだっていうのね」
「そう思うわ、だから次の試合でもね」
 まさにと言うのだった。
「あのスパイクを履いて頑張っていくわ」
「そう、そうしてね」
「センターフォワードのあんたが活躍してくれたらうちも有り難いし」
「チーム的にもね」
「そうしていくわね」
 笑顔で応える莉乃だった、そしてだった。 
 莉乃はそのスパイクを履いて次の試合でも活躍した、彼女の高校時代の部活はそのスパイクと共にあった。
 しかし部活を引退する時にそのスパイクを見て気付いたのだった。
「あれっ、もうね」
「もう?」
「もうって?」
「かなりボロボロになってるわね」
 ずっと履いてきたそのスパイクはというのだ。
「三年履いてて」
「ずっと快適で履いてて」
「三年履いてたら」
「もうすっかりなの」
「ええ、ボロボロになってたわ」
 このことに今気付いたのである。
「一年の春に買った時はピカピカだったのに」
「それがなのね」
「もうなのね」
「ボロボロになってたの」
「そうなってたわ、いや本当にね」
 実際にと言うのだった。
「ボロボロよ、けれどここまで頑張ってくれて」
「スパイクが」
「そうしてくれて」
「嬉しいわ、ずっと有り難う」
 スパイクに笑顔でお礼を言ったのだった。
「一年から三年の間ね」
「部活に励んでくれて」
「そうしてくれてよね」
「有り難う」
「そう言うのね」
「心からね」
 笑顔のまま言う莉乃だった、そしてそのスパイクは家に持って帰って奇麗に洗ってから自分の部屋に置いた。高校時代の思い出の一つとして。


新しいスパイク   完


                2017・10・28

作者の作品一覧 クリエイターページ ツイート 違反報告
{"id":"nov150928173979481","category":["cat0004","cat0008","cat0016"],"title":"\u65b0\u3057\u3044\u30b9\u30d1\u30a4\u30af","copy":"\u3000\u7dd1\u6a4b\u8389\u4e43\u306f\u65b0\u3057\u3044\u30b9\u30d1\u30a4\u30af\u3092\u8cb7\u3063\u3066\u5973\u5b50\u30b5\u30c3\u30ab\u30fc\u306e\u8a66\u5408\u306b\u51fa\u305f\u3001\u3059\u308b\u3068\u3059\u3053\u3076\u308b\u8abf\u5b50\u304c\u3088\u304f\u3066\u3002\u30ab\u30b7\u30ad\u30e3\u30e9\u4f5c\u54c1\u3067\u3059\u3002","color":"#a3a3ab"}