兄からのプレゼント
中崎真希はいつも兄に文句を言っている、それは当人を目の前にしてもそうだし友人達にもである。
とにかく兄のことを悪く言う、だがその彼女に周りはいつもこう指摘した。
「そう言っても顔はあまり怒ってないのよね」
「大嫌いとか言っても」
「お兄さんのいいところばかり言ってるし」
「聞いてみたらね」
「別にそんなことないわよ」
そう指摘されるとこう返す。
「私本当にお兄ちゃんのことはね」
「大嫌いなのね」
「そう言うのね」
「今もそうなのね」
「そう、大嫌いだから」
今もこう言うが顔はあまり怒っていない感じなのは実際にだった。
「何であんなにずぼらでいい加減なのか」
「けれど学校じゃ優等生でね」
「そこそこ人気あってよね」
「奇麗な彼女さんもいて」
「その彼女さんがこれまた素敵だっていうのね」
「そうよ、お兄ちゃんには不相応な位にね」
その交際相手まで褒める真希だった。
「凄い美人さんよ」
「それで真希ちゃんのこといつも気にかけてくれて」
「双子の弟さん達にもよね」
「いつも公平に優しくしてくれる」
「いいお兄さんっていうのね」
「兄弟で一番上だからっていうけれど」
兄はいつもこう言っている、家の中で。
「けれどそれが嫌なのよ」
「一人にしておいてくれっていうのね」
「そう言うのよね」
「そんなに世話を焼くなって」
「いつも言っている通りに」
「そうなの、何であんなのなのよ」
ずぼらでいい加減でその癖世話焼きだというのだ。
「困ってるのよ、私は」
「とはいってもね」
「いいところはちゃんと見てるし」
「彼女さんまで褒めるし」
「女の人を見る目があるとか」
「そんなの当然でしょ、悪い人が彼女になったらね」
嫉妬深くはないので兄の交際相手に悪意を抱くことはない、むしろいい人をゲットしたと内心喜んでいる。
「もう大変でしょ」
「悪女だとね」
「確かに困るわよね」
「それはその通りね」
「本当に」
「そうよ、だからね」
また言う真希だった。
「あの人が彼女さんでよかったわ、若菜さんでね」
「それで二人の仲も応援してるし」
「真希ちゃんいいところあるじゃない」
「こうした時邪魔する娘もいるみたいだけれど」
「兄弟の恋路に無性に嫉妬してね」
自分がいないのにだの自分の好きな肉親を獲られてだの思ってだ、こうした嫉妬もまた人間の業であろうか。
「そんな娘もいるのに」
「真希ちゃんは違うから」
「いいところあるわよ」
「いいお兄さんだってわかるし」
「真希ちゃんもそんなお兄さんが好きだってことがね」
「だから大嫌いだから」
口では否定してもその口調は尖っていないし表情も同じだ、真希の自分の兄に対する感情はこうしたものだった。
その真希の趣味は靴下集めだ、色々な長さや色、柄の靴下を集めることが好きだ。その彼女にだ。まずは彼女の兄の彼女、真希がいい人という彼女がだ。
真希と家族の家にお邪魔した時に真希にプレゼントをした、すると。
真希はその靴下、冬用の赤と白の厚い生地の靴下を受け取ってすぐに彼女に満面の笑みでお礼を言った。
「有り難うございます、大切にします」
「ええ、履いてみてね」
「明るくて可愛くて」
その靴下を見ての言葉だ。
「とても暖かそうですね」
「そう思ってね」
「プレゼントしてくれるんですね」
「可愛くあったまってね」
「わかりました」
「僕もね」
兄もいた、その彼もだった。
真希にプレゼントをした、それは靴下だったが。
白いポイントもない靴下を見てだ、真希は兄に少しぶすっとした顔になってそのうえでこう言った。
「何、この靴下」
「いや、学校に履いていく為のね」
「靴下っていうの」
「学校に履いていく靴下ってそうじゃない」
「白字でポイントがあっても一つのね」
「そういうのじゃないと駄目じゃない」
「うちの中学校は確かにそうよ」
それはその通りと認める真希だった。
「そうした靴下じゃないと駄目よ」
「校則でそう決まってるね」
「そうだけれど」
「だからなんだけれど」
「学校用の靴下はもう十着持ってるわよ」
真希は兄にむっとした顔で返した。
「それこそね」
「えっ、そんなに持ってるんだ」
「そうよ」
こう返した。
「それこそね」
「そうだったんだ」
「だからね」
「いらなかった?」
「貰っておくわよ」
戸惑う兄にまた言った。
「それでお礼も言ってあげるわよ」
「そうなんだ」
「そうよ・・・・・・有り難う」
目を逸らして顔を赤くさせて兄に言った。
「靴下。若菜さんと同じだけね」
「そう言ってくれるんだ」
「言ってあげたわよ、あと大事にするから」
このことも忘れないというのだ。
「明日早速履いてあげるからね」
「それじゃあね」
「ええ、じゃあ後はお二人でね」
兄とその彼女に言った。
「仲良くね」
「うん、じゃあね」
「これからね」
「そういうことでね、私お部屋に戻るから」
貰った二着のそれぞれの靴下を手にしての言葉だ。
「またね」
「晩御飯の時にね」
「一緒に食べてあげるわよ」
兄を見上げて告げてだった、真希は自分の部屋に戻った。二人特に兄からプレゼントを貰ったその顔はにこにことしていた。
兄からのプレゼント 完
2017・11・23
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