黒髪
九条ひかりの髪の毛は見事な黒でありその髪の毛の色をいつも家族からも友人達からも褒められている。
「ひかりちゃんの髪の毛って奇麗よね」
「奇麗な黒髪よね」
「こういうのを烏の塗れ羽色っていうのよね」
「ツヤもあるしね」
いつもこう言われていた、それでひかり自身その髪の毛の色が大好きで長く伸ばして手入れも忘れていなかった。
だが時折だ、外国の映画等を見てこうも言っていた。
「金髪とか茶色の髪とかいいわよね」
「黒髪じゃなくて?」
「ええ、そうも思うわ」
こう母に言うこともあった。
「私は黒髪が好きだけれどね」
「あんたの黒髪はお母さんと一緒よ」
見れば母も四十を過ぎているのに白髪一本もない奇麗な髪の毛だ、しかも長く伸ばしていて手入れも怠っていない。
「奇麗だからね」
「遺伝ね」
「そうした髪の毛なのよ」
「だから大好きだけれど」
自分の髪の毛を手に取ってその目で見つつの言葉だ。
「それでもね」
「金髪とか茶色の髪の毛もなの」
「赤髪もね、白人の人って他に灰色だったり白だったりね」
「そうした髪の毛の色の人もいるわね」
「そうした髪の毛もいいなって思うの」
自分の黒髪を好きでいつつもだ。
「こうして映画とか見てるとね」
「染めたいの?」
母はここで娘にこう問うのが常だった。
「そうしたいの?」
「いえ、それやったら髪の毛傷むでしょ」
「相当にね」
「だったらいいわ、後で抜けたりツヤとかもなくなるっていうし」
そうしたこともあるからだというのだ。
「いいわ」
「だから染めないのね」
「自分の黒髪が大好きだし」
「それがいいわね、やっぱりあんたはね」
娘にさらに話す母だった。
「黒髪が奇麗だし」
「似合ってるから」
「そのままでいる方がいいわ」
下手に染めたりしないでというのだ。
「黒髪のままでね」
「そうしていくわね」
ひかりもこう答えていた、そしてだった。
ひかりは自分の髪の毛のことをいいと思いつつも金髪や茶色の髪もいいと思っていた、そうした中でだった。
通っている中学校の校則についてだ、クラスメイトにこう言われた。
「うちの学校黒髪以外駄目みたいよ」
「染めたら駄目っていうのね」
「結構服装とかにも厳しいでしょ」
「先生もチェック厳しいわね」
「そう、だからね」
それでというのだ。
「髪の毛の色もね」
「黒髪じゃないとなの」
「駄目みたいよ」
「ううん、私は黒髪だけれど」
それでもとだ、ひかりはそのクラスメイトに首を傾げさせつつこう言った。
「日本人でも地毛が茶色の人とかいるでしょ」
「いるわね、確かに」
「あとハーフの人とかだと」
「親御さんからの遺伝でね」
「金髪だったりするけれど」
「そうした場合どうなるのかしら」
「その辺り気になるわね」
こうクラスメイトに言った、そしてだった。
職員室に行って担任の先生にも聞いた、元々茶色の髪の毛やハーフの子はどうなるのかとだ。すると先生は戸惑いつつ言った。
「そういえばな」
「そうした子もいますね」
「ああ、そうだな」
「そうした子はどうなるんですか?」
「どうだろうな」
先生の返事は要領を得ないものだった。
「本当に」
「私達の前にそうした人はいましたか?」
「いたんじゃないのか?先生はこの学校に入って三年だけれどな」
「皆黒髪だったんですか」
「だからそうした話は知らないけれどな」
この先生はというのだ。
「けれど学年主任の先生はこの学校で十五年働いておられるからな」
「こうしたこともですか」
「ご存知だと思うぞ」
「じゃあ聞いてみますね」
「ああ、そうしろ」
こう話してそしてだった。
ひかりは今度は学年主任の先生に髪の毛の校則について聞いた、すると学年主任の先生はこう答えた。
「そうした子は昔いたけれどな」
「地毛が茶髪だったりハーフの人が」
「先生もその時の校長先生や教頭先生もな」
学校の責任者達はというのだ。
「いいってなっていたな」
「そうですか」
「だって仕方ないだろ」
これが学年主任の先生の言葉だった。
「地毛だとな」
「それならですか」
「無理に染めさせたりしてもな」
「地毛だからですか」
「仕方ないだろ」
こう言うのだった。
「それこそ」
