大激怒
 南森玲子は姉御肌で面倒見がよく曲がったことが嫌いな性分だ、その為女子サッカー部でもクラスでも家でも頼りにされているが。
 その反面だ、こうも言われていた。
「怒ると怖いんだよな」
「滅多に怒らないけれど」
「もう手がつけられないから」
「台風みたいになるから」
「怒らせたら駄目だな」
「絶対に」
 こうしたことも言われていた、それは彼女の弟三人も同じでだ。いつもよく面倒を見てもらって可愛がってもらっているが。
「姉ちゃんだけは怒らせない様にしような」
「ああ、俺達もな」
「本当に怒ったららどれだけ怖いか」
「親父とお袋よりずっと怖いからな」
「もう雷がどれだけ落ちるか」
「気をつけないとな」
 家族ですら注意する位だった、そうした彼女だったが。
 大会の一回戦の決まったと顧問の先生に言われその相手の高校の名前を聞いてすぐに言った。
「あの、その高校は」
「ええ、気をつけてね」 
 女子サッカー部の顧問の先生は玲子に真剣な顔で答えた。
「あの高校柄が悪いから」
「しょっちゅう問題起こしてますよね」
「男子も女子もね」
「大阪でも有名な不良校で」
「スポーツでも何するかわからないから」
 そうした高校だからというのだ。
「今回も出来るならね」
「あたりたくなかったですね」
「けれどあたったからにはね」
「仕方ないですね」
「怪我がない様にね」
 相手のラフプレイを受けてだ。
「そうして勝っていきましょう」
「わかりました」
 こう答えるしかない玲子だった、そしてだった。
 その試合がはじまったが危惧された通りだ、相手校は危惧された通り次から次にラフプレイを行った、それでこちらの選手は何人も痛い思いをした。幸い怪我人は出ていないが審判の目を盗んでのそのプレイにだ。
 玲子は怒りを感じてだ、チームメイト達に言った。
「思っていた通りよね」
「ええ、ふざけたことしてくれるわね」
「本当にね」
「もう手が出る足が出る」
「審判さんの見えないところでね」
「徹底的にやってくれるわね」
「腹立つわ」
 玲子はこちら側を不敵な笑みで見ている相手を見据えて言った。
「お陰で攻めていてもね」
「攻めきれてないわね」
「お互い得点なしで前半戦終了よ」
「こんなのだと後半もね」
「一体どうなるか」
「わかったものじゃないわね」
「どうしてやろうかしら」
 玲子は怒った顔で言った。
「ここは」
「いや、怒らないでね」
「玲子ちゃん怒ったら凄いから」
「乱闘とかしないでね」
「やったら終わりよ」
「出場停止ものだから」
「わかってるわよ、けれどどうしてもね」 
 腹立ちが収まらない顔だった、明らかに。
「やり返してやりたいわ」
「じゃあ勝ちなさい」
 顧問の先生が怒ろうとする玲子に言った。
「いいわね、そう思うならよ」
「サッカーの試合だからですね」
「そうよ」
 その通りという返事だった。
「そうしなさい、わかったわね」
「怒ってもですね」
「そうよ、オーバーラップしてもいいから」
 玲子がディフェンダーであることからの言葉だ、背番号は二だ。
「いいわね、どんどん攻めなさい」
「そうしていいんですね」
「サッカーでのことはサッカーでやり返しなさい」
 こう言ってそしてだった、先生は玲子の怒りをそちらに向けさせた。そして実際に玲子は後半戦がはじまるとだった。
 オーバーラップしてだ、群がる相手チームの選手を怒涛のドリブルで弾き返していってそのうえでだった。
 一点入れた、そして攻めて来た相手からボールを奪うとまた前に出てそのうえでまたシュートをしてだった。
 二点目を入れた、二点目を入れて十分後にこちらがボールを確保すると玲子は前に向かって駆けつつ叫んだ。
「私に回して!」
「また決めてくれるのね!」
「ええ、決めるわ!」
 ボールを持っているチームメイトに言う。
「そうするから!」
「わかったわ、お願い!」
「ええ、任せて!」
「させるかよ!」
 相手チームの面々がそれを聞いて玲子を防ごうとする、しかし玲子はまだ怒りが収まらずにだった。
 その相手を吹き飛ばしていってだ、遂にだった。
 三点目も入れた、何とディフェンダーでありながらハットトリックを達成して試合を決めてしまった。
 玲子は試合が終わってだ、会心の笑顔で言った。
「やってやったわね」
「ええ、酷い相手だったけれどね」
「勝ってね」
「仕返ししてやったわね」
「やられた分ね」 
 チームメイト達も玲子に応える。
「玲子ちゃんやったわね」
「ハットトリックで勝負決めたわね」
「やったじゃない」
「仕返ししてやったわね」
「これでいいのよ」
 先生も玲子に言う。
「サッカーでのことはね」
「サッカーで、ですね」
「やり返すべきなのよ」
「怒ってもですね」
「今の風でいいの、またああした相手が出て来たら」
 ラフプレイばかりする悪質なチームとの試合になってもというのだ。
「今みたいにして怒りを発散させるのよ」
「今度からそうします」 
 笑顔で応えた玲子だった、ハットトリックを決め勝利をもぎ取った彼女にはもう怒りが消えていた。だがこの話を聞いてだった。
 弟達は家でだ、こう話をした。
「姉ちゃん怒らせるからだよ」
「だからそのチーム負けたんだよ」
「ハットトリック決められたんだよ」
「そうなったんだよ」
「自業自得だよ」
「姉ちゃん怒らせたからだよ」
 その結果だというのだ。
「本当にな」
「そんなことするからだよ」
「馬鹿な連中だな」
「姉ちゃん怒らせるなんてな」
「鬼出させた様なものだよ」
「だから叩きのめされたんだよ」
 それで負けたというのだ。
「本当にな」
「その結果だよ」
「やれやれだな」
 こうしたことを話してそしてだった、彼等はそのチームの連中が負けたのをよくもまあと強く思った。
 そうしてだ、彼等の中で話した。
「俺達もこれからも気をつけないとな」
「姉ちゃんは怒らせない様にしないとな」
「さもないとあのチームみたいになるからな」
「叩きのめされるからな」
「それもサッカー以外だとリアルで」
「そうならない為にもな」
 是非にと言うのだ、そのチームの話を聞いて自分達の教訓にもした。姉だけは怒らせてはならないと。


大激怒   完


                   2017・11・24

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