「無理に染めさせる学校もありますよね」
「そんなことはここはしない」
このことはひかりにはっきりと言った学年主任だった。
「うちの中学校はな」
「地毛ならですか」
「黒髪にこだわらないぞ」
「けれどですよ」
学年主任のその言葉を聞いてだ、ひかりは校則の話をした。
「校則では黒髪出ないと駄目だって書いてますよ」
「それか」
「はい、でしたら」
「だったら校則変えるか」
「黒髪だけにはしないんですか」
「ああ、そうしよう」
こう言うのだった。
「それじゃあな」
「そうしてくれますか」
「さもないとおかしくなるからな」
「地毛が黒髪じゃない子が困るからですね」
「そうなるからな」
こうひかりに答えて実際にだった、学年主任の先生は実際に職員会議で校則のこのことを話してだった。
それで校則が変わった、校則は黒髪限定から地毛のままでいる様にとなった。その校則の話を聞いてだった。
ひかりは微笑んでだ、こう言った。
「これはよかったわね」
「そうね、やっぱりね」
「地毛が黒髪じゃなかったらね」
その時はとクラスで友人に話した。
「困るからね」
「そう、だからね」
「変わってよかったわ」
「そうよね、若しもよ」
ここでこう言った友人だった。
「校則が茶髪限定だったら」
「黒髪じゃなくて」
「ひかりちゃんも私も困っていたわ」
見ればこの友人も黒髪だ、ショートヘアにしているがひかりのそれにも負けない位にツヤのある奇麗な髪の毛だ。
「絶対に」
「そうよね、本当に」
「逆にね」
「一つの色限定だとね」
ひかりも友人の言葉に頷いていた、自然に。
「困るわよね」
「その色じゃないとってなったら」
「地毛でその校則だったら」
それこそというのだ。
「大変だったわね」
「黒髪限定が逆に金髪限定とかになったらって思ったら」
「困ってたわ、アメリカとかでそんな校則ある学校あるかしら」
白人つまり髪の毛の色が黒とは限らない国ではというのだ、無論黒髪の白人もいるが黒髪とは限らない。
「どうかしら」
「ないでしょ」
「やっぱりそうよね」
「そんな校則アメリカであったら」
それこそとだ、友人はひかりに話した。
「大問題よ」
「茶色や赤や白の人はどうなるって」
「もっと言えば目とかね」
「カラコン入れろとか?」
「あれ目への負担大きいらしいわよ」
そうした話になっているのだ。
「だからね」
「青い目限定にしろとかね」
「問題よね」
「どうしても」
「大騒ぎになるわよ」
アメリカではというのだ。
「絶対に」
「お肌の色になると」
「アメリカで?」
「それこそ恐ろしいことになるわよね」
「人種問題になってね」
アメリカで最も注意されているこのことでというのだ。
「その学校潰されるわよね」
「確実にね」
「そこまで極端でなくても」
目や肌にまで話はいかなくてもだ。
「アメリカで髪の毛の校則なんてあったら」
「大問題よね」
「確実にね」
「お国が違っても日本でもね」
「地毛の人に無理に染めさせるとか」
黒髪でなくても茶髪でなくてもだ、一つの色に統一して。
「変な校則よね」
「毛染め駄目って言ってて黒髪に染めろとか」
「おかしいわよね」
「どう考えてもね」
「だからあの校則もね」
「変わってよかったわ」
こう二人で話すのだった、ひかりは確かに自分の黒髪が好きだ。だがそれでもそうした話はどうかと思った。
それでだ、母にも家で話をした。
「黒髪じゃなくてもいいわよね、地毛が」
「そりゃそうでしょ、金髪は金髪でね」
母もこう娘に返す。
「いいでしょ」
「そうよね、やっぱり」
「ええ、何か最近そうした話が話題になってるけれど」
「地毛ならね」
「それでいいのよ」
「そうね、じゃあ私はこれからもね」
ここでまた自分の黒髪を見た。
「私は黒髪のままでいるわね」
「そうするのね」
「よく手入れしてね」
その自慢の黒髪を維持するというのだ、こう話風呂に入った時はシャンプーもリンスもコンディショナーもして拭くのも丁寧にした、そうしつつ自慢の黒髪を大事にするのだった。
黒髪 完
2017・10・30
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